高校生!社会、政治を考えよう!

高校授業料無償化制度の改正を考えよう

(2013年12月16日)

高校無償化は、2009年の政権交代で誕生し、2012年12月まで続いた民主党政権が、「学びの権利は平等に保障されるべき」であるとして、施行された政策です。民主党政権は、本格的な市民社会の到来と期待された政権で、高校無償化政策は、すべての人が公共を担おうという「新しい公共」の考え方の、一つの大きな柱とされていました。この政策により、義務教育としての中学校までの無償化が、高校までに伸びたことになりました。その制度が、自民党の政権に代わり、約一年後の2014年度より、所得制限が設けられることになりました。

 

それは、どのような意味があるのでしょうか?

 

大学生など少し年上の先輩との対話をしていくことで、高校生の意欲を引き出す授業を行う認定NPO法人カタリバ。今回は、カタリバが特別に行ったカタリバ大学(元文科省・寺脇研さんが学長)での、民主党議員の細野豪志元幹事長と高校生との討論を紹介しましょう。テーマは、今年から始まった高校授業料の無償化制度が改訂された問題について。

 

※高校授業料無償化について詳しくはこちら

文部科学省のサイトです。

 

ゲスト:衆議院議員 細野豪志

カタリバ大学・学部長:石黒和己(カタリバスタッフ、教育学部に所属する大学2年生)

カタリバ大学・学長:寺脇研(映画評論家で元文部官僚)

参加者は、高校生、教育学部の大学生から、大人まで約40人

 

カタリバ大学 第57講 教育学部シリーズ 第三弾
「細野豪志さんと、高校無償化について考える。」から

第1部:細野さんに聞く

寺脇研氏
寺脇研氏

寺脇氏(カタリバ大学・学長):

今日は細野豪志さんに来ていただき、高校無償化について、考えていきたいと思います。

 

今年2014年4月から、今まで一律無償だったのが、所得制限が設けられて、親の年収が910万円以下の場合、高校にて申請すれば、無償化という形になります。さらに、私立高校等については、年収に応じて加算支給と言ってさらに上乗せされて支給されます。

 

では、なぜ所得制限が設けられたのか、どのような国会の議論があったのかを、細野さんに説明してもらいましょう。

 

高校授業料無償化は、社会全体で教育を支える制度

細野豪志氏
細野豪志氏

細野氏:

私は、民主党の衆議院議員で、文部科学委員会という委員会に入って、教育に関する問題を議論していました。その委員会で、この国会で一番議論になったのが、いわゆる高校授業料無償化に関する法律です。この議論の経緯を見ていて本当に残念だと思いました。そして、この議論が特に高校生のみなさん、若い世代のみなさんに伝わっていないとすれば、本当に残念だなという思いがあります。

 

国会の議論ですが、なぜこれが議論になったのか。これは明確です。政権が変わったから。もう政権が変わって1年が経つので、我々が泣き言を言ったりしてもしょうがないのですが、自民党が公約で掲げた「高校無償化については所得制限を設けます」ということが実現されたのですね。さかのぼると、「高校無償化」は、民主党政権が一番初めに実現した制度の一つでしたが、その際自民党からは、これはばらまきである。特に高所得者に対する高校無償化はばらまきである、という批判がなされました。

 

もう一つ言えば、基本的には「自助自立」という考え方があって、高校についても家族の所得に余裕がある人には授業料を払ってもらおうという発想が今の政権にはあるのですね。あらためて、各国の状況を調べてみました。OECDの先進国では、イタリアと韓国と日本だけが無償化していなくて、珍しいと言われていたのですが、ものすごく昔から無償化をやっている国が結構あるんです。例えば、アメリカ。マサチューセッツ州は1827年に無償化している。フランスは1933年、イギリスはイングランドとウェールズは1944年に実施しています。1944年と言えば、まだ第二次世界大戦中で、おそらく、それほど豊かでなかったであろうイギリスで無償化をした。これはすごいなと思いました。また、高校が義務教育になっている国が増えてきました。例えばドイツは18歳まで義務教育。アメリカは17歳、フランスやイギリスは16歳まで。

 

つまり世界では、高校生ぐらいまでは社会が教育の機会を与えるべきで、義務教育か、もしくは義務教育でないけれども社会全体で支えるべき制度という合意が確立されているのです。日本では、高校無償化が自助自立の対象として再度浮上してきて、申請しない限り無償にならないという議論が国会で行われたということが本当に残念です。若い人たちにも考えてもらった方がいいなと思いました。

 

高校へ安心して通えることが国の財政の中でどれだけの優先度かという問題

寺脇氏:

確かに金持ちにまでお金を出す必要はあるのか、という考え方もあります。それならば小学校や中学校だって金持ちからは費用をとればいいではないか、という考え方があってもいいのだけど、そうではない。小・中学校では教科書は無償ですが、それは、社会全体が、君たちを支えているんだよ、君たちに勉強してほしいと思っているんだよということを伝えるためにやっているのです。というのがこれまでの説明でしたが、(今回の高校無償化の所得制限のように)やるけど全員じゃない、という制度というのは、日本の戦後の教育制度の中では初めてなのですよ。その意味を真剣に考える必要があります。

 

細野氏:

低所得の人たちにもっと手厚くすべき、という主張には頷けます。でも、私が反論したのは、ではその予算は別のところからとって来てほしいということ。民主党政権のときに、我々は、道路の予算などを削り、高校無償化を実現しました。だから、自民党政権にもどこかから予算を削って、持ってきてほしい、と主張しました。財務省には「pay as you go」という原則があり、何かを実現するときには自分たちの中で完結してお金を作りなさいという理屈があって、その考え方に基づくと、高校無償化の範囲の中でやりなさい、ということになります。それで、今の政府は、低所得者の皆さんへの対策のために、高所得者の無償化をやめることでお金を作ろうとしたのです。このやり方は実は大問題なのです。このことによって、高校の中に階層ができてしまう。授業料を払う人と、無償化の人、さらに上乗せされる人、というように。

 

寺脇氏:

民主党政権時、“コンクリートから人へ”ということで、くだらん公共事業を止めて高校授業料無償化の予算を持ってきたわけです。その時は財務省は高校授業料を無償化するのに文部科学省の他の予算を削りなさいとは言いませんでした。それは全体的に見て他所から持ってくればいい話で、だから、それはもっと大きな議論なのです。防衛予算や公共事業はどうするのか。あるいは文部科学省の中で言えば、オリンピック誘致や宇宙科学開発は必要があるのとか。そういうものの中で、高校へ子供たちが安心して通えるということがどれほどの優先度なのか、という話なのです。

 

<質疑応答>

社会全体で学びを支えるという理念を、もっと説明すべきだった

会場から(男性):

民主党政権時に民主党内にも所得制限をかけろと言う人がかなりいらっしゃったと聞いているのですが、それはどうお考えですか。

 

細野氏:

党内にもその議論はありました。当時、「子供手当」にも所得制限を設けようという意見もありましたが、我々は設けませんでした。なぜかと言えば、高校無償化と同様に、「社会がやる」という理念は変えるべきではないということです。

 

その議論をしたときに、私などが言ったのは、これは社会の理念なのだから、そこをきちんと伝えるべきだと。だから、子供にも高校生にも伝えるべきで、“あなたが高校で無償で学べたり、子供手当をもらえたりするのは、社会が支えているからなのだ”と。子供にも伝えられる、理念のある柱となる政策なのだということを伝えるべく頑張りますと。ただ、その理念を民主党の中でもわかっていなかった人、きちんと説明できなかった人たちがいたかもしれません。それは、大いなる反省です。

 

寺脇氏:

それは当事者である高校生にも伝わらなかった。でも、本当はそれは伝えられたのですよ。3月半ばに決まったら即、学校を通じて生徒に伝えるものを作って全国にバッと流せば、学校でできます。

 

細野氏:

そういうものは作ったのですよ。「社会全体であなたの学びを支えます」というチラシを配っています。

 

寺脇氏:

これが現場の高校生には届かなかった。もらう側への説明と同時にもう一つ大事なのは、国民全体にも、みんなが高校生を支えるのですよとか、みんなの力で小さい子供たちの子供手当をやるのですよ、という国民への説明というのもちょっと不十分でした。

 

少ない教育予算。教育を社会が支える考えが定着しない

会場から(女性):

日本の教育予算が外国に比べて少ない、という話をよく聞くのですが、それがどれくらいか、それをどう増やしていこうかと思っているのですか。

 

細野氏:

教育費は、極端に少ないです。今、GDPの0.4パーセント程度。5兆円にはるかにいかないので、本当に低い。それは例えば、大学なども本当は奨学金を確立して、希望する人はみんな行ける、もしくは親に頼らずに行けることによって、なぜ学ぶのかを考えられる、ということを伝えられるような制度にすべきなんですが、これもまだ十分ではない。

 

今の下村文科大臣も教育費が少なすぎると言っていて、5年後、10年後にはもっと増やしたいという目標は作ったりしていますが、日本の財政が厳しいのでまだ増えるという感じではない。残念ながら、今年は教育費を減額してしまった。そういう意味では危機的状況にあります。

 

寺脇氏:

私は無償化になった時によかったなと思ったのは、親から誰のおかげで学校に行っているんだと言われたときに、いや、あんたのおかげじゃなくて国民の皆さんのおかげで行っているのですよと言えるようになったこと。なにも親子喧嘩を煽っているのではなく、なぜ学校に行っているのか、自分のためでもあるけど、社会のためなんだよと思ってもらえればいいなと思ったんです。

 

細野氏:

いろんなアンケートや世論調査を見ると、高校無償化に所得制限を設けることに関して言えば、結構、支持率が高い。これは日本の社会全体の中にまだ残っている、一つの通底している考え方なのかなと思います。しかし、将来、子供を経済的に育てられるかと、躊躇している人もたいへん多い。その際、もちろん親も最大限の努力はするけど、子供は社会が育てるという理念が確立した国であれば、子供を産んで育てたいと思うのではないでしょうか。

 

寺脇氏:

国や自治体だけではなく、民間企業やNPO、学校で言えば私立の学校なども含めて、すべてが公の役割を担おうという「新しい公共」という考え方があって、それに立てば、言うまでもなく教育も社会が支える、となるのですが、そこがちょっと定着しなかったですね。

 

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