みらいぶ発! Think the Future

今、もう一度、考えてみた! 「地球温暖化」

"今"の自分たちのための経済発展か、"未来"の子どものための持続可能な社会か

向上高等学校(神奈川県) 新聞部

深刻な環境問題の一つである地球温暖化。大干ばつや台風発生数の増加、さらには生物の絶滅までも引き起こすこの問題は、人間が出す二酸化炭素などの温室効果ガスが大きな要因になっている。そのことは、我々高校生の中でも広く周知されているが、それを減らすことが産業の停滞をもたらしたり、結果が目に見えなかったりするため、現実的な対応が不十分なのが現状だ。

 

  地球温暖化とは


2100年までに6.4℃上昇!?

二酸化炭素など温室効果ガスが主要因

地球温暖化により、世界の平均気温が1906年から2005年の100年間で0.74℃上昇。97年以降の観測では、10年で0.12~0.22℃上昇していることがわかっている。


これは温暖期や小氷河期を繰り返した2千年~千年前の温度変化でも見られない急激な変化で、このまま進むと2100年の気温は、1980年から99年の平均気温に比べ、6.4℃上昇するとのショッキングな予測を、国連の気候変動に関する政府間パネル(PCC)が発表している。


地球温暖化が叫ばれ始めたのは1970年代。地球寒冷化の可能性が取りざたされ、科学的調査が行われた結果、地球規模で気温、海水温が上昇していることが確認され、地球温暖化が進んでいることがわかった。


地球温暖化の要因としては、近年急増している二酸化炭素をはじめメタンや亜酸化窒素などの温室効果ガスが挙げられる。そのほかに、地球の温暖化と寒冷化のサイクルが関係していることも指摘されているが、温暖化が産業活動の発展にともない進んでいることから、温室効果ガスの影響が大きいのは間違いないようだ。


地球温暖化は、平均気温や海水温が上昇する現象ととらえがちだが、温暖化が進むことで乾燥化が進んだり、海流や気流に変化が生じたりするなどの影響により、地域によっては寒冷化が進むことも知られている。

 

 

  どんな影響が


降水量の増加や干ばつなど世界各地で

南方の島 ツバルは消滅の危機に

地球温暖化の影響に関しては、未だその現象との関連性が科学的に証明されていなかったり、複合要因があるとされたりするものが多い。主なものとしては、地球規模での最高、最低気温の上昇、北極域の気温上昇にともなう海氷面積の減少による海水面の上昇、竜巻の発生頻度の上昇、降雨量の増加や大規模な干ばつなどがある。


この中で海水面上昇は、今世紀中に1~2mとも予測されており、南太平洋の島国であるツバルのフナフチ島のように海抜の低い島では、島の各地で満潮時に海水が地面から吹き出てきたり、島自体が海に水没したりする危機にさらされている。


また降雨量の増加は、昨年のタイ大洪水など、東南アジアで深刻な事態をまき起こしている。その逆に大規模な干ばつは、オーストラリアやアフリカなどで起きており、深刻な食糧不足に繋がる大きな問題となっている。


また米国では、南東部、東部の海水温度の上昇によって竜巻の発生域がこれまでに起きていなかった南東部、東部にまで広がっている。


台風の発生との関連については、まだ不明な点が多いが、その発生域が、北上していることや、規模が大きくなってきていることを指摘する研究者は多い。


生態系に影が

 

ホッキョクグマやアザラシといった寒冷地の生物減少や生物の生息域の変化、南国の外来種が寒い国で繁殖していることが確認されるなど、地球温暖化の影響は、生物にも大きな影響を与えている。


特に近年問題とされているのが、地球温暖化にともなう外来種の増加だ。以前は南国の生物は、寒い国では死滅してしまうので問題とされなかった。しかし地球温暖化の影響で繁殖までしており、日本でも猛毒を持つセアカゴケグモの繁殖が確認され、話題となった。また南国の蚊を媒体とするマラリアの感染報告が北上してきている。


生息域を広める生物がいる一方で、平均気温、海水温の上昇により、深刻な被害を受けている生物もいる。例えば、海洋生物では、沖縄などでサンゴの白化が確認されているほか、大西洋におけるマダラの減少数は、人間による資源保護が追いついていない。


今後も海水温が上昇し、現在の海水温に比べ4℃以上の上昇がおこると、海洋生物の絶滅種が深刻な量に上ると考えられている。

 

 

街路樹枯らすキノコが大量発生  神奈川県でも横浜で被害が

温暖化の影響で全国各地で、ベッコウダケと呼ばれる木に寄生するキノコが大量発生し、問題になっている。ベッコウダケは、主に桜などに寄生して、木の栄養を吸い取り、成長を妨げるだけではなく、木の腐食化を促進させる。

 

ベッコウダケが原因とされる倒木は、栃木県や東京都などで報告されており、神奈川県内でも横浜市美しが丘で街路樹が大量に枯れるといった現象が起きるなど深刻な事態にもなっている。これらの事態を受け、東京都は不健康な街路樹を早期発見し、治療をしやすくするための街路樹診断を都内で実施した。その結果、検査木1900本中540本に腐食を発見。それに対し街路樹の伐採や植え替え、支柱の設置処置等が行われた。

 

 

生息域に変化 サケは遡上が減 日本近海の温度上昇で

魚の生息域が変化していることが観測されるなど、日本近海の水産資源にも温暖化が一因と考えられる影響が出ている。


日本近海の海面温度は、この100年間で、0.61~1.73℃も上昇しているという。この水温変化は、自然の温度変化のサイクルに温室効果ガスが増加した影響が加わったことによるとされている。その結果、近海魚の生息域が北に移動。京都大学の観測によると北陸沿岸の魚の生息域が30年で300km北上したという。また低水温を好む魚が今までの漁場で捕れなくなったり、サケの遡上数が減少したりするなどの現象も起きている。今後20年で海面温度は0.4~1.2℃上昇と試算されており、30年後以降種の絶滅が起きる2℃の温度上昇を超える可能性も出てきている。


独立行政法人水産業総合研究センターの山田薫さんは、「海の環境は多くの要因が複雑に関係しているので、温暖化の影響と断定することは難しいのですが、海水温の上昇は、必ず大きな問題になってきます」と顔をしかめた。

 

 

夏野菜ににひび割れなど 心配されるさらに大きな影響

温暖化は、農作物の生育にも影響を与えている。白菜などの冬野菜は、温度の上昇により生産地域を拡大できたり、冷害が少なくなったりするため、生産しやすくなるが、夏野菜では、商品価値を下げてしまうほどの問題が生じている。

 

トマトやナスなどの夏野菜は実をつけたのち、高温が続くと裂け目やひび割れなどが生じやすくなる。また高温下では、花の芽の付きも悪くなり、一つの苗からとれる数が少なくなってしまう。それに対応した品種改良も進められているが、高温に強い品種をつくることは難しく、ビニールハウスの遮光対策や換気、気化熱を利用した細霧冷房など、育成環境を人的に整える手段で対応せざるを得ない。その分のコストは高くなる。

 

独立行政法人農研機構の野菜茶業研究所上席研究員の岡田邦彦さんは、「これから地球温暖化が進むどうかはわかりませんが、気温の上昇で農作物への影響が出てきています。温暖化については深刻な状況になる前に何か対応が必要です」と真剣に語った。

 

 

 

  政策は?


COP18 ドーハで開催 / 京都議定書 延長決めたが・・・

国連気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)が、2012年11月26日から8日までカタールのドーハで開かれた。この中で、京都議定書を8年延長(第2約束期間)する等の「ドーハ合意」が採択された。しかし、全排出量の半分を占める米国、中国、インドが参加しないことを理由に、日本は京都議定書の第2約束期間に参加しないことを表明した。


今回の会議で注目されたのは、今年で期限切れとなる京都議定書の扱いだった。1997年京都で開かれた第3回同会議で採択された京都議定書は、先進国が90年を基準に今年末までの排出量の削減率を国別に定めたもの。6%の削減義務が課された日本は、海外からの排出枠の購入等により、目標を達成する見込みだ。


京都議定書は温暖化防止に初めて世界各国が協調して取り組む画期的な内容だったが、米国、カナダが自国の経済を守ることを理由に2001年に離脱。さらに第2約束期間に参加しない国が増えたことで、その意義はさらに薄れてしまった。

 

 

産業界は消極的 / 「非現実的」と環境政策を批判

石油連盟、電気事業連合会など日本の産業界は、11月、共同提言として「国内外のエネルギー・環境政策に向けた産業界の提言」を政府に提出。エネルギー政策を非現実的と批難すると共に、COP18において二酸化炭素削減の中期目標を確定できる状況にないため、諸外国への理解を訴えるよう要望した。


日本の産業界の経営状況は、歴史的な円高、震災によりたいへん苦しい状況になっている。これに対し政府の「革命的エネルギー・環境戦略」やCOP18には、各企業に負担を求める内容が盛り込まれていることが、産業界が受け入れを拒む理由になっている。


産業界では、これらに反対するその一方で、自主的な省エネ努力や環境・省エネ技術、CO2削減製品、サービスの普及に努めるとしている。

 

 

  生徒アンケート


「早急に対処すべき」と答えた人は77%。高い意識にともなわない行動

本校生徒290人を対象にアンケートを行ったところ、地球温暖化が進むことについて「早急に対処すべき」と答えた人は75%。温暖化に対する高い危機意識を多くの人が持っていることがわかる。


温暖化による地球への影響について「よく知っている」、「大体知っている」と答えた人は82%に上り、もたらされる深刻な問題として「海水面の上昇」や「猛暑」、「大雨」を挙げる人が多かった。


日常生活では温暖化の影響を感じるか聞いたところ、「夏の猛暑」や「大型台風の上陸回数の増加」などを理由に43%の人が「ある」と答えた。


このため、国際的な地球温暖化防止への取り組みや対策について、「必要」と考えている人は63%に上る一方、京都議定書について「知っている」と答えた人は50%に留まった。また、温暖化防止への取り組みについて「行っている」と答えた人は33%、「行っていない」と答えた人は67%で、高い危機意識があるにもかかわらず、日常生活の中で、具体的な行動に移せていない状況があることが浮き彫りとなった。

 

 

  対策は?


学科の枠を越えた取り組み開始

神奈川工科大学「KAIT Stop the CO₂ Project」

学生に幅広い知識と研究の場を提供

神奈川工科大学では2009年から、地球温暖化などの環境問題に対応した学部学科の枠を越えた横断型の教育プログラムとして、「KAIT Stop the CO₂ Project」 を実施している。このプログラムの発案者である工学博士の鳴海明先生は、「地球温暖化をはじめとする環境問題への対策は待ったなしです。しかし環境問題の解決には、多面的な知識が必要とされるので、一つの学科で解決できるものではないと考え、このプログラムをスタートしました」と話す。


同大学は、2008年4月「ECO活動宣言」と銘打ち、独自に決めた「エコ・マニフェスト」を守る取り組みをしたり、学生ボランティアサークルの「ECO推進チーム『みどり』」を発足させたりするなど、環境問題に積極的に取り組んできた。


「KAIT Stop the CO₂ Projecte」は、4年間を通じて毎週土曜日、学生が自ら研究テーマを設定して実験、研究をしていくもので、単年で単位も出される。当初30名程度を想定していたが、初年度、参加を希望した学生は70~80名に上った。今では120名が参加しており、鳴海先生などの関係者は、学生達の関心の高さに驚いたそうだ。なお、この活動を4年間続けた1期生12名には、修了証書が授与される。


鳴海先生は、「温暖化などの環境問題を常に意識し、コントロールできるようにしておく必要があります。そのためにも今後も、学生が幅広い知識を身につけ、研究する場を提供したいと思います」と笑顔で話した。

 

 

神奈川アジェンダ推進センター 山本和代さん

「面倒くさがらずに一つひとつ」

コンセントを抜くことなどから始めよう

神奈川アジェンダ推進センター環境相談員の山本和代さんは、「個人個人が、面倒くさがってしまうことが、二酸化炭素の排出量増加に繋がります。生活のあらゆる点に地球温暖化を促進してしまう行為が隠れているので、一つひとつ意識して行動することが大切です」と話す。


横浜駅近くにある神奈川アジェンダ推進センターは、地球温暖化防止を目的に、二酸化炭素の削減を目指し、2002年に発足した。同施設では環境に関する資料やDVDの貸し出し、講座やセミナーの開講などを行っている。さらに、チャレンジシートという自発的にエコに取り組めるようなシートも用意して、県民のエコ活動の啓発を行っている。


山本さんによると、見逃されがちな電気の無駄使いが意外と多いという。例えば、携帯電話やポータブル音楽プレーヤーなど、充電が終わっているにもかかわらず、充電器をさしたままにする行為。やってしまいがちだが、充電終了後も充電器には電気が流れているため、金額ベースでは1年間に千円程度の無駄になるという。また、エアコンも、コンセントが一年中使わないときでも指したままになっていることが多い。この場合は、年間約3千円分の電気の無駄消費に繋がるそうだ。山本さんは、「家にある電化製品のコンセント状況を今一度確認してください」と真剣に訴えた。

 

 

本校は冬の節電で貢献 エアコン設定温度20℃に

暖房などで電力消費量が夏同様多くなる冬を迎え、本校では、エアコンの設定温度を20℃にするなど、夏と同様に節電に取り組んでいる。

 

今夏、東日本大震災以降続く電気不足への懸念から、全国の電力会社は節電を訴え、事業主に対しては15%の節電義務が課された。学校にその義務は課せられなかったが、本校では昨年に引き続き、エアコンの設定温度を27℃にし、蛍光灯の一部を外すなどして節電に努めた。その結果、前年比20%を達成した昨年とほぼ同等の節電をすることができた。


それを受けて暖房費等による消費電力が増加する冬も、昨年並みの節電をすることを決定。暖房を室温が17℃以下までつけず、設定温度も20℃にすることのほか、教室のカーテンや出入り口の扉を閉めて教室内の気温の低下を防ぐことを徹底するように働きかけている。


長岡豊教頭先生は「放課後、誰もいない教室の蛍光灯や空調機器がついていることがあります。電気料金が値上げされました。これからも注意を呼びかけ、これまで以上に徹底して無駄を無くしていきたいと」と力強く語った。

 

取材後記
軽視されがちな目に見えない問題
関心を持ち取り組み続ける努力を


「地球温暖化」の特集を企画したのは、原発が停止し、火力発電がフル稼働している状況に対して、二酸化炭素排出量が増えることがマスコミでもあまり触れられていないことに、疑問を感じたからだ。


今回の取材を通して、改めて地球温暖化が着実に進行しているとともに、深刻な影響をもたらす問題であることを実感した。農業においても、水産業においても、関係者は環境の変化に危機感を募らせていた。予測データではあるが、このままのペースでいくと、2100年には地球の平均気温が6℃以上も上昇するという話には、大きなショックを受けた。


世界各国も温暖化の問題が待ったなしなことはわかっている。今月カタールで開かれたCOP18でも多くの時間を使って、温室効果ガスの削減について話し合われた。しかし、自国の経済成長を優先したいなどの思惑から、明確な決定事項はほとんど先送りとなった。日本国内に目を向けても、産業界はこの規制に対して経済活動に支障をきたすと反応は鈍い。


京都議定書の削減目標の8年の延長にも、日本は不参加を表明している。「目に見えない環境問題より、今の生活」というのが本音だろう。しかし環境問題は目に見えてからでは取り返しがつかないことになってしまう。個人で行う省エネの効果は小さいかもしれないが、高い関心を持って続けることは大切だ。(鹿島)

 

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