地球時代、今を生きる学問

学校の中の人間関係を学問する

第1回

大学で学問をするということ

鈴木 翔(東京大学大学院教育学研究科院生)

(2013年3月掲載)


大学の勉強って高校までの勉強と違うの? 塾講師のアルバイトをしているときに、進路に悩んでいた高校生からこんな質問をされたことがありました。そのとき僕はうまく答えられませんでした。それは当時、大学に入ったばかりの僕自身が大学でする勉強をよくわかっていなかったからです。でも今ならそんな質問に少し答えられそうな気がします。もう何年も大学というところに居座っているのですから(笑)。 今回の連載では、高校生の皆さんに、学問をすることのおもしろさを少しでもわかってもらえたらと思い、学問とは何か、みんなどんなことをしているところなのかを少しずつお話していけたらと思います。

 

僕自身、高校までにしてきた勉強と違うのは、テストで良い成績をとるため、あるいは大学に入学するために一生懸命知識を暗記することでした。とにかくいっぱいテストに出そうな知識や問題の解き方を頭につめこんでテストに臨む。そのために勉強していました。もちろん大学でも、高校までと同じく知識があることは非常に重要です。それは高校までの勉強と変わりません。ただこれまで明らかになっていることをわかった上で、これから明らかにしようとしていることを明らかにするのが、大学の勉強で、学問と呼ばれるものなのではないかと思っています。

 

 

「素朴な疑問」をとことん追求するのは楽しい

 

しかもこれから明らかにしようとすることは、誰も明らかにしていないことであれば、だいたい何でもいいようです。学問領域で追求されてきたテーマで明らかになっていないことならなおよい。少なくとも僕は、研究テーマを変更するように指導されている人を見たことがありません。たいそうな題目がついている論文だって、書いている人に聞いてみると、「素朴な疑問」から出発していることが少なくありません。そうした「素朴な疑問」を学問領域の中の確からしい手法でとことん追求するのが、学問と呼ばれるもののようです(大御所の大先生方の研究の問いを「素朴」なんて言ったら怒られそうですが…)。

 

多くの大学では、卒業論文(卒論)でその追求した結果を発表することが卒業要件となります。難しく感じるかもしれませんが、自分の興味があることをとことん追求できるのは本当に楽しいです。大学では、いろんな人がいて、様々なテーマを追求しています。僕は所属しているのは、教育学部ですから、学校や教育に関するテーマを追求している人が多いのですが、みんな自分の中にあるいろんな疑問をそれに見合った方法でとことん追求しています。たとえば、「理科の実験は普通の授業よりも楽しいけれど、理科で実験ばっかりやってたら、テストの成績はどうなるのか?」だったり、「不登校の経験がある生徒を受け入れている学校の生徒はなぜ不登校にならないのか?」だったりです。高校までの勉強とは少し違う感じがしませんか。

 

しかもさらにおもしろいのは、そうした「素朴な疑問」を追求した結果が、意外とこれまでの学問の蓄積にはない知見だったりするので、学問の貢献になったりすることです。ですから、その知見が少し違うテーマの研究をしている人にも影響を与えたりもします。大学での研究は、みんな自分の中にあるいろんな疑問をそれに見合った方法で追求し、それを発表してコメントを貰う。そしてさらに良い知見を生み出す、ということの繰り返しです。


今感じている「素朴な疑問」を大学に入るまで大事にとっておいて

 

僕の場合の素朴な疑問は、「学校の人間関係ってなんであんなに大事だったんだろう」ということでした。もちろん楽しいこともいっぱいありましたし、不満をずうっと抱えて過ごしていたわけではありませんでしたが、今考えると異常なくらい人間関係に神経を張り巡らせていたような気がしたからです。さらになぜそんなに大事だったのかを考えると、うまく説明できません。ですから、「学校の人間関係ってなんであんなに大事だったんだろう」という素朴な疑問が、僕の研究の出発点になると思います。

 

たいそうな研究に見えても、実は素朴に感じている疑問から出発していることが少なくありません。ですから、今みんなが感じているような「素朴な疑問」を大学に入るまで大事にとっていてもらえたら嬉しいです。大学の先生は、今みんなが感じている疑問の答えを見つけるためにきっといろいろ協力してくれるはずです。それに、みんなが今感じている疑問は、学問を発展させるための重要な問いになっているかもしれません。

 

次回からは、僕がこれまでどういうふうに学校の人間関係を学問してきて、どのようなことを明らかにしてきたのかを少しずつお話していきたいと思います。これから大学に入るみんなに少しでも参考になるところがあるとうれしいです。

 

プロフィール

鈴木 翔(すずき しょう)

東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻博士課程在籍

 

研究領域は「スクールカースト」。学校やクラス内でのグループ同士の力関係や、モテ・非モテと友達関係など、生徒たちが感じる世界観を社会学の目で研究している。著書に教室内カースト」(本田由紀氏との共著)光文社新書。

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