地球時代、今を生きる学問
石田 秀輝(東北大学大学院環境科学研究科教授)
(2013年3月掲載)
エコ・ジレンマを解決するためには、地球環境問題について考えておかねばなりません。では、地球環境問題とは何か? と聞かれたら皆さんはどう答えますか。 地球温暖化、生物多様性の劣化・・・・色々な答えがあると思います。ただ、ここでは地球温暖化も生物多様性の劣化も地球環境問題とは呼ばないことにします。それらはリスクと呼びます。今、私たちの周りには、社会科学的な問題を除き、7つのリスクがあります。それは、(1)資源の枯渇、(2)エネルギーの枯渇、(3)生物多様性の劣化、(4)食料の分配、(5)水の分配、(6)急激に増える人口、(7)地球温暖化に代表される気候変動です。例えば、地球温暖化が環境問題だと考えている人はどのような解決方法を提案するでしょうか?
「良かれと思って開発すると、予想しなかった新たな問題が起こる」の繰り返し
2010年に開催された第1回気候工学国際会議では、成層圏に硫酸エアロゾルをまく(硫酸エアロゾルは光を分散させる効果がある)、150万kmの宇宙のかなたに300万km2の傘をさすというアイデアも出ました。皆さんはこのアイデアをどう思いますか? エアロゾルをまくことも、日傘をさすことも、地球の温度を下げるという点では効果があるでしょう、でもその結果、太陽の光があまり届かなくなれば、地球の気候は大きく変わるかもしれません。
海水は蒸発しにくくなり、雨が降らなくなります。そもそも光合成によって育っている植物や、それらと共生して暮らしている虫や動物たちへの影響ははかり知れないものになるかもしれません。生物多様性に大きな影響を与えることは確実です。もちろん巨大な傘を宇宙へ運ぶためには、膨大なエネルギーや資源も必要になります。
7つのリスクはお互いに関係しあっています、その一つひとつを知ることは極めて重要ですが、そのどれかが地球環境問題だと考えることは、どうやら正しくないようです。テクノロジーの進歩は、トレードオフ(※)の繰り返しだと言われています。良かれと思って開発すると、予想しなかった新たな問題が起こる、それを解決しようと思うと、また新たな問題が起こる・・・・地球温暖化が環境問題だと考えて解決策を考えると、全く違うところで問題を起こす…まさに、同じ構造なのです。地球環境問題への対応とは、トレードオフを最小にする答えを見つけることです。従来とは全く違った視点でテクノロジーを考えなくてはならないのです。
※トレードオフ:一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態 ・関係のこと
地球環境問題とは人間活動の肥大化
では、そもそも地球環境問題とは何か? それは、間違いなく人間活動の肥大化なのです。ちょっとした利便性を得るために、大量のエネルギーや地下資源を使う、その繰り返しが、幾何級数的な環境負荷となり、100年前はリスクではなかった、エネルギー、資源、生物多様性、食料、水、人口、気候変動をリスクにしてしまったのです。
そして、この7つのリスクは、このまま何もしなければ2030年頃限界に達する可能性も高いと考えています、残された時間はあまりありません。こう考えると地球環境問題は人間活動の肥大化をいかに停止縮小出来るかということになります。ただし、停止縮小だけが問題であれば、学問も企業も不要です、なぜならあらゆるものを配給にすれば良いからです。ではなぜ、学問や企業が必要なのでしょう、それは、私たちが心豊かに暮らすということを担保しながら、人間活動の肥大化を停止縮小するという一見相反する命題に解を出さねばならないからなのです。そのためには、全く新しい視点でものを考えなくてはなりません。
石田 秀輝(いしだ ひでき)
東北大学大学院環境科学研究科教授
1953年生まれ。高校時代は授業に出ずに弓道ばかりやって、停学になることもしばしばの「ワル」だった。地球物理学者の竹内均先生に憧れ、東大に合格するも、交際中だった彼女が受かった山口大学へ進学。株式会社INAXで環境戦略と技術戦略担当役員まで務めたが、企業の戦略と自分の目指すものとの間に矛盾を感じ50歳の時大学教授に転身。趣味はずっとテニスだったが、現在は時間が取れないので料理。沖永良部島にあるネイチャー・テクノロジー満載の「風の家」では、シーカヤックで海に出て魚を獲り、70人分もの料理をつくることも。