ダイオードの発明で電気の原理に革命が!!
今秋は科学技術界に大きく明るいニュースが流れました。
世界最高の栄誉とされるノーベル賞の物理学賞に、青色発光ダイオードの発明で、日本人の3人が選ばれたことです。
発光ダイオードとは、半導体物質を使った素子です。これまで"電気をつける"というと、金属(フィラメント)に電流を流すと電気抵抗が生じて温度が上昇し発熱化して明るくなる「白熱電球」が中心でしたが、発光ダイオードを用いると、電圧をかけると直接光を放出させるということができるのです。熱エネルギーに変わらない分、少ない電力(1/3程度)しかかからないようになったのです。
さらに、光は、電波同様に波(電磁波)なのですが、波長が短いので、電波よりもたくさんの情報が送れるという特色もあります。インターネットで動画・写真など大容量の情報交換を可能にした光通信は、この原理により生まれたのです。発光ダイオードが放つ光を「位相」をそろえる工夫を加え、レーザーにすることで、大量の情報を載せられるようにし、その情報をファイバーケーブルで送っているのが光通信です。
待望の青色。ディスプレイの華やかさもブルーレイも
では、その発光ダイオードに青色の発光が加わると何が良いのでしょうか。光には3原色があり、赤と緑に加えて、青がそろえば、あらゆる色の表現が可能になります。1960年代に、赤色と緑色を放つダイオードは発明されていましたが、青色を出せる物質はなかなか見つけられず、20世紀中には難しいとされていました。しかし89年に、当時名古屋大におられた赤崎勇先生と天野浩先生が、開発に成功、93年に徳島の日亜化学工業の研究員中村修二氏(現カリフォルニア大学サンタバーバラ校)が、実用に堪えうる装置を創ったのです。
それにより、色とりどりの光が実現でき、青色光に蛍光塗料を塗ったりすることで、白色光も出せるようになりました。破損もしにくく、原理も単純で大量生産もしやすい。発光の効率の良さは、白熱電球の3倍以上とされます。
また、光通信としても、光の中でも青色は特に波長が短いため、通常の2倍の通信容量が可能になります。大容量の情報書き込みが可能なブルーレイディスクも、(“ブルー”の名の通り)青色発光ダイオードが発展して生まれました。
これらのことからわかるように、今回の青色LEDの発明は、人々の生活と社会を変えたすごいものなのです。
注目の分野で、注目されない研究に「夢」を見た
ノーベル賞を受賞した3人の中で、最も基礎となる、青色を出せる物質に最も早く着目し、こだわってきたのは、名城大(当時名古屋大)の赤崎勇先生でした。
河合塾では、1992年に「光エレクトロニクス」という電子工学の1分野を紹介しましたが(『ガイドライン』92年10月号)、その際、赤崎先生からもメッセージをいただいていました。
当時、光エレクトロニクスは、東京工業大や大阪大などを中心に、まさに時代の中心的な研究分野でした。一方、青色発光ダイオードの研究は、どちらかといえ ば当てのない研究で、注目されることはあまりありませんでした。河合塾で紹介させていただいた際も、下の表のように、あまり注目できませんでした。
しかし、赤崎先生のメッセージは、とても楽しそうで強いものでした。光エレクトロニクスを代表する言葉として、次のように紹介させていただきました。
「『ない』ものを実現したい。これが私の夢」(赤崎勇<名城大・理工>)。そんな夢が実際体験できる分野、それが光エレクトロニクスなのかもしれない」
研究というものは、時々の時流や役立つということだけではなく、自分で正しいと思ったことに向かって歩む、ということを端的に表しているように思われます。
やってみないとわからない、でも挑戦することで、世界や社会を動かす、人々の生活を変える成果につながるのだと、理解される良い事例です。
赤崎先生は、著書『青い光に魅せられて〜青色LED開発物語』で、大川出版賞という「通信・情報分野で優れた図書」に送られる賞を、2013年に、受賞されました。
その執筆を担当した科学ライターの田井中麻都佳さんに、赤崎先生のそんな研究姿勢が生んだ青色発光ダイオードの開発の裏話をご紹介いただきました。
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窒化ガリウムに、20年こだわり続けたかっこ良さ
『青い光に魅せられて――青色LED 開発物語』の執筆で知った赤崎勇先生
田井中麻都佳