(2013年11月取材)
●亀田柚妃花(ゆいか)さん
第1回大会出場、2008年5月世界大会派遣。埼玉県立浦和第一女子高等学校卒業。現在は、群馬大学医学部5年。
*公立高校からの出場ということで苦労しましたか。
正直なところ、私立や中高一貫の学校に対して気後れする部分がありました。周りの高校生は、帰国子女などで、英語がネイティブ並みの生徒が多かったですから。さらに、私達は学校の先輩からテクニックを教わるなどのフォローがなかったため、自主性とやる気でカバーするしかありませんでした。
*どのようにしてそれらを乗り越えましたか。
私達の強みは、チームプレイでした。2人で役割分担をして、交渉と文書の作成の両方に注力できるようにしました。また、事前のリサーチに力を入れました。私達の時は、議題が「気候変動に関する国際社会の将来的取り組み」だったので、文献や記事を調べるだけでなく、学校の理科の先生に解説していただいたり、NGOの方にお話を聞きに行ったりして、とにかく知識の引き出しを増やしました。
英語に関しては、事前にどのような質問をされるかなどを想定してパターン集を作っておくことで、何とか乗り越えられました。準備にはだいたい1カ月弱かかりました。放課後9時頃まで2人で学校に残って準備をし、家に帰ってからも各自準備をしました。
*出場を考えている公立高校の生徒へメッセージをお願いします。
英語が基本なので、ハードルが高いと思う人もいるかもしれませんが、この大会に出るために頑張って勉強をすることそのものが、勉強になり、チカラになると思います。
英語力そのものだけでなく、自分達のパッション、つまり熱意を伝えることが大切です。私達は、スピーチで目立つために、現地の言葉であいさつするなどしてアピールを心がけました。英語に自信がなかったら、何で補うかを考えてそこで頑張れば、十分戦えると思います。まず、挑戦してみてください!
●網谷有希子さん
第1回大会出場、2008年5月世界大会派遣。埼玉県立浦和第一女子高等学校卒業。現在は、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科博士前期課程1年生
*もう1回高校生として出場できるとしたら、どんなことを準備しておきたいですか。
私は、ルールをもっときちんと理解した上で戦略を立てて臨みたいです。私達のときは第1回の全国大会で前例がないため、会議のルールを誰も知りませんでした。ネットでルールブックを見つけましたが、読んだだけではさっぱりわからない。全国大会に来てみたら、周りは帰国子女や、学校が議論の進め方のノウハウを持っているところばかりで。ルールをもっとわかっていたらと、どんなに思ったことか。
*出場しようと考えている高校生に、どんな準備をしたらいいのか、アドバイスをお願いします。
出場にあたって担当国についていろいろ調べて準備しますが、そのときにぜひ原文に当たってみてください。国際的な問題に関する担当国の立場からの情報は、日本語になっている資料が数少ないため、どうしても情報が限られてしまいます。ネットで調べるときも、英語で調べるとすごく幅が広がります。英語は面倒とか、難しいとか、少しハードルが高いと感じるかもしれませんが、ぜひチャレンジしてみてください。本番では、その知識の幅がものを言います。
この経験が生きていると思ったのは、大学、特に大学院に入ってからでした。今私は大学院で栄養学の研究をしていて、今年8月に5週間ルワンダ共和国へ栄養調査に行ったのですが、そのときも海外で出ている文献を調べて行ったので、ひとつのことをいろいろな角度から見ることができました。
*出場経験者として、高校の先生方にお願いしたいことや、うれしいサポートなど、あればお話しください。
私達は、本当にたくさんの先生のお世話になりました。引率は英語の先生だったので、提出資料の添削をお願いしました。私達のときは地球温暖化がテーマでした。社会の先生には時事問題を、生物の先生には生物多様性の話を、そして数学の先生には論理の整合性を見ていただきました。
これを通して、自分の中で「世界が抱える問題は教科を越えるんだ」ということがすごくよくわかりました。先生方にも、テーマそのものがご専門ではなくても、それぞれの教科の視点からアドバイスをいただけると、生徒達のより幅広い学びにつながると思います。模擬国連は「知の甲子園」だと言われますが、まさにそのとおりだと思います。
*模擬国連への出場経験が、役立っているのはどんなことですか。
中学時代から国際貢献ができる人になりたいと思っていました。国際問題にはいろいろな側面があり、それぞれが絡み合っているので、一人の力で全て解決することはできませんが、専門分野を持つことによってそこから何ができるかを考えることができます。
私の場合は、それが「食」です。今は、「TABLE FOR TWO」といって、メニューや食品の購入代金に含まれる20円分を開発途上国の子ども達の給食のために寄付することにより、開発途上国の飢餓と、先進国の肥満や生活習慣病の解決を同時に目指す社会貢献活動に取り組んでいます。
模擬国連に出場したことで、学びを実践に移すことの必要性を実感しました。学校の勉強を、ただ進学のためと考えるのはつまらないと思います。
●高橋祥子さん
2007年5月、初の全米模擬国連大会。渋谷教育学園渋谷高等学校、慶應義塾大学卒業。現在は、マッキンゼー・アンド・カンパニー勤務。
*国際大会に出場した時の、印象に残っていることを教えてください。
私が出場した時の議題は、WHOの疫病の蔓延阻止についての取り組みでした。私はスウェーデンの大使をやりました。スウェーデンなんて行ったことがないし、パンデミックって何?!…という中で準備したり交渉したりするのは本当にたいへんでしたが、知らないことにチャレンジすることにすごくワクワクしました。それまでも、学校の勉強はきちんとやっていましたが、勉強することは本当に楽しいんだ、ということを実感しました。
*印象に残っている失敗談はありますか。
じつは、私は大会の初日にパートナーと大ゲンカしたんです。交渉での役割分担をする時に、「私が決議案を書くから、あなたは意見を集めてね」と何気なく言ってしまったんですね。そうしたら、1日目の帰りに「勝手に決めないでよ!」と怒られてしまいました。私も彼女もプレッシャーの中で、相当ストレスがたまっていたのでしょうね。しっかりと事前に相談したり、相手に対して自分の判断した理由を伝えることなく一方的なコミュニケーションになってしまったことが原因でした。2人で戦っている以上、きちんと意思疎通を行うことは絶対に必要なことでした。引率の先生は様子を見ておられて、きっと思うところはおありだったと思いますが、あたたかく見守ってくださったので自分達なりに考えて解決することができました。
*模擬国連への出場経験が、生きているのはどんなことですか。
大学時代にも、そして社会人になっても生きていることがあります。
模擬国連に出会う前は、高校の勉強は、与えられたから行うもの、大学入試に繋がるもの、という程度に考えていたように思います。でも、出場してみて学校でやっている勉強とは違う学問の楽しさがわかり、リベラルアーツの魅力を実感できました。これは、さまざまなバックグラウンドの人と話し合えることの基礎になっています。
大学に入ってからは、このように高校時代にいわゆる「勉強」の枠を超えて学んだり友達と交流したり、大学生や社会人と交流する中で自分の興味範囲を広げていく機会をより多くの高校生に作るために、「H-LAB」(※)というサマースクールの運営に携わりました。
現在はコンサルティング会社に勤めているのですが、課題を発見し、原因を特定し、その解決のための道筋を立ててアクションを取るという基本的な流れはまさに現在行っているコンサルティングの仕事と本質では同じであると実感しています。行っていることは大きく変わっていないですね。
※H-LAB http://hcji-lab.org/
●名取 徹さん
第2回・第3回大会出場、第3回大会2010年5月全米模擬国連大会派遣。渋谷教育学園幕張高等学校卒業。現在は、東京大学教養学部3年
*もしもう1回高校生として出場できるとしたら、どんなことを準備しておきたいですか。
ぼくは全国大会に2回出場していますが、1回目に出場した時は、人をまとめるということが全くできませんでした。自国の国益は考えても、文字通りのジコチューで、他国の利害まで配慮する余裕がなかったのです。だから、2回目は、たとえ自分の国に直接関係なくても、しっかりと話を聞くことを心がけました。それによって、多くの国と利害調整する中で「この人となら話ができる」と思ってもらうことができたと思います。結果的に決議案の質も向上し、「反対」がほとんどないペーパーを作ることができました。もしもう一度出場できるなら、やはり相手の話にどれだけ耳を傾けるか、ということに気をつけたいですね。
*出場経験者として、先生方にお願いしたいことや、こんなサポートがあるとうれしいということはありますか。
ぼくが初めて出場した第2回は、少年兵の問題がテーマでした。まだ模擬国連自体の歴史が浅く、何をやったらいいのかわからない状態でしたが、先生に作った資料を見せに行ったら、本当に真剣に向き合ってくださったのが、とても印象に残っています。それによって、わからないことを調べるということに対して背中を押していただいたような気持ちになれました。
ぼくは決していつもテストの点数が良い生徒では残念ながらなかったのですが、興味を持ったことはどんどん先生に質問に行きました。そうすると、先生方も30分でも1時間でもぼくの好奇心に応えて、本当にいろいろな話をしてくださいました。この経験から、興味がわいたら調べたり、人に聞いたりするということの基礎ができ、模擬国連にもとても役に立ちました。浪人中も、本はよく読みました。数学も決して得意ではなかったものの、問題を解くだけでなく、可能な限り学問としての「数学」と心がけました。
先生方にお願いしたいのは、高校生には模擬国連のルールの理解は難しいし、説明会などでの質疑応答で、高校生は何を・どのように質問したらよいかもわからないと思います。そういう時に生徒が聞いてほしいことを汲み取って、聞くように促していただけると心強いと思います。
*模擬国連への出場経験が、今に生きているのはどんなことですか。
ぼくにとって役に立っていることは3つあります。まず、外交問題や国際政治に関心を持つようになったこと。大学の国際政治学の授業で、「リベラリズムとリアリズムのバランスをどのように取るか」ということが出てきたのですが、まさにこれはぼくが模擬国連の場で悩んだことであり、それが学問の中ではこんなふうに展開されているのか、と強く印象に残りました。
2つ目は、まったく異なる背景の人と議論することのおもしろさに目覚めたことです。ぼくは今、東京大学でハーバード大学・北京大学・ソウル大学の学生と、日本との関係において課題となっている事象に関して、ディスカッションをする複数の学生団体に参加・運営していますが、ここでも対立からどのように相互理解に導いていくか、とても刺激的です。さらに、リベラルアーツの大切さがわかった、ということも大きいですね。
直接役に立っている点で言えば、就職活動等ですね。選考では知識を問うものももちろんありますが、選考過程の中にはグループディスカッションなどもあり、異なる主張を持つ者同士で、他の人をどうやって説得するか、自分の意見をどこまで修正するか、というプロセス全体を見られますから、まさに模擬国連の経験がそのまま生きることになります。
*出場しようと考えている高校生にメッセージをお願いします。
僕は評価基準を知っているわけではないので私見ですが、是非高校生には、「なぜ自分はここに来ているのか」「なぜ高校生が模擬国連をやるのか」を考えてほしいと思います。模擬国連には大学生がやるものもありますが、大学生の方がもっと形式を重視するというか、システマチックです。高校生がやるからこそ、何かが変わることを期待されている。ならば、それってどんなことかを意識してほしいと思います。それこそが、高校生が出場することの意味であると思います。
●森川佳奈さん
第6回大会出場。2013年5月世界大会派遣。渋谷教育学園幕張高等学校3年生。
*模擬国連への出場で、自分が変わったところはありますか。
私は小学校6年生の時からずっと模擬国連に出場したいと思っていたので、本当にやりがいがありました。私自身、中学2年の夏から高校2年の夏までの計3年間インドにいたので、国際法がいろいろな国に影響を与えるということを現地の人の感覚で知ることができたと思います。その意味で、漠然と国際問題に関わりたいというのではなく、法学部で国際法を学びたい、という明確な目標ができました。
また、学校の勉強について言えば、いろいろな学びをつなぎ、それを活用することがどんなに大切かということがわかりました。例えば地理なら、地誌を覚えるだけでなく、その国の歴史や、社会情勢も学ぶことが大事だと思います。このことは、模擬国連が終わって改めて気がつきました。
*もしもう1回出場できるとしたら、どんなことを準備して臨みたいですか。
昨年2年生で世界大会に出場しましたが、私自身は人を巻き込むことが苦手で、ペアの相手に頼りっぱなしでした。交渉の時間が本当に長く感じられて、しかもその間相手が何をしているのかわからず、とても不安でした。もう一度出られるのなら、もっと人に働きかけることにチャレンジしたいです。
*出場経験者として先生方にお願いしたいことや、うれしいサポートはありますか。
私達が出場した時は、資料の作成で先生も私達と一緒に調べてくださいました。生徒と一緒に知らないことに向き合い、理解を深めることに付き合ってくださったのがうれしかったです。模擬国連でどう戦うかということに鉄則のルールはありません。そこで、私達が迷うことも含めて、自由にやらせていただけたのがよかったと思います。
*先輩として、出場を考えている高校生にメッセージをお願いします。
模擬国連って、つい他の国にいかに勝つかが全てだと思ってしまうけど、本当は自分との闘いなんだということを感じています。どれだけ人の話が聞けるか、それによってどれだけ自分を高められるかが大事だと思います。