「コンドウさん、見て行ってください。この8人でやるのは、今日が最後なんです!」
~爆笑の中で「応援すること」「伝統の可否」の意味を問うた、高校演劇の名門校 集大成の舞台
香川県立丸亀高校演劇部「用務員コンドウタケシ」国立劇場公演
(2015年8月取材)
総文祭の演劇・日本音楽・郷土芸能の3部門は、優秀校各4校(各部門文部科学大臣賞受賞校1校・文化庁長官賞受賞校3校)に選ばれると、東京の国立劇場で公演ができます。今年の東京公演は、8月29日・30日の2日間行われました。
みらいぶが取材したのは、香川県立丸亀高校演劇部の「用務員コンドウタケシ」。文化庁長官賞を受賞しました。
脚本は、演劇部顧問の豊嶋了子先生(豊嶋先生は丸亀高校演劇部OGだそうです)と丸高演劇部の皆さんが書いたものです。
7月末の総文祭=全国大会の緊張から1か月。
出場メンバーにとっては、まさにマラソンで走ってきてゴールに着いたら、さらにゴールを延ばされた先の、大舞台です。嬉しいけど、練習はどんなにたいへんだっただろう。自分たちが作りあげた作品を、文字通りのひのき舞台で上演するってどんな気持ちなのだろう。
部員の皆さんに聞きました。
[ストーリー]
平成27年7月。がるまめ高校応援部は3年生の引退を前に引継式が執り行われようとしていた。そんな中、部員たちの胸にあることが引っかかったままになっていた。それは、「次の応援団長、誰がするんやろう」。ここからまさかの事態に発展してしまう。[国立劇場公演プログラムより]
3年生は、熱血だけどちょっと残念な現団長・『川島』先輩と、きっちり支える副部長の『長友』先輩(女子)。送り出すのは、しっかり者の『本田』さん・『香川』さんの2年生女子2人組と、1年生は学ランが暑苦しい『大久保』くん、何となく影が薄い『柿谷』くん、応援団のアイドル『長谷部』ちゃんとちょっとシニカルな『岡崎』さん。まず、このどこかで聞いたようなネーミングと、キャラの設定が効いています。
応援部の伝統では、団長になれるのは男子だけ。でも今の2年生には男子はいない。そうなると次期団長は、1年生の学ラン男子の大久保くん…? 香川先輩のエールに憧れて入部した長谷部ちゃんは納得できませんが、2年生の先輩たちは諦めムード。しかも、引継式に必要な応援部の伝統グッズがなぜか揃って行方不明! どうするんだ?!
地雷を抱えたまま引継式が始まりますが、なぜかそこで長友先輩は「用務員のコンドウタケシさんが好き♥」という話を始め、何とか話をそらせたい後輩部員たちは、実はよく知らないコンドウさん談義に無理やり乗っかろうとします。
そもそも『コンドウタケシ』さんって、逆から読むと…シ・ケ・タ・ウ・ド・ン・コ…「うどん県人として致命的な名前やないか!」という川島くんの突っ込みに、場内大爆笑。終演後のインタビューで、「ギャグをする時心がけていることは?」という質問に、「真剣にバカをやること」と答えてくれただけあって、この8人のギャグのかけ合いは絶妙です。
でも、笑いに包まれながらこぼれてくる応援部の問題点は、実はどの部活でもあるかもしれないことばかり。男子部員が団長になるという「伝統」は大事かもしれないけど、将来女子部員ばかりになったらどうするのか。代々受け継がれるモノってそんなに特別なのか。そもそも応援って、何のために・誰のためにするのか。。。
そんな中で皆が思い出したのは、応援の練習を小学生にからかわれて川島くんがマジギレした時、コンドウさんに「そんなこと言いよったら、誰もお前らのこと応援してくれんくなるぞ」と言われたこと。応援は誰かのためにするものだけど、力をもらうことでもあるんだ。団長が男でも女でも、太鼓のバチが新しくても古くてもどっちでもいい。大事なのは本気でエールするのかどうか、気持ちがこもっているかなんだ。引継式は新しい団長を選ぶことも大事だけど、この8人でエールをするのも今日が最後なんだ…!
ということで、クライマックスの演舞が始まります。
国立劇場の大舞台が、夕暮れの深く青い光に満たされる中、8人のメンバーと「学ラン隊」(今年入部した1年生の演劇部員もいます)が、キレのいい見事な演舞を繰り広げます。そして、丸亀高校演劇部にとっても、このメンバーで演じる最後の舞台です。ここに立つまで、メンバーの皆さんがこの作品を大事に育ててきた思いがエールとなって、観ている私たちを励ましてくれます。
演舞のあと、川島団長が客席の向こう(にいるはず)のコンドウさんに向かって「コンドウさんっ、俺たちが引退しても、こいつらのこと、応援してやってくださいっ!」と叫びます。一度も登場しなかったコンドウさん。「ゴミの分別にうるさくて」「生徒の服装に細かくて」「浅黒く日焼けしてツナギを着ていて」「実は応援団のOBだった」というコンドウさんが、笑顔でうなづいるのが見えたように思われました。
応援団はこれからも誰かを応援し、応援されていく。そして長谷部ちゃんたちは、すったもんだしながらも、新しい「伝統」を作っていくんだろうな、と思わせてくれるフィナーレでした。終わった瞬間、「もう一度観たい」と思いました。
■予選の県大会3位から大幅に筋を変えて全国大会出場、国立劇場出演を果たした!
[部紹介]
部員は3学年で27人です。名物は「ミーティング」。部員たちが自ら練習計画を立て、ルールを決め、問題解決に向かって考え抜こうとする、生徒主体の部活動です。もしかしたら、稽古の時間よりミーティングの時間の方が長いかもしれません。応援してもらえる集団をめざして、自分を磨き、仲間を認め合い、最後は一つのベクトルになれるよう、一生懸命に、真っ直ぐに、楽しく活動しています。[国立劇場公演プログラムより]
演劇部の皆さんは、どんな思いでこの舞台を作ってきたのでしょうか。
部長で、大久保役を熱演した大平崚世くん(2年)に聞きました。
●「用務員コンドウタケシ」は、豊嶋先生と演劇部の皆さんが作った作品ですが、このストーリーはどのように決められたのでしょうか。
まず、豊嶋先生が大元となる台本を作り、その後部員が意見を出し合ったり、稽古で実際に動いてみたりして直していきました。
●この作品のテーマ(いちばん表現したかったこと)を一言で言うと?
「伝統の可否」と「応援の気持ち」です。
●実際に、丸亀高校に用務員の方はいらっしゃるのでしょうか。また、「コンドウタケシ」のネーミングの由来は?
用務員の方はいます。名前の由来は、豊嶋先生の同級生に「コンドウタケシ」という方がいらっしゃったからです。
●キャラクターがいきいきとして、本当に「地」なのか?! と思うほどでしたが、登場人物のキャラクター設定や配役はどのように行ったのでしょうか。
部内でオーディションを行い、配役を決めました。その後、その役者に合わせて先生が台本を直したり、役者も意識して役を近づけたりしていきました。
●ふだんの練習は、どのくらいしているのでしょうか。また、全国大会関係以外に公演をすることはありますか。
練習は週6日。平日は放課後2時間、土曜日は午前中3時間ですが、大会前になると毎日で、土日まるまる1日(8時間)やります。場合によっては朝練も行います。コンクールの大会以外では、3月に県下の演劇部が集まっての合同公演、4月の新歓公演、6月の1年生のデビュー公演、9月の文化祭(斯文祭といいます)、その他依頼があれば校外で公演したりもします。
●この作品の練習はいつ頃から始められましたか。昨年の地区大会などは、今回と同じメンバー(現在の2・3年生)で出場されたのでしょうか。
昨年の10月から本格的に稽古を始めました。香川県は県大会から始まるのですが、長友役と柿谷役は実はダブルキャストになっていて、県大会が終わった後にもう一度その2つの役だけはオーディションを行いました。その結果、長友役だけ入れ替わりました。それ以外はずっと同じメンバーで、1年生たちが『学ラン隊』として新たに加わりました。
●県大会から大きく筋を変えたそうですが、具体的にどの部分を・どのように変えられたのでしょうか。
県大会では、「伝統」の部分のみを強く意識した内容で、伝統に納得できずに部室を出て行ってしまった部員がいて、エンディングの演舞も全員では舞っていませんでした。演舞自体も全く違うもので、かなりシリアスな内容でした。県大会での結果や講評を受けて、伝統以外の何かも浮き彫りにすることを意識し、さらに余計なセリフを削って3年生のケンカを入れたり、もっとコメディ色を強めたりしていきました。
●全国大会までで、いちばん大変だった時期のエピソードがあれば教えてください。
個人的には、現3年生が四国大会(2014年12月)を終えてから受験勉強のために一時的に活動休止となり、現2年生のみで部活をした時です。僕が新部長になったのですが、なかなか思うようにいかず、しんどかったです。3年生の偉大さを思い知らされました。
■憧れの大舞台に立って~キャスト・スタッフの皆さんに聞きました
●角井泰恵さん(3年) 岡崎役
国立劇場はとても広くて設備もすばらしいものでした。あんなすごい劇場で演技ができたことを、すごく誇りに思います。最後の舞台だったので心を込めて上演しました。後悔のない上演ができて、ラストはとても感動しました。関わったすべての方に感謝しています。
●建部壮一郎くん(3年) 川島役
坊主頭にしたのは役作りのためです。県大会の後、部員の前で顧問の先生に「断髪式」をしてもらいました。18年生きてきて、坊主は初めてですが、体を張ってよかったと思います。事情を知らない先生には、「何か悪いことでもしたの?」と言われてしまいましたが。[国立劇場公演のインタビューより]
●河岡純さん(2年) 長谷部役
本当に本当に最後の公演ということで演じさせていただいたのですが、これが終われば先輩方が引退してしまうという現実を重ねずにはいられませんでした。先生や先輩方の夢を私たち2年生、そして後輩たちも一緒に追いかけて実現させることができた喜びをじっくりと胸に感じながら演じられました。国立劇場での公演、幸せな舞台でした。ありがとうございました。
●大西元くん(1年) 学ラン隊
国立劇場とそれ以外のホールの最大の差は、舞台設備だと思います。もともと歌舞伎のための設備なので、回転舞台やセリ、花道などがありました。まだ入部して数か月なのにこんな大舞台に立てて感動です。国立劇場では、全国大会と違い順位がつかないので、全国大会よりも楽しめたと思います。先輩たちが頑張ってここまで来たので、1年生も頑張ります。
●大麻悠香さん(2年) 演出補佐/学ラン隊
国立劇場でもう一度、先輩方、後輩、同級生、先生方と全員で『用務員コンドウタケシ』という作品を上演できて、本当に幸せでした。すばらしい舞台、すばらしいスタッフの方々、すばらしい観客の皆様…すばらしく恵まれた環境で上演できたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。
国立劇場の舞台に至るまでに、県大会、四国大会、全国大会と、その長い間に本当にたくさんの方々に励まされ、支えていただきました。本当に本当にありがとうございました。後悔のない上演ができて本当に嬉しいです。これから、この幸せな記憶を胸に、新体制でも丸高演劇部としてしっかりと素敵な舞台をお客さんに届けていきたいと思います。