よみがえった黄金色の膜~ヒカリモの生態の秘密に迫る

茨城県立日立第一高等学校 生物部

(2014年7月取材)

左から鈴木菜々さん(3年生),井上晴香さん(2年生),山﨑朝子さん(2年生)
左から鈴木菜々さん(3年生),井上晴香さん(2年生),山﨑朝子さん(2年生)

◆部員数14人

(1年生3人、2年生6人、3年生5人)

◆答えてくれた人 鈴木菜々さん(3年生)

 

☆日立第一高校からは、同じテーマでポスター発表でも参加しています。

詳しくはこちらから


■研究内容 「津波の被害をのりこえたヒカリモの能力を探る研究」

私達の学校の近くにある東滑川海浜緑地には複数の洞穴があり、泥、枯葉、雨が染み出した水が溜まっています。


水面を鮮やかな黄金色の膜のようなものが確認できます。この膜を形成しているのが、不等毛植物門黄金色藻綱に属する淡水生の単細胞生物のヒカリモです。


平成23年の震災による津波で、海辺の洞穴に海水が入り込み、ヒカリモが観察されなくなってしまいました。しかし、同年5月に一時的に黄金食の膜が観察できるようになり、その後再び膜は消え、10月の下旬にまた膜が現れました。洞穴内の水の塩分濃度を測定していくと、塩分濃度が下がるにつれて、ヒカリモが観察できるようになりました。


洞穴内の水の表層と底層の塩分濃度
洞穴内の水の表層と底層の塩分濃度

そこで、淡水生のヒカリモがどれくらいの塩分濃度に耐えられ、どのようにして津波の被害を乗り越えたのか調べることにしました。

ヒカリモは、水中を鞭(べん)毛で泳ぐ状態[遊泳相とよぶ]と、黄金色の膜が形成されている時に水面に疎水性の柄で立ち上がる状態[浮遊相とよぶ]の2つの状態があり、浮遊相の時は透明な球体[外被構造とよぶ]に包まれています。


そこで、

(1)遊泳相のヒカリモの塩分耐性を調べる

(2)海水が入り込んだ洞穴の水と泥を別々に採取し、ヒカリモがどこにいるかを調べる

(3)泥中のヒカリモの塩分耐性を調べる

(4)真水に戻してヒカリモの復活を調べる

の4つの実験を行いました。

 

その結果、遊泳相のヒカリモは、塩分濃度0.4%で活動が難しくなります。ヒカリモは、シスト(単細胞生物が環境条件の悪化から身を守るために体の周りに強固な膜を形成し、休眠状態になること)の状態で泥の中に沈んでおり、海水と同じ塩分濃度3.0%(実際はそれ以下か)でも耐えられ、塩分濃度が0.2%以下になると活動状態になると考えられます。

 

つまり、平成23年3月の津波では、洞穴内に海水が入り込んだことで水の中のヒカリモはいなくなってしまいましたが、泥の中にシスト状態でいたヒカリモが、洞穴内の水の塩分濃度が0.2%以下になったことで表れて、黄金色の膜が再び観察されるようになったと考えられます。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私達の学校の生物部の継続研究で、今年5年目になります。東滑川海浜緑地はヒカリモの黄金色の膜が一年中見られることで知られていて、日立一高はヒカリモの保護するため研究に努めています。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

ほぼ毎週,東滑川海浜緑地でヒカリモの観察をしています。だいたい2時間ぐらい行います。学校に戻ってすぐに顕微鏡観察をやはり2時間ぐらい行います。今回はさらに,ヒカリモの塩分耐性の実験をしています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

継続研究なので先輩たちが行ったものも合わせて5年分のデータがあり、さらに先行研究もあるので、その内容を理解すること。伝統のある研究なので、プレッシャーもありました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

「苦労したこと」でもお話したデータの多さは、逆に私達の強みでもありました。ポスター発表のほうでは、ヒカリモを主人公にした自作絵本を展示し、アピールしました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

 

井上勲 2007. 「藻類30億年の自然史 第2版」 東海大学出版会

池上陽子 井上勲 2003. ヒカリモ(黄金色藻綱)における浮遊細胞の微細構造と分類学的研究. つくば生物ジャーナル 

大石英明 矢野洋 伊藤裕之 中原正展 1991. 兵庫県内の池に発生したヒカリモ(黄金藻)の観察

日比野信一 1915. 信州下虎岩ニ於テ発見セラレタル光藻ニ就イテ. 植物学雑誌29:125-149

横山亜紀子 横山 潤 2009.伊豆沼の底泥から発生したヒカリモ(黄金色藻綱). 伊豆沼・内沼研究報告 3号, pp. 25-30

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

これからも後輩たちが続けていきます。現在も生物部の2年生が,授業の一環として一人1テーマで「科学研究」を行うSSクラス(※)に所属し,ヒカリモの生息に適した光の強さや水質環境を探る研究を行っています。

※日立一高は平成24年度より文部科学省よりSSHの第2期の指定を受けています。その中で特別に編成されるクラスです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

生物部で飼っている魚やハツカネズミ,アフリカツメガエルなどのえさやり。ヒマワリやアサガオの研究も行っています。年に数回,近くの神峰山の散策に行きます。東滑川海浜緑地のヒカリモの観察など,フィールドワークも多いです。

 

■総文祭に参加した感想をきかせてください

 

一高生物部の伝統の研究なのでプレッシャーもあり、練習も大変でしたが、私にとっては生物部として最後の発表だったので、成功させたいという思いが強かったです。ポスター発表のほうと両方賞をいただけて、無事やり遂げられてほっとしました。また、総文祭はいろいろな地域の方と交流できたり、発表を観ることができ、充実して楽しかったです。

 

※日立第一高校の発表は、生物部門の優秀賞を受賞しました。また、同じテーマで出場したポスター発表では、奨励賞を受賞しました。

<ポスター発表>茨城県立日立第一高等学校 生物部 

絵本でアピール!ヒカリモの不思議な生態

右から柳井利榮子さん(2年・ポスター発表)、鈴木詩子さん(2年・ポスター発表)、山﨑朝子さん(2年・研究発表)、 鈴木菜々さん(3年・研究発表)
右から柳井利榮子さん(2年・ポスター発表)、鈴木詩子さん(2年・ポスター発表)、山﨑朝子さん(2年・研究発表)、 鈴木菜々さん(3年・研究発表)

◆答えてくれた人 柳井利榮子さん(2年)

 

■研究内容 「ヒカリモの黄金色の膜が一年中見られる洞穴と見られない洞穴」

東滑川海浜緑地
東滑川海浜緑地

ヒカリモが一年中観察できる、東滑川海浜緑地の公園にある洞穴について、洞穴内の水面の表面観察や顕微鏡での観察、水温・pH・照度、公園内の気温を定期的に観察しました。その結果、水温5~20℃、pH6前後で、照度が3000luxの環境がよいと考えられることがわかりました。

 

また、「ヒカリモ」をみなさんに知ってほしいと、絵本の形での発表もしました。

 



■研究を始めた理由・経緯は?

 

ヒカリモの研究は、生物部で代々先輩から受け継がれてきた研究です。もっとたくさんの人に「ヒカリモ」と東滑川海浜緑地について知ってほしいと思ったからです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

生物部員同士、協力して、ほぼ毎週観察に行っています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

生物部員の予定を合わせて、継続的に観察の時間を確保すること。暑い日も、寒い日も、雨の降る日も、ヒカリモの観察を続けてきました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

実は、私たちは、文系クラスなので、私たちもあまり難しいことになると、理解できないので、難しい言葉は簡単な言葉に置き換え、1つ1つ丁寧に説明するなど、まずは「ヒカリモ」や研究内容を少しでも聞いていただくことを考えました。また、ポスター(パネル)発表の時には、写真をたくさん使ったり、絵本やパラパラ写真を作ったりして、たくさんの方々に来ていただき、目で楽しんでいただく発表をすることを心がけました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

 

これまでの本校先輩方の「ヒカリモ」の研究です。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

「ヒカリモ」とpHや光との関係を調べる実験や実験室での「ヒカリモ」の飼育方法を確立したいです。また、東滑川海浜緑地と「ヒカリモ」の保護に努めるとともに、たくさんの人に「ヒカリモ」を知っていただけるように、PR活動をしたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

動植物の世話をしています。ハツカネズミの世話は大変ですが、かわいいです。熱帯魚の水槽は癒やされます!

 

■総文祭に参加した感想をきかせてください。

 

こんなに大きな科学の大会に出場するのは初めてで、とても緊張しました。どの研究も難しくて、私と同じ高校生が研究しているものとは思えなかったし、全国のレベルの高さを実感しました。

大会中、発表がうまくいくか不安だったし、実際失敗の連続で落ち込んだりもしたけれど、仲間と協力して、自分たちの力を出し切り、いい発表ができたと思います。たくさんの人から意見をもらったり、ほめてもらえたり、厳しい指摘を受けたりして、とても参考にもなったし、楽しかったです。総文祭の出場はとてもいい経験になりました。

 

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