イスノキとアブラムシのコラボに珍現象。日本初「二重ゴール(虫こぶ)」発見!

福岡県立修猷館高等学校 生物研究部

(2014年7月取材)

左から2番目が綾部将典君(3年)
左から2番目が綾部将典君(3年)

◆部員数 6 人 (1年生3人、2年生2人、3年生1人)

◆答えてくれた人 綾部将典君(3年生)

 

■研究内容 「イスノキに二重にゴールを形成する二種のアブラムシ間の相互作用」

アブラムシは、木(今回はイスノキ)の芽や葉にゴール(こぶ)を作ります。ゴールをつくる理由として、ゴール内部の栄養分が豊富である、外敵から身を守ることなどがあげられます。修猷館高校の校庭では、二種類のゴール(イスノキハタマフシとイスノキエダナガタマフシ)が見られます。ゴールの種類の違いは、ゴールをつくるアブラムシの違いです。

本来、ゴールはできる場所が決まっていますが、2012年に、エダナガタマフシの上にハタマフシがつくられる、「二重ゴール」というものが見つかりました。これは日本では初めての発見であり、大変珍しいものです。本来ゴールをつくるところではない、別のゴールの上にゴールをつくったのには何か理由があるはずです。

僕たちは、

(1)ハタマフシのアブラムシ(ヤノイスアブラムシ)が二重ゴールを形成することで、子孫を多く残すことができ、二重ゴールはハタマフシのアブラムシにとって有利である

(2)ハタマフシのアブラムシはエダナガタマフシの上に好んでゴールを形成している

という2つの仮説を立てました。

 

そして、ゴール密度、ゴールサイズ、ゴール内部のアブラムシの数を調査しました。


その結果から、

(1)ハタマフシのアブラムシは二重ゴールを形成することで、子孫の数が減っていることから、二重ゴールの形成は、ハタマフシのアブラムシにとって不利なことである

(2)ハタマフシはエダナガタマフシの上に誤ってゴールを形成した(つまり、偶然だった)

という結論を得ました。

さらに、その原因として、ゴールを形成する3~4月の気温変化を調べることにより、二重ゴールの形成が、温暖化による気温の上昇によってもたらされた可能性についても、考察を深めました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

イスノキのゴールの研究は、2学年上の先輩が始めました。校庭のイスノキの葉に膨らみを見つけて中を割ってみるとたくさんのアブラムシがおり、アブラムシが作ったゴールであることがわかりました。また、別のイスノキには、葉だけでなくもっと大きなゴールも見つかりました。これらの生態を詳しく研究している中で、今回のテーマとなった二重ゴールを発見しました。そして、なぜこのような二重ゴールができるのかを研究してみることにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

二重ゴールの研究については1日1時間~2時間を約1年続けました。ゴールの研究自体は3年間続いています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

当たり前かもしれませんが、データ集めです。4月から11月までは、ほぼ毎日ゴールの大きさを測り、ゴール内部のアブラムシの数を数えていました。ゴールによっては、1個当たり2000匹以上アブラムシが含まれているものもあり、そんなゴールを数える日には、1日のエネルギーのほとんどアブラムシを数えることに費やしていました!

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

データを統計的に処理して、結果を出しているところです。きちんと統計処理することで、明確に差があるかどうか、相関があるかどうかを示すことができました。また、プレゼンテーションのわかりやすさも工夫しました。「二重ゴールのできる背景」のスライドは、はじめ文字だけのスライドでしたが、わかりにくいという指摘を受けたので、すべてイラストにして口頭での解説を充実させました。初めて聞く人でも理解してもらえる発表を心がけました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

 

「日本原色虫えい図鑑」湯川淳一・桝田 長(編著)

「岩波生物学辞典」八杉龍一・小関治男・古谷雅樹・日高敏隆(編集)(1996)

「虫こぶ入門」薄葉重

「完全独習 統計学入門」小島寛之

「まずはこの一冊から 意味がわかる統計解析」涌井貞美

「エクセル統計」

「地球温暖化と昆虫」桐谷圭治・湯川淳一

Ngakan PO, Yukawa J (1996) Gall site preference and intraspecific competition of Neothoracaphis yanonis (Homoptera: Aphididae). Applied Entomology and Zoology 31, 299-310. (※)

Price PW, Fernandes GW, Waring GL (1987) Adaptive nature of insect galls. Environmental Entomology 16, 15-24.(※)

  ※は論文

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

僕は今年で引退なので、これから先は後輩たちに任せたいと思います。今後は、気温の上昇とゴールの形成時期などを調べて、二重ゴールのできる原因をさらに研究していければと思います。生物研究部では、他にもマウスの行動についての研究やコダカラベンケイソウの研究など、部員がそれぞれ興味を持った研究を進めています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

それぞれの部員がそれぞれのテーマをもっているので、ふだんはそれをメインで各自活動しています。11月の初めに生徒生物研究発表大会があるので、それを目標に研究をまとめて発表します。季節の行事としては、夏は能古島でのフィールドワーク、生物オリンピック前の対策演習などがあります。また、3月には文化祭があり、そこではマウスに巨大迷路を走らせたり、様々な展示物を作ったり、ニワトリの解剖をしたりしています。

 

■総文祭に参加した感想をおしえてください。

 

ベスト5に選ばれなかったのは、正直悔しいと思いました。僕たちは今までイスノキのゴールの観察やデータ集め、解析などにたくさんの時間をかけて取り組んできました。そして全国大会では最高のプレゼンができたと思っています。プレゼンに関してはだれにも負けていなかったと自信をもつことができました。しかし、各県代表の研究はさらにレベルの高いものでした。テーマの独創性やデータ量の多さなど参考になる点がたくさんありました。この悔しさをバネに、これからもっと努力していきたいと思いました。それから、たくさんの生物の研究をしている高校生がいることを知ることができたことはとてもよかったです。運営にかかわっている高校生と話をしてみて、みんな頑張っているんだなと思いました。視野が広がった感じがしました。

 

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