(2014年7月取材)
◆部員数 24人(1年生5人、2年生13人、3年生6人)
◆答えてくれた人 杉原悠峻(ひろたか)君 (2年生)
私達は、植生(ある地域を覆っている植物体の総称)と土壌内の栄養塩(栄養塩生物が普通の生活をするために必要な塩類)量の違いは土壌生物の生息状況に影響を及ぼすのではないかと考え、彦根市内にある彦根山と荒神山の調査を行っています。彦根山は照葉樹林が優占する自然林、荒神山は人工的に植林したスギ・ヒノキが多い針葉樹林が優占する植生となっています。
先輩達が行ってきたこれまでの調査で、植生の違いが土壌中の栄養塩に違いをもたらすことはわかったので、今回は土壌生物を調査することによって、土壌環境を調査することにしました。調査に使ったのはササラダニです。ササラダニは土壌生物の中で最も個体数・種類数が多く、1年中成虫が出現する、自然環境の影響を受けやすいなどの理由から、環境の違いを観察するのに適しているからです。
2つの山の様々な地点から採取した土壌表層土を「ツルグレン装置」にかけてササラダニを採取し、個体数や種類の数を調べました。
さらに、その場所の自然環境の良さを測る尺度として、生息地の傾向からそれぞれの種ごとに1~5点の点数を与えて、場所ごとの合計点を出し、それをその場所ごとに出現した種の数で割ったものを「自然性」の評価点としました。この方法によると、彦根山と荒神山は「自然性」が高いと判断できる点数になりました。
そこで、MGP法という分類方法で種類数と個体数の割合に注目することにしました。
すると、個体数において自然林であるはずの彦根山や荒神山麓で、市街地のような乾燥した環境に多い種の数が多くなっています。これは、何らかの環境変化があって、乾燥した土壌環境になっていることが考えられます。
この原因として、荒神山麓は道路に面した斜面であるという地理的な要因が考えられ、彦根山では、昨年度から樹木の大規模な伐採や間引き、映画の撮影による人の立ち入りなどの人的な要因が考えられます。このように、ササラダニの個体数・種類の数の測定により、土壌環境の変化を知ることができました。
■研究を始めた理由・経緯は?
私達の先輩達は、植生と土壌内の栄養塩量の違いについて研究していましたが、私達はそれが土壌動物の生息状況にも影響があるのではないかと考えました。そこで特に指標となるササラダニについて調べてみることによって、土壌環境がより詳しく分かるのではないかと考え、研究を進めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日あたり2.5時間で、1年と7か月。それ以前に先輩達が1年半をかけて研究しているので、合計3年です。
■今回の研究で苦労したことは?
ダニの統計をより正確にするため、より多くのダニのデータをとりました。それによって、ダニを同定(種類分け)する作業量も増えていきました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
初めての人に私達の研究を説明する上で重要な用語は、その言葉が出てきた際に「どのようなものか」、「どのように使うものか」を説明しました。これによってパワーポイントの進行が円滑になるよう工夫しました。
また、発表の円グラフに使用する色などを変えて、より見やすくしました。実際のダニの写真を例として挙げ、他の種類と異なる部分を赤い丸で囲むことで、ダニの種類の違いを分かりやすくしました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
「日本ダニ類図鑑」(主にこの本を使用していました)
「土の中の小さな生き物ハンドブック」
「土壌生態学入門」
「やさしい土壌語句の調べ方」
「日本産土壌動物検索図説」
「原色植物ダニ検索図鑑」
「土壌動物を用いた環境診断」
「土壌動物室への招待」
また、横浜国立大学名誉教授の青木潤一先生にご指導・ご協力いただきました。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今までの調査結果をふまえつつ、採取する土の条件をより厳格化し、荒神山、彦根山の植生土壌内の栄養塩量、土壌動物(ササラダニ)の生息状況の移り変わりを調べていこうと考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
主に月~金に採取したダニを標本としてプレパラートにし、また同定を行います。2週間に1度、荒神山もしくは彦根山の土を採取し、ツルグレン装置にかけて土壌動物、特にササラダニを採取します。また生物・化学分野の実験や実習も行っています。
■総文祭に参加した感想を教えてください。
今在籍している1、2年生の部員は、全員総文祭初経験で、終始慌ただしかったです。しかし、全国のレベルの高い研究を見ることができ、得るものも多かったです。今回の経験を次回の研究、総文祭に活用していこうと思います。