(2014年7月取材)
◆部員数 6人(1年生3人、3年生3人)
◆答えてくれた人 松田留佳さん 3年生
2012年に行った研究では、1時間ごとのレーダー・アメダス解析雨量図の分析から、「(1)観測点の風上側に壁雲(発達した積乱雲の雲底に現れる低く垂れこめた雲)がある時は風が弱まり(図1-(2)の地点)、(3)観測点の風下間近に孤立した積乱雲がある時は風が弱まる(図1-(4)地点)」という仮説を導きました。
今回は、掃除機と扇風機で作った装置(左の写真)で積乱雲のモデル実験を行って、この仮説の検証を行うとともに、風速が強くなるメカニズムを検証しました。具体的には、図2のように扇風機の風を台風の風に見立て水平方向に送る一方で、掃除機の吸引力を積乱雲の上昇流に見立てて、送られた風を上方に吸い上げて上昇流を発生させることで、地表面の風速がどのように変化するかを調べました。
すると、前述の(1)の場合は、上昇流の真下を通過する時に風が強まり、真下半分を通過した後はほとんど無風になるくらい風が弱まりました。(2)の場合は上昇流の真下を通過する時に風が強まり、通過した後はもとの風速に戻り、さらにその左右では風速が弱まることがわかりました。
さらに実際の台風の際の積乱雲通過時の風速の変化は、このモデル実験の結果と一致しました。この実験結果から、次のようなことが考えられました。
積乱雲モデルの真下に気圧の低い部分(低圧部)が形成されているとすると、低圧部の風上側では風向きと気圧傾度力(大気中で気圧の差によって生じる力)が一致するので、風は加速します。これに対して、風下側では気圧傾度力が逆向きなので、風は減速して元の風速に戻ります。(→図3 参照)
また、台風の眼に壁雲がある場合には、送られてきた風のほとんどが上昇気流によって上に移動させられ、風下側に風が通り抜けないので、風上側の風だけが気圧傾度力の影響を受けて風が強まります。
以上のことから、
・台風の時、観測点の風上に積乱雲の壁がある時は観測点の風は弱まる
・観測点の真上を孤立した積乱雲が通過する時には、観測点の風は弱まる
・積乱雲の下で風速が強くなる原因は、積乱雲の真下にできる低圧部の気圧傾度力である
ということがわかりました。
■研究を始めた理由・経緯は?
2012年の台風15号は、沖縄本島接近時、最大瞬間風速70m/sの風が吹くおそれがあるとして厳重警戒が呼びかけられていました。しかし、実際に沖縄本島で観測された風速は、特段警戒を呼びかけられていない16号・17号の方が強かったのです。この3つの台風の違いは何か、そこに隠された台風中で風が強まる原因を探ろうと、この研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1週間あたり10時間で19か月。
■今回の研究で苦労したことは?
最も苦労したのは実験装置の製作でした。この積乱雲モデル実験には、先行実験があったわけではなく、実験方法、実験装置の全てを自分たちで考えなければなりませんでした。まず、最初の壁は扇風機と掃除機の強弱の組み合わせを探ることでした。実験で使う扇風機の風の適当な強さがわからず、工業用扇風機を用いてみたこともありました。他にも、今考えるとどこからそんなアイディアが出たのだろう、と不思議に思うようなこともしていました。
こうした試行錯誤を経て、私たちの実験装置は完成させることができ、思い通りの実験結果が得られたときは本当にうれしかったことを覚えています。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
掃除機と扇風機という身近にあるものを用いてモデル実験を行ったことです。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
この研究は今回で終了します。後輩の1年生は竜巻について研究しています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
実験したり、結果をまとめてレポートを作成したりしています。
■総文祭に参加した感想を聞かせてください。
総文祭では、多くの人に私達の説明を聞いていただき、感想・助言をいただくとができ、私達にとってよい刺激を受けることができました。3年生にとっては、地球科学部としての最後の活動となるので、これまでの研究成果を思い切り発表できるように、昨年の総文祭のときよりも念入りに準備をしてきました。説明を聞いてくださった人が、少しでも沖縄や台風について興味を持ってもらえたら嬉しいです。総文祭に出場することができたのも、同じ部活のメンバー、顧問の先生の支えや協力があったからです。今は感謝の気持ちでいっぱいです。
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