(2014年7月取材)
◆部員数 7人(1年2人、2年2人、3年3人)
◆答えてくれた人 平澤茉衣さん(2年生)、岡本和泉さん(2年生)
キイロショウジョウバエは光に集まる性質(正の光走性)を持つので、その性質を利用すればハエの見える色について解析できるのではないかと考え、研究を始めました。まず測定装置を自作しました。ガラス管Aに100匹ほどのハエを入れ、ガラス管B内で発光ダイオードを照射し、5分後にBに移動した個体数を数えます。(Bにいる個体数/AとBにいる個体数)×100(%)の数値を集合率としました。集合率が高いほど、正の光走性が強いことになります。
実際に測定してみたところ、光が強くなると集合率は高くなりました。また、4.9~7.0Luxの間で大きく集合率が高くなることから、この間に光走性を引き起こす1つの境界があると考えられます。
また、波長の異なる赤・緑・青の3種類のLEDを使って集合率を比べると、赤・緑に対する集合率は低く、青に対するそれは高くなりました。この結果は、ハエが赤・緑色の光を感じ取ることができないか、あるいは避けているとも言えます。反対に、青い光は強く感じていると考えられます。
キイロショウジョウバエの全身にはクリプトクロムという光受容体蛋白質があります。この蛋白質は生物の体内リズムを調整するはたらきがあり、青い光を吸収してはたらきます。そこで、クリプトクロムが壊れている2種類の突然変異体を使って測定したところ、目から光が入っても、青色に集まらないという結果が得られました。これまで調べた限りでは、クリプトクロムが正の光走性に関与するという実験結果や先行研究は発表されていませんでした。ハエが正の光走性を示すためには、一見無関係に思えるクリプトクロムが青色の光を受容することが実は重要であることを、今回初めて実験で示すことができたことになります。
さらに、キイロショウジョウバエには単眼と複眼という2種類の眼があり、これらと色の感じ方との関係を調べました。「複眼はあるが単眼のないもの(OC)」と、「単眼のみで複眼が活動しないもの(norp)」という2つの突然変異体を使って実験した結果、単眼だけでも光の明るさを感じて行動が起こること、複眼は主に光の波長=色を受容し、青色への光走性を促すらしいことがわかりました。単眼と複眼の両方の光情報が脳で統合されて初めて、正の光走性という行動が起き制御されていると考えられます。
■研究を始めた理由・経緯は?
生物研究部では、過去5年ほどキイロショウジョウバエを用いたストレスと寿命の相関性について実験を行ってきました。その中で「幼虫は光から逃げ、成虫は光に集まるという現象がある」という研究報告書を読み、光走性とは何か、ハエは本当に光が見えているのか気になったので調べてみることにしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2012年に実験を開始して約1年半行っています。毎日2時間ほど活動し、現在も継続中です。
■今回の研究で苦労したことは?
ハエを多く使うため、培地作りや掃除が大変でした。また、気温によってハエの活動性が変わるかどうかを検証をするために、真冬に教室の室温を無理やり30度まで上げたのは、正直辛かったです。でもいちばん神経を使ったのは、集まってきたハエの匹数を数えることでした。1回に何百ものハエを使い、さらにそれを♂♀の性別分けをしなくてはならなかったですから。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
この研究は、いわば一本の迷路のようなもので、すべてがつながっています。どこか1つでも見逃してしまうと、なぜそのような実験を行ったのか、そのような考えに至ったのか、内容についての理解ができなくなってしまうので、本当はどこも見逃してほしくないですね。実験方法自体も客観性が得られるように工夫しています。あえて言えば、クリプトクロムが青色の光を感じることが光に集まる行動に重要であることを明らかにした点ですね。高校生が、研究者のみなさんがこれまでやっていなかったことに挑戦し、新しい事実を明らかにすることはすごいことですし、今後どうなるかという期待も大きいです。この発見をたくさんの人に知ってほしいと思います。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?
・キイロショウジョウバエの光走性に関する論文
・クロプトクロムと体内リズムに関する論文
■今回の研究は今後も続けていきますか?
この実験は継続していくつもりです。キイロショウジョウバエが持つクリプトクロムという蛋白質と光に集まる行動の関係について、これから新しい条件で実験しなくてはなりません。変異体が光に集まらなくなったのは、本当に色を識別できなくなったのか、運動能力が低下した結果なのか、光を嫌うようになったのか、あるいはもっと他の理由である可能性もあります。本当の理由を知りたいと思っています。クリプトクロムという蛋白質のはたらきそのものについて、とことん解明していきたいですね。内容はかなり難しくなると思うので、専門家のみなさんにアドバイスをもらい、協力していただくことが不可欠と思います。今回、他県の高校生の発表を聞いてとても刺激になったので、私達も実験で確かめて、ぜひ来年も総文祭に参加したいですね。
■ふだんの活動では何をしていますか?
私は、栄養が少ない土地で生育する植物が分泌する酵素について調べています。動かない植物が適応するために環境に積極的に関わっているところが面白いと思います。一人で研究しているので苦労はありますが、とても楽しいです。(岡本さん)
私は「食品添加物が生物に及ぼす影響」というテーマのもと、キイロショウジョウバエを使って実験を行っています。今までは培地に混ぜた物質をハエは吸収することはできるのか、それにより何らかの応答が現れるのか、について調べていました。これからは食品添加物を培地に混ぜることで生物や細胞にどんな影響があるのか、Rasという蛋白質やCaspaseという酵素を目印にして調べていこうと思っています。(平澤さん)
■総文祭に参加した感想を教えてください。
他校の研究を聞くことで、自分達の探究心が高まった気がします。また、多くの質問意見をいただくことで、自分達が普段は気がつかないような視点から研究を見直すことができたと思います。新しいやり方のヒントを教えていただいたり、また今後の課題もわかりました。自分達の研究の質を高めるための通過点としていい刺激をもらえたと思います。(平澤さん)
今回の総文祭で、先輩達の研究が認められ、全国のみなさんの前で発表できたことがとても嬉しいです。これまで多くのみなさんに支えられ、この場に立つことができたことを改めて感じています。そのことは感謝してもしきれません。先輩達の研究を聞いてくださった方、私達の拙い発表を聞いてくださったみなさん、本当にありがとうございました!(岡本さん)
●発表は楽しかったですか?
私は、ポスター発表がとても好きです。小学生の頃から実験することが好きだったのですが、今は実験でわかったことや、おもしろさを中学生にもわかってもらえるように、『親しみやすく、わかりやすいプレゼン』を目指しています。聞いている方が、「あ、わかった。おもしろい」という反応を返してくれるのが嬉しいですね。総文祭に来るまでの実験や準備はいつもと変わず忙しい日々でしたが、ここに来てからは毎日がすごく刺激的で、学ぶことも多かったです。(岡本さん)
私は、高校に入るまでは、人前で発表する経験はそれほどなかったですが、やはりポスターを見たり話を聞く中で、反応がもらえることが嬉しいですね。聞いてくれた人が、どんなことを返してくれるかがすごく楽しみですし、そこでもらう意見や感想が次の実験のアイデアにつながることがとても多いです。(平澤さん)
●プレセンの練習はしたのですか?
先輩達は、ポスター発表の審査に向けて、自分達の発表をいかにわかりやすく論理的に説明するか努力していました。私達は先輩達の発表ややり取りを聞いて、それを自分達ならどう説明するか、展開や重要な部分の伝え方を考えました。先輩達とはちょっと違う路線を狙いました (笑)。(平澤さん)
話し方というのはとても大事だと思います。でも、プレゼンのための練習は、実はまったくやっていません。顧問の先生は、「プレゼンがうまくなりたかったら、漫才や落語を聞きなさい」と言われるので、聞いているうちに最近落語が好きになってしまいました (笑)。人を惹きつける話し方って何だろうかを常に考えるようにしています。サイエンスコミュニケーターという仕事もあるように、難しい科学をわかりやすく伝えることは、今後ますます大切になってくると思います。(岡本さん)