水害から私たちの町を守れ!洪水の原因を加古川の地形に探る
~読売工学フォーラムで「読売新聞社賞」受賞
兵庫県立西脇高等学校 地学部(マグマ班)
(2015年11月取材)
工学の魅力や価値を高校生に理解してもらおうというイベント、「工学フォーラム」(国立大学54工学系学部長会議、読売新聞社主催)が、11月22日、東京海洋大学越中島キャンパス(東京都江東区)で開催。大学の研究者による研究紹介に加えて、全国の高校生による工学に関する研究発表が行われました。そこで読売新聞社賞を受賞した、兵庫県立西脇高等学校地学部(マグマ班)にインタビューしました。研究内容と共に紹介します。
◆部員数:1年生18人、2年生6人、3年生12人、合計36人
◆書いてくれた人:吉良洋美さん(3年)福島茄奈さん(2年)
■研究内容:兵庫県中部~南部の白亜紀後期の基盤岩の形成過程
―地域の水害に対する防災に向けての基礎研究
私たちの通う西脇高校の付近は、毎年のように加古川の水害に苦しめられています。加古川は兵庫県中部から南部の瀬戸内海へ流れる一級河川です。地学部の中にも浸水被害を受けたものがおり、洪水の原因となっている地形の形成過程を解明するために研究を始めました。
◆購入した地質図の境界線がつながらない!自分の足で調査!
研究を始めるにあたって、兵庫県各地域の地質図を購入して並べてみましたが、地層の境界線がつながらず、境界領域の岩石名も不統一であることに気がつきました。これは、広域防災を考える上で必要な、加古川の断面の統一的で詳細な調査がいまだに行われていなかったことを示します。そこで、私たちは、加古川を中心とした兵庫県中南部の断面図を作成し、水害から住人を守るための基礎資料となる研究を行おうと考えました。
私たちは、加古川-円山川水系に沿って、兵庫県の東西20km、南北160kmの地域の露頭調査を自らの足で歩いて行いました。調査はのべ40日行い、164個の試料を採取しました。
◆採集した164個の試料から洪水の原因がわかった!
鉱物の割合(モード組成)、岩石の磁力(帯磁率)、岩石の化学成分(全岩化学組成)を調べて比較しました。指標としたのは、凝灰岩です。凝灰岩は兵庫県に広く分布しており、しかも地域によって特徴が異なるため、兵庫県全体の形成過程を明らかにする指標として有効です。
※上記の図はいずれもクリックすると拡大します
これまで、兵庫県中部~南部は、白亜紀後期の巨大な単一カルデラ湖の底で形成されたと考えられていました。しかし、私たちの研究によって、兵庫県中部~南部の凝灰岩の形成過程で連続する複数回のマグマ活動があったことや、カルデラ湖の北端がどこにあるのかなどについて明らかにしました。そして、一番重要な成果は、加古川流域に見られる石英安山岩の貫入によって、私たちの住む地域の洪水が引き起こされていることを示した点です。
私たちの研究の成果をもとに、現在地域行政と共同で、住民を水害から守る取り組みを始めています。
■研究を始めた理由・経緯は?
本校地学部のマグマ班には、加古川の水害で浸水被害を受けた部員が複数在籍しており、自らが被災した洪水の原因を明らかにするためです。2014年から西脇市の地質調査をおこなっていますが、昨年度の考察に誤りがあるのではないかという疑問を抱きました。誤りを修正し、兵庫県中南部の正しい形成過程を提示し明ければならないと考え、研究を継続しました。
■今回の研究で苦労したことは?
研究開始:2014年の春に地学部が発足し、その直後から研究を開始しました。
野外調査日数:40日間(2014年に15日間、2015年に25日間)
室内での分析日数:2年とも夏休みの半分以上を使いました。
■「ココが大変だった!」「ココを見てほしい」という点は?
気温が35℃をこえる蒸し暑い中、道のない藪の中を這うように歩き回って露頭調査し、何㎏にもなる岩石試料をかついで山から下りてきたことや、中学校で学んだ程度の地学の知識しかないので、専門的な地学を学ぶことが大変でした。
自らの研究成果の誤りを、自らで正していく作業は、最初は精神的に苦しかったですが、使命感を持って取り組みました。こうして完成させた集成モデル図を見ていると科学の進歩の歴史は、こうやって新しく発見された事実に基づいて深められ、修正されていくものなのだろうなと思い、感慨深いものがあります。その成果が地域住民の役に立つと考えると、充実感でいっぱいです。梅雨時から真夏にかけて、部員が手分けして20×160kmという広大な調査をすることは大変でしたが、その後の室内作業も含めて全員が協力して取り組めたことが本当に楽しかったです。
それから、顧問の川勝和哉先生には本当にお世話になりました。先生のご指導なしには達成できなかったので、感謝の気持ちでいっぱいです。
■次はどのようなことを目指していきますか?
もちろん今後も続けます。研究が進めば進むほど、疑問が多く見えてきたので、長期間の継続研究になる予感がします。そのために、上級生と下級生がチームを組んで研究を進めています。次は、兵庫県北部に分布する玄武岩質の凝灰岩や、淡路島南部も含め、兵庫県全体の形成過程を考察していきたいです。
また、本研究の成果の防災の観点からの活用をさらに進めていきたいと考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
月曜日から金曜日の放課後に毎日活動しています。それでも毎日大変な忙しさです。
地学部と名前が付けられていますが、自然科学のすべてを対象にした研究活動を行っています(垂直な壁面でも歩くゴキブリの足の構造[生物工学]、氷の中に包有されている気泡内の環境の推定[物理学]など多数)。
また、小学生に理科実験などのワークショップを開いたり、地元の天体観測会のサポーターとしてボランティア活動を行ったりしています。
■工学フォーラムに出場した感想
私たちの研究を工学的に説明することが難しかったです。基礎研究は評価されにくいと感じていたので、讀賣新聞社賞をいただくことができて、ほんとうに驚きました。
専門用語をできるだけ使わずに、聞いてくださる人全員が私たちの研究を理解できるようにするためには、もっと発表に工夫をこらさなくてはいけないと感じました。
工学フォーラムを通して、他の学校の様々な分野の研究を見聞きしたことで、自分たちの研究で足りていないことや、良い点を改めて考えることができました。この経験を今後の活動に生かしていきたいです。