日本サッカー界の将来を担うエースストライカー・小川航基くんインタビュー
<全国高校サッカー神奈川県代表・桐光学園高校キャプテン、ジュビロ磐田へ入団内定>
~ストライカーとして心がけていること、キャプテンとしての思い

(2015年12月取材)

第94回全国高校サッカー選手権大会が2015年12月30日(水)に開幕します。神奈川県予選を制した桐光学園高校は、2年ぶり9回目の本大会に臨みます。キャプテンでFW(フォワード)の小川航基くん(3年)は、大会ナンバーワンのストライカーとして注目されるだけでなく、U18(18才以下)の日本代表としても大活躍。2016年のシーズンからは、Jリーグのジュビロ磐田への入団も内定しています。

 

近い将来、日本サッカー界を背負って立つ存在になると期待を集める小川くんに、ストライカーとして心がけていること、チームのキャプテンとしての思い、なぜユースチームではなく高校サッカーを選んだか…高校最後の大舞台を前に、みらいぶ特派員のやまけんこと山田健太郎くん(国際基督教大学1年)が聞きました (2015年12月17日)。

 


この日、桐光学園高校サッカー部の練習は、横浜市泉区の「かもめパーク(神奈川県サッカー協会フットボールセンター)」で行われていました。前日までの季節はずれの暖かさとはうって変った、冷たい小雨の降る中、総勢50人のメンバーが、いくつかのグループに分かれて練習しています。


小川くん達レギュラーメンバーのチームは、パス回しからのシュート練習が中心でした。練習とはいえ球足は鋭く、ゴール裏でボールが飛んでくると思わず引いてしまうくらいの迫力がありました。大会開幕まであと2週間を切る時期なので、コーチの話にも皆真剣に耳を傾けています。


練習のあと、クラブハウスで話を聞きました。

——小川くん、キャプテンですよね。キャプテンに任命された時は、どんな気持ちだったんですか。

小川くん:高2の夏に監督から言われたんですが、その時は「…はい」とは言ったけど、内心は「いや、ちょっと、ウソだろ」って感じでしたね。正直言って、あまり乗り気ではありませんでした。1年上、2年上の先輩がキャプテンだったのを見ていて、メンバーに対する気配りとか、本当にたいへんそうでしたから。プライベートでもずっとチームのことを考え続けないといけなくなっちゃうんじゃないか、自分には無理!と思ってしまいました。


でも、実際キャプテンになってみたら、だんだんやりがいを感じてきたんです。チームが一つになって、一つの目標を目指せるということに幸せを感じるというか、「あ、これが高校サッカーの醍醐味だな」と思うようになって。その意味では、すごく貴重な経験だったなと思います。
 
——でも、みんなをまとめていくのはたいへんだったでしょう。


小川くん:うちのメンバーは皆仲が良くて、問題児とか面倒を起こす人がいないので、そういう点では苦労しないです。ただ、うちの学校は勉強の面もけっこう厳しいので、勉強をサボっているやつには「練習したい気持ちがあったら、勉強しろ」と言ったりしていました。と言いながら、僕自身、勉強はだいぶ嫌いなんですが(笑)。

 

——サッカーに役立った本ってありますか。


小川くん:長友(佑都)さんや長谷部(誠)さんが書いた本ですね。パラパラっと読んだ程度ですけど。やっぱり、名が通っているサッカー選手が書いていることって、参考になることが多いんです。あと、桐光のOBの中村俊輔さんの本も中1の頃読みました。印象に残っているのは、2002年の日韓ワールドカップで、代表入り確実と言われながらトルシエ監督から落とされたけど、「落とされたのは自分のせいだ」と書いていたことです。そのほか、オフの過ごし方は人それぞれなんだ、ということとかも勉強になりました。

※長友佑都選手:セリエA「インテル・ミラノ」所属。著書に『上昇思考 幸せを感じるために大切なこと』(角川書店)、『日本男児』(ポプラ社)
※長谷部誠選手:ブンデスリーガ「アイントラハルト・フランクフルト」所属。著書に『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎)
※中村俊輔選手:Jリーグ「横浜マリノス」所属。著書に『察知力』(幻冬舎)

 


——小川くん自身のオフはどんなことをしているのですか。

 

小川くん:自分は、なるべく試合とは関係ないことをしてリラックスして、次の日の練習で100パーセント出せるように準備します。温泉に行ったりとかもしますね。
 
——サッカーを始めたきっかけは何ですか。日韓ワールドカップの時は4歳でしたよね。記憶はありますか。 


小川くん:父もサッカーを昔やっていて、兄は同じクラブでした。サッカーをはじめたのは父と兄の影響が大きかったのかもしれないですね。


日韓ワールドカップは親がビデオをダビングして、車の中とかでよく流していたので、シュートシーンとかはちょっと覚えています。

 

——サッカーにどうしてここまで打ち込めるようになったのでしょうか。


小川くん:やはり点を決めたときの喜びが大きいですね。得点感覚は小さい頃から自信があって、小学校の区大会の時は、キックオフから直接シュートを決めたことが何回もあります。僕がキックオフをする時は、相手のディフェンスが警戒してゴールラインに3人くらい立って壁を作るんだけど、その上を抜いて決めたこともあります。あれは嬉しかった(笑)。
 
——部活の全体練習以外に、特別にしていることはありますか。


小川くん:…シュート練習ですね。ほとんど毎日、長い時で1日1時間くらいはやります。同じ形をひたすら繰り返したり、キーパーが取れないところに腰をひねったり、ニアに蹴るモーションで逆サイドに蹴ったりとか。あとはキーパーに立ってもらって、パスを出してもらって蹴りこむとか。満足するまでやろうとしますが、だいたい満足せずに終わっちゃうんですけど。
 
——練習以外で日々心がけていることはありますか。


小川くん:そうですね…。体を作らなければいけないので、ごはんは量を食べるようにしています。夜はどんぶりで3,4杯はいきます 。朝はなかなか食べられないので、卵かけご飯でツルッと。昼が足りなかったときは学校の食堂に行ったり、間食を取ったりするようにしていますが、それでもなかなか大きくなれないですね。筋トレはあまりしないです。筋トレをする時間があるなら、シュート練習だ、ってなっちゃうので。
 
——シュートを打つ時に冷静になれるメンタルって、どういうものなんでしょうか。


小川くん:「あ、来た」みたいな感じで、ドキドキはしないですね。外したら外したで、「あ、悪い。次、決めるわ」くらいのものです。むしろ完全にフリーの時の方が、ちょっと緊張するかも。

 

——意識して同世代と違うようにしていることはありますか。


小川くん:やっぱりシュート練習ですかね。シュートに対する意識は強いと思います。いろいろな試合に出ているので、相手も僕のことを研究してきてマークも厳しくなるけど、でもその上を行ってやろう、という気持ちはあります。プロになったら、やはりそうでないとやっていけないと思うので。
 
——高校からユースのクラブチームに入る、ということは考えなかったのですか。


小川くん:実は僕、小学生の時に地元の強豪クラブを受けたんですけど、調子が悪くて入れなかったんですよ。だから、中学の時、自分を落としたクラブと対戦する時は、けっこう燃えました(笑)。


高校に進学する時、いくつかのユースのチーム(※)からも「練習会に来ないか」と誘われましたが、やはり高校サッカー選手権は特別なんです。あの舞台に立ちたいと思う気持ちが強かったです。

 

※高校生の年代のクラブチーム

 

——では、最後に今大会の目標を教えてください。


小川くん:正直、県大会では苦戦したこともあったけど、勝ち切れたのが自信につながって、これまでとは違うチームに仕上がったと思います。とにかく満足のいく試合をして、チームの目標はもちろん優勝です。個人の目標は、大迫さんの記録を破って得点王を狙いたいです。

※大迫勇也選手:2009年の第61回全国高等学校サッカー選手権大会で、大会史上最多となる10ゴールを記録。現在、ブンデスリーガ「1. FCケルン」所属。

 

小川くんのサイン。背番号「9」はエースストライカー、FWの点取り屋を意味するそうです。

みらいぶライター・やまけんの感想
強豪校エースストライカーである前に、ひとりのサッカー好きとして

 〜強さの源は何か〜

やまけんこと山田健太郎くん
やまけんこと山田健太郎くん

「強豪校」

今回取材した桐光学園高校サッカー部は国内屈指の強豪チーム。そんな強豪校に対して、厳しい監督がいて、熱血のキャプテンがいて、全国各地から集められたエリートたちがしのぎを削って…と、「強豪校」のチーム像を勝手に膨らませていた。が、練習場に到着して桐光学園のメンバーの雰囲気から感じ取ったのは、想像とはかけ離れたものだった。

ほんとに楽しそう

 

グランドの脇でパス回しをしながら楽しそうに話をしているメンバー達は、「サッカーが大好きでたまらない高校生」そのものだった。のびのびとサッカーをやっている。取材が入ることで、その空気感を壊してしまうのではないか、と申し訳なさを感じるくらい。
 
はじめに抱いていたようなイメージが間違っているなら、彼らの強さの源は、はたしてどこにあるのだろう。小川くんの言葉から考えてみた。
 
 チャンスボールがきてシュートを打つとき、彼はこう思うと言う。
「あ、来た、みたいな。ドキドキはしないですね。外したら外したで、あ、悪い、次決めるわ、みたいな感じで」

U-18日本代表に選ばれ、その中でもエースとしてとりわけ注目を集める小川くん。チャンスボールが目の前に来たら、普通なら押しつぶされてしまうほどのプレッシャーがかかる。でも、彼はドキドキしない。いつも通り。「高校サッカー(選手権大会)は特別。あの舞台に立ちたい」と語る彼の言葉からは、サッカーが好きでたまらないから、外からの視線なんてそこまで気にならないんじゃないかという「強さ」が伝わってきた。

だから、ケロっとシュートを打ててしまう。外しても悔やまない。次を見ている。彼は間違いなくサッカーを楽しんでいる。「スポーツは結果がすべてだ」、たしかにその通りなんだろうけれど、まず大事なのは「どれだけ夢中になれるか」ではないか。

桐光学園の強さは、「どんな練習をしているか」にもあるけれど、練習内容以前に「どれだけサッカーに夢中になっているか」が何よりも大事で、それが強さの源になっているように感じられた。サッカーがどれだけ好きかが、普段ちゃんと最低限の勉強をするかとか、オフの日から練習に向けた準備ができるかとかに影響する。

彼の精神力というか考え方には、幼少期のサッカー経験も影響しているように思う。小学生の時は入団テストで落とされて悔しい経験をしたことも何度もあったそうだ。入団テストで落とされたチームと戦うときは、その悔しさをぶつける。彼は「自分の感情」に素直だ。

 

意識して他の人と違うようにしていること


小川くんはインタビューの中で、控えめに言った。
「シュート練習はかなりしてます」
過去に活躍してきた人は、当然そのくらいの練習はしているだろう、いや自分よりもっともっと練習していたかもしれない…。そんな意識が、わざわざ口にすることをためらわせているように思われた。
 
桐光学園の他のメンバーも少なからずそんな感覚をもって、自分なりのプライドを持ちつつ大好きなサッカーに励んでいるんじゃないか、だから「強豪校」なんじゃないかな…。
 
インタビュー中、小川くんは「小学生の頃、キックオフシュートするってなると、3人くらいぱっと守備が入るんですけどそれでも入っちゃうんですよ」と言って笑う場面があった。彼はインタビューすらも楽しんでいた。練習後でかなり疲れていたんだろうけれど、楽しいことをやってきてスッキリした顔にも見えた。すべてを楽しんでしまう余裕を身につけているんじゃないかな、とも感じた。

エースストライカーとして、キャプテンとして、U-18日本代表としてのプライドが随所に見え隠れするインタビューになった。

 

★小川くんが出場する最後の全国サッカー選手権大会★

2015年12月30日(水)開会式、1月11日(月・祝)決勝。桐光学園の初戦の相手は、初出場の長崎南山高校。1月2日12時5分キックオフ、試合会場は等々力陸上競技場です。

 

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