日本女子フィギュアの未来を担うJKスケーター宮原知子選手に会ってきた!

~華麗な演技を支えるのは、誰にも負けないストイックさと努力だった~

(2014年7月取材)


宮原知子さん。2014年四大陸選手権ショートプログラム。この時は銀メダルを獲得しました
宮原知子さん。2014年四大陸選手権ショートプログラム。この時は銀メダルを獲得しました

冬のスポーツの人気競技と言えば、何と言ってもフィギュアスケート! 最近は有力選手が次々に登場して目が離せない状態ですが、ソチオリンピックが終わって、日本の女子シングルは、浅田真央選手をはじめ長く世界のトップクラスで活躍してきた選手たちが休養や引退したりして、顔ぶれが一新しそうです。その中で、今最も注目されるのが宮原知子選手。関西大学高等部の2年生です。

 

(取材日2014年7月13日)

 


関西大学アイスアリーナ
関西大学アイスアリーナ

左が高橋大輔選手、右は浅田真央選手の佐藤信夫コーチ
左が高橋大輔選手、右は浅田真央選手の佐藤信夫コーチ

宮原さんと同学年の「みらいぶ」の取材メンバーとカメラマンのまことが出かけたのは、関西大学高槻キャンパスにある関西大学アイスアリーナ。2006年に、日本の大学としては初の通年リンクとしてオープンし、高橋大輔選手、織田信成さん、町田樹選手などたくさんの有力選手が練習拠点としています。リンクの壁には、関西大学在籍や出身の選手の大きなパネルや新聞記事がたくさん貼られていました。

 


この日は、宮原さんが指導を受けている濱田美栄コーチのグループの選手達が練習していました。

 



私達が到着した時、宮原さんは、リンクの片隅で振付の先生に細かい姿勢の指導を受けていました。同じ動きを何度も何度も繰り返して練習します。小柄な彼女がふつうにすうっと手を伸ばして滑るだけで、思わず目が引きつけられます。

 

練習が終わるまでリンクサイドで見学しましたが、とにかく寒い! 取材した日は、屋外の気温は35℃近くありましたが、アリーナの中は10℃そこそこなので、外に出ると温度差のために眼鏡がギャグのように曇ってしまいます。眼鏡だけでなくカメラのレンズもやられてしまい、カメラマンのまことは大慌てでした!

 

素顔の宮原さんは、細い声で一つずつ言葉を選びながら丁寧に話してくれる、とてもシャイな人。でも、話してくれる内容は、頑張り屋揃いの取材メンバーも圧倒されるほどの強い意志を感じさせました。

 

 写真左から: ひろき、まり、宮原さん、りお、けい。みんな高校2年生です
写真左から: ひろき、まり、宮原さん、りお、けい。みんな高校2年生です

海外遠征にも宿題をどっさり持って行く!?

まり「寒いですね! こんなに寒い中で、毎日どれくらい練習するんですか」

 

--- 冬はもっと寒いですよ。体を動かしていても寒いです。練習がある日は、ずっとリンクで練習します。朝から授業に出るのは、練習が休みの日だけなんです。

 

ひろき「じゃ、朝は早いんですか」

 

---電車とバスで家から学校まで1時間くらいだけど、滑る前に十分ストレッチとかしないといけないので、6時15分には起きます。睡眠時間は5時間くらいかな。

 

けい「早っ! 授業中とか、眠くならないの?」

 

宮原知子さん
宮原知子さん

---すごく眠いですよ。このあいだまで、一番前の列で教卓のすぐ前の席だったから、つらかった(笑)。

 

りお「練習が休みの時はどんなことをしてるんですか」

 

---週に1回休みがあるけど、今はバレエのレッスンに行っています。今年のショートプログラム(※)にはバレエの動きが入っているので、そのためにバレエもやっておきたいので。でもスケートクラブの友達とUSJとかにも行きますよ。

 ※2014-2015シーズン:オペラ「魔笛」(W.A.モーツァルト)より

 

まり
まり

まり「スケートをしていない時の宮原さんって、どんな人なんですか」

 

---人と話すのが苦手です…。でもリンクの上ではクラブの子達とふつうに話してますよ。

 

 

まり「質問リストでは『自分を動物に例えると?』って質問することになってるけど(笑)、自分ではどう思いますか」

 

---うさぎ、かな。スケートをしている時は元気で跳ねるけど、ちょっと怖がりなところとか。

 

りお「振り付けもそういうイメージで決められるのかな?」

 

---どうかなあ。振付は先生が決めてくれるので…。曲が決まったら、例えば映画の曲だったら映画を観たり、原作を読んだりしてどんな演技をするか、考えます。

 

けい
けい

けい「スケートの他に趣味は何かありますか」

 

--- 料理が好きです。お弁当とかお菓子とかも作りますよ。

 

まり「え?!じゃ、バレンタインデーにチョコを手作りしたりするの?」

 

---作りますよ。今年はフロランタン(クッキーの上にキャラメルがけのアーモンドが乗ったお菓子)を作りました。

 

男子一同「欲しいっっ!!(笑)」

 

ひろき
ひろき

ひろき「得意な科目は何ですか。試合とかで海外に出る時って、勉強はどうするの?」

 

---4才から小1までアメリカのヒューストンにいたので、英語はけっこう得意です。今英検2級を持っているので、もう1つ上をとっておきたいな、と思っています。学校に行けない時は、試験期間終了までが提出期限の宿題がいっぱい出るので、試合に持って行ってホテルで勉強することもありますよ。

 

ひろき「ええっ?! 海外でも?」

 

---関大高等部はスポーツ推薦のクラスがないので、その点はけっこう厳しいんです。

 

まり「学校に行けない期間が長いと、勉強以外のことでも不安になったりさびしかったりすることはないの?」

 

---そんなに気にならないですね。でも、授業に出られたら出たいし、みんなが早く家に帰れるのはうらやましいな、と思うことはありますけど。

 

ひろき「あまり出られないかもしれないけど、学校行事で好きなものは何ですか」

 

---体育祭とか、好きですよ。たいてい出場するものは決まっちゃっているけど。ほかのスポーツもできたらいいなって思います。じつは、球技はまったくダメなんです(笑)。

 

ショッピングモールのリンクがスケートとの出会い。実はとても負けず嫌い?!

りお
りお

りお「フィギュアスケートで生きていこうと決めたきっかけって何ですか。もしスケートに出会わなかったら、って考えたことはありますか」

 

---そうですね。気がついたらこうなっていた、という感じなんです。スケートを始めたきっかけは、ヒューストンにいた時、近くのショッピングモールの1階にスケートリンクがあって、そこで初めて滑ったのが楽しくて、「帰りたくない」って泣いたみたいです。それから、スケート教室に行くようになって、日本に帰ってきて小学校4年生の時、有力な選手が選ばれる新人発掘の合宿で選ばれなかったんです。その時、くやしくてすごく泣いて、その年の全国大会で優勝しました([一同] すごっ!!)。スケートで生きていこうと思ったのは、その時がきっかけだったかな。スケートと出会っていなかったら…。うーん、もう想像できないですね。

 

5歳。スケートを始めて1年くらいの時。テキサスの大会で優勝!
5歳。スケートを始めて1年くらいの時。テキサスの大会で優勝!
6歳。スケートを始めて2年目くらいの頃
6歳。スケートを始めて2年目くらいの頃

けい「これは誰にも負けないっていう自信があることって何ですか」

 

---体力には自信があります。ハードな練習をしてもつらくないですね。

 

けい「でもフィギュアスケートって、1回演技したら何百メートルかを全力疾走するのと同じくらいの運動量だって聞いたけど、どうなの?」

 

---体力の使い方が、ほかのスポーツと全然違うんです。4分間ずっと集中しているし、1回失敗するとダメージが大きいし、演技の後半で疲れてくると本当につらいですよ。今年のフリーの演技では、最初に3回転-3回転の連続ジャンプがあるんだけど、去年に比べたらかなりうまく跳べるようになったので、ちょっといいかな、と思ってます。

 

2014年四大陸選手権フリーの演技
2014年四大陸選手権フリーの演技

りお「ジャンプを跳ぶ時ってどんなことを考えているの? 怖いって思わないですか」

 

---跳ぶ直前は先生に言われたこととか、タイミングとかいろいろ考えているけど、跳んでいる瞬間は何も考えていませんね。怖いかどうかはジャンプの種類にもよるかな。練習して練習して、初めてきれいに跳べた時は、本当に嬉しいです。

 

りお「演技の前に集中する時って、音楽を聴いたりするんですか」

 

---選手によって違うけど、私は聴かないですね。ウォーミングアップする場所があるのですが、私はなるべく他の選手の得点とか聞こえないような場所でアップしています。

 

まり「リンクに出ていく時って、緊張するでしょう?」

 

---そう。だから、滑走順は演技前の6分間練習が終わった直後が好きですね。練習の続きみたいに滑れるから。滑走順はクジで決めるんだけど、クジ運はわりにある方だと思います。

 

りお「海外遠征って、どれくらいあるんですか」

 

---試合は年3-4回で、あとは合宿でアメリカやカナダに行きます。

 

まり「試合はヨーロッパが多いの?」

 

---いろんな国でありますよ。タイでやった時は、ビルの5階にリンクがあっておもしろかったです。

 

まり「大会のあと、現地の観光ってできるんですか」

 

---最終日に女子シングルの試合がない時にはできるけど、なかなかそういうわけにもいかないかな。

 

けい「すっごくしろうとっぽい質問だけど、スケート靴って履くのにどれくらい時間がかかるものなの?」

 

---私は5分くらいかな。スケート靴は刃物扱いなので、一部の航空会社以外は、機内持ち込みはできないんですよ。だから、預けた荷物が出てくるまでは結構ドキドキします。

 

ひろき「仲のいい選手って誰ですか」

 

---関大の同じリンクの織田さんとか、高橋さんは仲がいいですよ。国内の同じ年の選手は、まだみんなジュニアの大会に出ているので、いっしょになることはあまり多くないですね。

 

ひろき「織田さんって、むっちゃおもしろいですよね」

 

---ふだんも、テレビに出ている時と同じですよ。練習に来ると、すぐわかります。織田さんがリンクにいるとまわりが明るくなる感じで、楽しいですよ。よくしゃべってくれます

 

けい「外国の選手で仲のいい子はいますか。リプニツカヤって同じくらいの年ですよね」

 

---アメリカのグレイシー・ゴールド選手は、ジュニアの時からよく同じ試合に出ているからけっこう仲はいいですね。リプニツカヤは同じ年です。ロシアは彼女以外にも、若い子たちがいっぱい出てきています。みんなジャンプの質がすごいんですよ。

 

りお「こういうところは、外国の選手に負けない! というのはどんなところですか」

 

---印象に残る演技、というところかな。だから、今はジャンプだけでなくて、スピンを速く回ることもがんばってます。

 

まり「宮原さんの好きな男子のタイプってどんな感じですか」

 

--- ええっ…?!(笑)。海外の男子の選手はかっこいいですよ。大人っぽくて。学校の男子は…(笑って答えない)!

 

 

見ている人に「もう一度見たい」と思ってもらえる演技を目指して

ひろき「正直、スケートをやめたいと思ったことはないですか」

 

---それはないです。

けい「先生から厳しいことを言われたりしても?」

 

---それでも、やめたいとは思わないですね。小さい時は、練習から帰るのがイヤで泣いたくらい。本当にスケートが好きでたまらないから。

 

 

りお「じゃ、スケートでどんなところがいちばん楽しい?」

 

---楽しいのは、やっぱりいろんな技ができるようになること。役得だと思うのは、海外の試合に出て、いろいろなところに行けることかな」

  

りお「逆に、やっていてこわくなることってないですか」

 

---調子が悪くて、体がついていかないと感じると不安になりますね。スランプになると、筋肉が言うことをきかないみたいな感じになるので。

 

けい「それだけ一つのことをやり続けることの、パワーの根源って何だと思う?」

 

---何だろう…。やっぱり、試合で頑張って、いい結果が出せた時の充実感かな。

 

まり「インタビューされるのって、今日みたいに高校生からと大人からだとどっちがいい?」

 

---どちらも変わらないけど、テレビのインタビューはとにかく苦手です。

 

ひろき「インタビューで、好きじゃない質問ってありますか」

 

---技ができた時に、「どうしてできたと思いますか」と理由を聞かれることがあるけど、あれがいちばん困ります。理由なんてないし、覚えていないから(笑)。

 

まり「最後に、これからの目標を話してください」

 

---目標は、4年後の平昌(ピョンチャン)オリンピックに出場することです。見ている人に、「もう1回見たい!」と思ってもらえるような演技がしたいと思います。

 

(一同)「ありがとうございました。頑張ってください!」

 

今年のフリーの演技の決めポーズを教えてもらいました!
今年のフリーの演技の決めポーズを教えてもらいました!

宮原さんが、2014NHK杯国際フィギュアスケート競技大会に出場します。

詳しくはこちら→「2014NHK杯国際フィギュアスケート競技大会」HP

■取材を終えて

夢中になることを恐れない強さに触れた

幼い頃の夢を今でも追い続けている人が、一体何人いるだろうか。 私を含め、大多数の人間は、様々なタイミングで現実を見据え、当然のように幼い頃の夢にけりをつける。 今回、宮原知子選手とお話しして、私の中のこの常識は大きく変化することとなった。

 

宮原知子選手のことは、以前ニュースで見たことがあり、同学年の女の子がフィギュアスケーターとして世界の第一線で活躍している姿に驚いた記憶がある。そんな彼女と直接お話が出来ると聞いて、緊張したと同時に、心底楽しみにこの取材の日を迎えた。

 

宮原選手の練習が終わったと同時に、取材を開始した。 最初はお互い緊張していたこともあってか少したどたどしかったが、好きなことはお菓子作り、数少ないお休みがあると、スケートチームの友人とユニバーサルスタジオジャパンに行く、というような「高校生」としての宮原選手を垣間見ることが出来てから、会話がはずんでいった。今回の取材を通して、一流として活躍が期待される「アスリート」としての宮原選手だけでなく、私達と同じ「高校2年生」としての宮原選手を感じ取ることができたのは大きな収穫だったように思う。 若手アスリートとしての彼女の生活は、私には想像しがたいほどに、体力と精神力が必要とされるものであった。学校に朝から出席できる日は限られ、空いている時間はとことん練習。日々のストレッチは欠かさないだけでなく、学校でひけをとらないよう勉強にも励み、特に海外遠征で必要な英語に関しては、人一倍努力をしていると聞いて、その実直さに本当に驚いた。

 

幼い頃、当時住んでいたアメリカで、偶然スケートリンクに立ち寄ったことがきっかけで始まった、「アスリート」としての毎日。学校では、体育祭などの行事に参加できることも少なく、学校の友達とふざけ合える時間も少ない。私の中の「当たり前の生活」とはかけ離れた環境で日々努力する彼女は「普通の高校生の生活がしたいと思うことはありませんか?」という問いに対して、「あまりそうは思わない」と答えた。そんな彼女のたぐいまれな意志の固さ、夢中になることを恐れない強さ、目標にむかってぶれずに歩み続けるたくましさに感動したと同時に、こんな彼女だからこそ「アスリート」として世界を舞台に戦うという、限られた人にしか追い続けられない華々しい夢を実現できるのだなと、すんなりと納得することが出来た。だからこそ、今回の取材を通して、彼女との距離は近くなったようにも、遠くなったようにも感じた。 「もう一回見たいと思えるような、記憶に残る演技をしたい。」と語った宮原選手。私に刺激を与えてくれた彼女にとても感謝しているし、今後の活躍を心の底から願っている。

(しまもと・りお)

 

 

スケートへの愛と、勉強との両立と・・・

僕は、今回の取材で初めてスケートリンク場内に入った。立っているだけで汗をかいてしまうような暑さの外に対して、場内は半袖では凍えてしまいそうな寒さだった。そんな中で他の選手とは違い、一人コーチと演技の表現を練習していたのが宮原さんだった。僕自身スケートとは全くの無縁で、たまにテレビで見る程度なのだが、そんな僕から見ても宮原さんの演技はきれいだな、かっこいいなと感じた。実は宮原さんの身長は145センチと小柄だ。しかし、取材前、宮原さんのショートプログラムの映像を見たのだが、身長のことを全く感じさせず、同じ高校生とは思えないほどだった。これまで、宮原さんは多くの大会で素晴らしい成績を残してきていて、海外遠征なども行ってきている。まさしくトップアスリートであるが、それと同時に僕と同じ高校生でもある。今回の取材では、アスリートとして、また高校生としての素顔を知っていくとともに、自分にも何か活かすことのできるポイントがあるのではないか、と宮原さんにアドバイスをもらうような気持ちで臨んだ。

 

そもそも、宮原さんがスケートを始めることになったきっかけは、小さい頃アメリカのショッピングモールでのことだった。そこにはスケートリンクがあり、両親に勧められて試しに滑ってみたところ、楽しかったので始めたのだという。僕がまずはじめに感動した点は、その昔始めたスケートを今でも懸命に取り組んでいる、というところだ(上から目線で話していて申し訳ない)。僕自身、今まで様々なことに取り組んできたが、どれも長続きしなかったり、手を抜いてしまったりと他人に誇ることができるものは正直に言って何もない。宮原さんは今までスケートをやめようと思ったことがなく、本人は試合で良い結果が出たときの充実感が根源だと話していた。しかし、良い結果を出すためにはその分大変な練習があり、実際に僕の所属しているバスケ部では練習の厳しさから退部してしまう人もいた。宮原さんのどんなことがあっても揺るがないスケートへの愛に、憧れのようなものを感じた。

 

次に驚いたのがスケートと勉強との両立だ。僕のイメージでは、常にスケートのことを考えていて、勉強などはなかなかすることができないだろうと考えていた。が、宮原さんは、実は試合会場で先生から出された課題などをこなすというように、自分の空き時間をうまく利用しながら勉強していたのだ。まさに文武両道とはこのことで、他の学生にもこのことを是非知ってほしいし、見習いたい。

 

ただ、今回の取材で残念だったことがある。それは、取材ということもあったが宮原さんも僕らも同じ高校2年生であるのに、高校生らしい宮原さんの素顔を十分に引き出すことができなかったことだ。できれば、もう一度取材をしてもっともっと宮原さんのことを知りたいと思った。実は僕のスマホのケースの裏には宮原さんのサインが書いてある。それほどまでにファンとなってしまった。今まであまり興味のなかったスケートも宮原さんのおかげでスケートも楽しみになった。今後の宮原さんの活躍を楽しみにしていますo(^▽^)o

(とどり・けい)

 

 

「青春をリンクの上で過ごすことに全てを捧げる」覚悟の大きさ

「焦り。戸惑い。疑問」宮原さんのインタビュー中の正直な私の胸中である。インタビュー参加が決まったとき、私はなんともお気楽に「まあ、同級生やし。いけるいける。楽しく喋ってたら、きっと素の宮原さんを引き出せる」と、今考えたら、ブラジルまでトンネルを掘って逃げ込みたいくらい、なんとも浅はかな考えを持っていた。

 

インタビューが始まって、私は自分が甘かったことを痛感した。正直、同級生と話している気がしなかった。私自身、決して一芸に秀でているわけではないが、周囲から、夢中になると止まらないと言われる質の人間だ。だからこそ宮原さんと共感できる部分や理解できる部分はあると思っていたし、また高校生なのだから、夢中だからといって他のことに無欲であるという方程式は決して成り立たないと、そう思っていた。どんなに部活に夢中でも、行事に夢中でも、したいことはあるし、友人関係には悩むし、恋もしたいし、挑戦してみたいことは1つではない…(と、こんな葛藤を経験するのはきっと私だけではないはず!) のである。青春したいのである。

 

ところがだ。同じ高校生だとは思えなかった。なんだか限りなく無欲だった。その世界ならば当たり前のことなのかもしれないが、学校生活に思うように参加できないことや、遊びに行ったりできないこと。その全てに、まるで疑問を持っていないようにすら感じられた。今ご自身が、フィギュアスケートというところに身を置いていることも、彼女にとっては疑問のない道だったのだと言う。私は話している間、二度だけ彼女の素顔を垣間見た気がした。一度目は、エッジカバーのことを聞いたとき。少し照れたように、その金色のカバーが使いたかったのだと話してくれた。二度目は趣味の料理の話をしてくれていたとき。このときの宮原さんの笑顔は、戸惑っていた私を安心させてくれたほどに、普通の女の子の笑顔だった。

 

目の前にいたのは、想像以上に同級生ではなかった。自分の才能に人生を懸けるというのが、並大抵の覚悟でないことは、この記事を読んでくださっている高校生の方々なら、想像に難くないはずだ。しかし、ぶれることなく、恐らくはその覚悟の大きさも大きいとは思わずにその華奢な肩に背負っている。

 

100パーセントの彼女をたかだか1時間強の取材で見ることなど、不可能だともおもう。けれど恐らく、「青春をリンクの上で過ごすことに全てを捧げる」その覚悟をもっていて、そしてきっとそれを楽しむ彼女の姿は、紛れもなく宮原さん自身だったのだ。印象的なシーンがあった。リンクでは、宮原さんだけでなく沢山の子供たちも練習していたのだが、宮原さんの演技になると、全員が端に寄って彼女を見つめていた。勝手な想像だがしかし、彼女のこれからの長い選手生命の中、疑問をもたずにただそこにいること…楽しむこと、が出来なくなるときがいつか来てしまうのではないか…とその孤独を想像してしまうシーンだった。

 

取材終わりに、ご自分で考えられたというサインを書いていただいた。そこには日の丸がしっかり書かれていた。彼女は初対面のときから最後のときまで静かで穏やかで、野心やプライドが見えることはなかった。けれど、その日の丸は力強く書かれていた。宮原さんは選手なのである。

 

最後に、この貴重な機会をくださったみらいぶの方々、取材メンバー、主役の宮原さん、そして読んでくださったあなたに感謝して、私の取材報告としたいと思う。

(おのい・まり)

 

「自分が一番自分らしくいられるもの」に打ち込む強さ

僕は煩悩に非常に忠実な人間、要するにだらしのない奴だ。寝たい時は寝て、遊びたい時は遊び、勉強したくない時はしない。

 

だからそんな煩悩に忠実な僕には、宮原さんの話があまりにも衝撃的だった。彼女が同じ高校生とは思えないほどに自分を強く律していて、煩悩のかけらも感じられなかったからだ。

 

トップアスリートとはいえまだ高校生なんだから、練習はしんどいし、辞めたいと思うこともあるとか、もしスケート選手じゃなかったらこれをしてみたいとか、そういう受け答えを想像していたのだが、彼女の口からは一切そのような言葉は出てこなかった。

 

彼女は常にスケート第一で生活し、練習のない日もバレエ(これもスケートのためだという)をして、さらに忙しい中でも時間を見つけて勉強して、模試などでも優秀な成績を収めているというのだ。普通にできることじゃないし、競技の成績がいいというだけではこれだけ頑張れるものではない。それだけ宮原さんはとんでもないエネルギーを持っているということだ。

 

ここまで見れば、彼女がとても快活でアツい人というようなイメージを持つもしれないが、そうではなく、むしろ彼女は極めておとなしくて物静かなタイプだ。だから、正直目の前にいる147cmと小柄で大人しい同級生の女の子の、どこにそんなエネルギーを持っているのだろうと、取材している時の僕はギャップを感じざるを得なかった。エネルギー溢れるスポーツ選手と言ったら、某有名元テニスプレイヤーしか連想できなかった自分の見識不足が原因の一つなのは否定できないが・・・。

 

結局、僕が感じたそのギャップの根源である「なぜそんなに頑張れるのか」「なぜスケートに全てを捧げ続けることができるのか」という問いの結論は、取材中には出なかった。でも、今この文章を書くまでに宮原さんの発言を振り返り、考える中で僕の中で出た答えのようなものがある。取材後に考えたことだから直接聞けなかったので推測に過ぎないが、それでも少し書いてみようと思う。

 

取材の中であった受け答えに、「自分を動物に例えるとしたら?」という、取材班のとびきりキュートな質問に対して、「スケートリンクの外では…よくわからない。スケートをやっている時の自分は、ウサギかな」というのがあった。この他にも、リンクの中にいる時の自分と、外にいる時の自分は違うというようなニュアンスの答えがいくつかあったのだが、僕にはそれが「リンクにいる時の自分の方が、より自分らしい」というふうに聞こえた。

 

つまり宮原さんは、他のどのようなことをしている時よりスケートをしている時が、一番「本当の自分」に近い自分でいられると感じられているのだろう。だから、彼女にとっては自分と向き合うことができるスケートの時間は、遊びたいとか休みたいとかいう欲望よりよっぽど大切で、それこそが彼女のスケートへのストイックな姿勢を支えるエネルギーの根源なのだと思う。

 

その努力もあって、宮原さんは今や日本トップクラスの実力者だ。おそらくはスケートを職業として生きていくのだろう。つまり宮原さんは、自分が一番自分らしくいられるものを職業にするのだ。職業選択をする上でこんなに素晴らしいことはない、まさしく「天職」を見つけるというのはこういうことなのだろう。

 

でもその「自分らしくいられるもの(あまりうまい表現が思いつかなかった)」というのを、誰しもがしっかり持っているかといえば、そうではないはずだ。自分探しの旅なんてものをする人もいるほどだ。たぶん、僕を含め高校生の多くは「本当の自分ってどんなものなのだろう」「自分はどういう存在なんだろう、何のために生きているんだろう」と漠然と悩んでいると思う。

 

だから、スポーツ選手ということもあって、高校生というとても早い段階で天職を見つけて、それに日々を捧げている宮原さんが、まだもやもや悩んでいる状況の僕にはすごく大人に見えたのだ。それが取材の時に彼女に僕が感じたギャップの正体なんじゃないかと、今は思う。

 

実は僕にも、「これを考えている時の自分が一番自分らしいなあ」というものがある。それに関わる仕事につけるよう、彼女のように日々努力を重ねて、天職だと思える職業に就きたいと願うばかりだ。

(かんだ・ひろき)

 

カメラマンとして見た宮原知子選手

今回僕は、カメラマンとして取材に同行しました。

 

宮原さんは細い声で、おっとり考えてしゃべる方。現在は高校2年生(!)で、同い年の4人の高校生達が彼女に話を聞いた。話は少しずつ弾んでいって、表情も柔らかくなっていった。写真に集中していると、そういった変化に敏感になれて、その発見が純粋に嬉しい。「楽しそうに話してるな〜」と羨ましくなって、たまらず僕も質問をした。彼女はいままで会った人の中で一番ストイックというか。なんというか。とても真面目で、自分を律する力が強くて、内面にトテツモナク大きなものを秘めた人でした。

 

関大のスケートリンクはとても広くて寒くて、「こんな所で写真を撮らせてもらえるなんて…!」と少し興奮した。リンクで練習をする宮原さんをしばらく眺めていた。身長は低いけれど、とても堂々とした演技をしていた。氷上の彼女にカメラを向ける。動く被写体はいつも連射で撮るのですが、後からそれを見返してとても驚いた。身体の大きな流れだけでなく、本当に指先まで神経を使っていている。美しくて、静止画に思わず見とれた。動きのあるものの一瞬をとらえると、ここまで美しいものになるのか…。言い過ぎではないくらいに、そういった写真の新しい価値を発見し始めた気がします。

 

僕の写真はまだまだそういった場の空気を伝えられるものでは無い。しかし、今後はそういった瞬間の空気を伝えられる写真をとれるようにと、技術を磨きたいと思いました。そして、こうやって写真を通して、自分の好きなものが広がって行くのはとても嬉しいコトです。秋から始まる次のシーズンがとても楽しみです。以上、まことでした!

 

P.S. 最後に宮原さんと2人でゲッツをしちゃいました。何度も懲りずにゲッツをしていたら、彼女の「苦笑い」が「微笑」に昇進してくれて、本当に嬉しかった(笑)。

(しんぞう・まこと)

 

河合塾
キミのミライ発見
わくわくキャッチ!