今をとことんLive
(2013年7月取材)
部活でスポーツをやっている人なら、一度は出場したいと夢見るインターハイ(全国高等学校総合体育大会)。じつは、文化系の部活にもインターハイがあるって、知っていますか?
全国高校総合文化祭、通称総文祭。今年は、7月31日から8月4日までの5日間、全国約3400校から約2万人の高校生が参加して、長崎県で開催されました。演劇、郷土芸能、写真、文芸、放送、小倉百人一首、新聞、図書…などなど24の部門で、各県から選ばれた高校生が、ステージ発表や競技、作品展示などに日頃の成果をぶつけました。
今年の「長崎しおかぜ総文祭」のテーマは、『集え長崎 帆を張れ文化の船に』。各部門の会場の運営は、青いTシャツの地元の高校生が行い、各地から訪れた高校生やお客様の案内に大活躍していました。また、会場となった町には大会の案内のポスターや、各地から訪れた高校生の姿が目立ち、町全体が総文祭を歓迎してくれていることが感じられました。
文化系の部活は、ふだんは学校祭やコンクールがおもな発表の場ですが、総文祭では学校の枠を超えて、同じ活動に取り組む仲間たちと知り合ったり、刺激を受けたりすることができます。そして、同じ「好きなこと」に打ち込む人同士が出会い、交流したことで生まれる感動! そこには高校生だからこそ味わえる・高校時代だからこそ出会える、とてもだいじな「学び」があるんだなあ、と感じました。
連日最高気温35度を超える猛暑の中(とにかく暑かった!)、県内15の市や町で行われた大会のようすや、参加した高校生の声と感動をレポートします。
いそがしい中、インタビューに答えてくれたみんな! すっごく感動しました。
ありがとう!!!
●総合開会式
総文祭のオープニングを飾るイベントが総合開会式。総文祭の精神の「融合」「発祥」「共存」「平和」「創造」を、さまざまなパフォーマンスで表現しました。特に、被爆地である長崎から平和への願いをこめて、原爆をテーマにした演劇や合唱、パフォーミングアートは感動的でした。
長崎と歴史的につながりの深い中国・オランダ・韓国からも高校生が招かれ、開会式やパレードなどにも参加しました。
<7月31日 長崎県立総合体育館(長崎市)>
※開会式の写真はすべて前日のリハーサル時に撮影
●パレード
総合開会式終了後、長崎市内を全国の代表校と国際交流の招聘校の生徒約3000人が、マーチンバングバンドやバトントワリングをはじめとする華やかなパレードを繰り広げました。
<7月31日 長崎水辺の森公園周辺(長崎市)>
■規定部門
▲協賛部門(長崎大会独自部門)
■郷土芸能
和太鼓や神楽、民族舞踊など全国各地に受け継がれる伝統芸能を守り、未来に伝える活動をする58校が参加。地域色ゆたかなパフォーマンスを披露しました。
<7月31日~8月2日 島原復興アリーナ(島原市)>
■吹奏楽
全国から41の学校・合同チームが参加。コンクール形式ではなく、なごやかな雰囲気の中で、日頃の練習の成果を出しきって演奏を楽しみました。
<8月1日~2日 アルカスSASEBO(佐世保市)>
■新聞
学校新聞の紙面審査賞の授賞式・展示のほか、出場した各校の生徒が25のグループに分かれ、与えられたテーマで取材・編集をして「交流新聞」を作りました。
<7月31日~8月4日 長崎新聞文化ホール・アストピア(長崎市)>
▲図書
学校図書館で読書啓発活動に取り組む仲間たちが集まり、研修会や活動発表、広報誌やポスター・ポップのコンクール、ワークショップなどを行いました。
<8月1日~3日 諫早市立諫早図書館・諫早中央公民館(諫早市)>
▲高校生文化祭サミット
今回初めて開催された部門大会。各地の学校の文化祭の実践発表やシンポジウムを通して、自分たちで作り上げる「学校文化」について考えました。学校から与えられた部活動だけでなく、「高校にとっての文化」とは何かを、高校生自身が問い直す試みです。今後の大会でも継続し、盛り上がっていけば、より高校生の手になる総文祭の姿が作られていくような期待も感じられました。
<8月1日~2日 長崎ブリックホール国際会議場(長崎市)>
■演劇
全国各地域から選抜された12校が参加。出演者だけでなく、脚本、演出、舞台装置、照明、音響、そして観客も一体となった熱いステージが繰り広げられました。
<8月2日~4日 長崎市公会堂(長崎市)>
■日本音楽
各都道府県から推薦された団体が、箏、三弦、尺八などの和楽器で、古典から現代曲まで幅広い演奏を披露。上位4チームは東京公演に出場できるため、会場は真剣な雰囲気に包まれました。
<8月2日~3日 佐世保市民会館(佐世保市)>
■書道
各都道府県代表の生徒の作品300点以上を展示。総合開会式では、前年度総文祭の開催県の富山県立富山高等学校の書道部員が書のパフォーマンスを披露しました。
<7月31日~8月3日 佐世保市体育文化館(佐世保市)>
■器楽・管弦楽
北海道から沖縄まで2000人を超える高校生が参加して、ギター、マンドリン、管弦楽、ハンドベルなど多彩な楽器・編成でさまざまなジャンルの演奏を披露しました。
<8月3日~4日 長崎ブリックホール(長崎市)>
■美術・工芸
各都道府県から推薦された絵画や彫刻、デザイン、工芸、映像など約400点が展示されました。高校生だからこそできるエネルギッシュな作品が並びました。<7月31日~8月4日 長崎県美術館(長崎市)>
■小倉百人一首かるた
全国から141校が参加し、予選リーグと決勝トーナメントに分かれて熱戦を繰り広げました。競技かるただけでなく読み手の部門もあり、日頃の練習の成果を競いました。<8月2日~4日 長崎県立総合体育館(長崎市)>
■写真
各都道府県から選抜された約300点の作品を展示。また、大会期間中には、長崎県内3か所で撮影会も行われました。<7月31日~8月4日 長崎新聞文化ホール・アストピア(長崎市)>
▲特別支援学校
展示会場では、日々の学習で作った美術作品や、作業製品を発表。作業学習の体験や、共同制作のコーナーを設けて、来場者との交流も行われました。<7月31日~8月4日 長崎県美術館・JR佐世保駅周辺(長崎市、佐世保市)>
■合唱
全国から40の学校・合同チームが参加。ふだんはライバル校として活動することが多いですが、この大会では会場全体で歌を楽しむことを目指して、楽しいステージを創りあげました。<8月4日 アルカスSASEBO(佐世保市)>
■自然科学
物理・化学・生物・地学の4分野に関する日ごろの調査・研究の成果を口頭発表、ポスター発表で紹介しました。また、普賢岳や雲仙地獄などのフィールドワークも行いました。<8月2日~4日 島原文化会館ほか(島原市、雲仙市、南島原市)>
■放送
アナウンス・朗読・オーディオピクチャー・ビデオメッセージの4部門で、各都道府県の代表がそれぞれの「郷土」をテーマにした発表を行いました。<8月3日~4日 諫早文化会館(諫早市)>
■マーチングバンド・バトントワリング
ダイナミックな演技が魅力のマーチングバンド、バトンやポンポンが華やかに舞い踊るバトントワリング。フロア一杯にフォーメーションが繰り広げられました。<8月2日 シーハットおおむら(大村市)>
■吟詠剣詩舞
吟詠剣詩舞は、漢詩や和歌などを吟じる「詩吟」と剣や扇を用いて舞う「剣舞」・「詩舞」が融合した日本古来の伝統芸能。まさにシブい魅力を、高校生がいきいきと表現しました。<8月4日 松浦市文化会館(松浦市)>
▲郷土研究
自分達の郷土に関する歴史・地理・経済などのテーマでの研究発表・パネル発表と、古来から日本の外国との交易の舞台となった壱岐・対馬の巡検が行われました。<7月31日~8月2日 壱岐文化ホールほか(壱岐市・対馬市)>
▲JRC・ボランティア
JRC([Junior Red Cross]青少年赤十字)やボランティアで最も大切な「気づき」「ニーズの発見」について、フィールドワークや講演を通して全国の仲間と考え、学びました。<7月31日~8月2日 五島市福江文化会館・県立五島高校(五島市)>
■文芸
文芸部誌・散文・詩・短歌・俳句の5つの部門に分かれて、それぞれの研究や交流を深めました。長崎の文学にゆかりの深い場所を巡る文学散歩や、記念講演会も行われました。<7月31日~8月4日 長崎県立大学シーボルト校ほか(長与市、長崎市、西海市)>
■将棋
都道府県の予選を勝ち抜いた代表生徒が、男女の個人戦と、1チーム3人の男女団体戦に参加しました。プロ棋士による指導対局や解説も行われました。<7月31日~8月1日 時津町コスモス会館(時津町)>
■囲碁
全国から選ばれた230人の生徒が、男女の個人戦と団体戦に参加しました。「知のスポーツ」と呼ばれるにふさわしい熱戦が展開されました。<8月3日~4日 時津町コスモス会館(時津町)>
■弁論
各都道府県から選ばれた弁士が熱い思いを主張します。高校生が何を考え、何に悩み、何を目指そうとしているのか。「7分間の芸術」とも言われる見事なスピーチが披露されました。<8月2日~3日 東彼杵町総合会館(東彼杵町)>
【総文祭ってどんな大会?】
正式には、「全国高等学校総合文化祭」。高校の文化部の活動を盛り上げ、文化の交流をしよう!ということで1977年(千葉大会)に始まり、今回は37回目。来年(2014年)は茨城県、2015年は滋賀県での開催が決まっています。
総文祭の大きな特徴は、「交流」を目的にしていること。ただ競い合うだけでなく、各部門には、同じ分野で頑張っている仲間たちとの交流の機会がいろいろ設けられていています。中には、新聞部門のように、学校を超えて初めて会った仲間同士で新聞を作る、という活動が設けられているところもあります。
また、毎回行われる部門以外に、開催県が独自に実施する部門もあります。今回は、図書、文化祭サミット、郷土研究、JRC・ボランティア、特別支援学校 の5部門が開催されました。
「演劇」「日本音楽」「郷土芸能」の各部門で優秀校に選ばれた学校は、8月下旬に東京・国立劇場で公演することができ、文字通りの晴れ舞台に上ることができます。
→東京講演のようすはこちら
第35回大会(2011年)は、震災後わずか5か月の福島県で開催されました。被災のためにいくつかの部門で中止や会場の変更、規模の縮小もありましたが、困難な状況の中で開催にこぎつけた福島の高校生たちの「高校生から、日本を元気に」という力強いメッセージは、参加した高校生だけでなく、地元の人達にも勇気を与えることになりました。
【大会マスコット】
今大会のマスコットは「美龍(めいろん)」。長崎のシンボル、龍をモチーフとした女の子のキャラクターです。髪の毛は龍のキバとひげ、服はチャイナドレスをイメージしています。729点の応募の中から選ばれました。
【長崎ってどんなところ?】
今回の開催地、長崎県についてちょっと調べてみました。
日本の西の端に位置する長崎県は、日本の歴史の中で数々の重要な歴史の舞台になってきました。
古くから日本の西の玄関口として、中国や朝鮮半島との交流がさかんでした。じつは、日本でいちばん島の数が多いのも長崎県です。その数971! 2番目の鹿児島県が605なので、ダントツの数です。奈良時代の遣唐使は、壱岐・対馬など長崎の島々を経由して中国へ渡りました。
日本にキリスト教を伝えたザビエルが上陸したのは平戸(市)、江戸時代の初めにキリスト教徒への弾圧に対して一揆が起こったのは島原(市)です。そして、長崎(市)に置かれた出島は、鎖国中の日本が唯一外国とふれあえる窓口でもありました。
幕末の1854年に長崎港が外国に対して開港したのを機に、多くの外国の貿易会社が開かれました。海軍伝習所や製鉄所も設置されました。坂本竜馬をはじめとする明治維新のヒーローたちも、ここ長崎で欧米の文化や経済のあり方に触れて刺激を受けています。まさに日本の近代化の基礎は、東京でも京都でもなく、長崎で築かれたといえます。
長崎市のもう1つの顔は、広島市と並ぶ原爆の被爆地であること。1945年8月9日に投下された原爆により、7万人もの命が奪われました。市街地に山が迫る地形のため、市の東半分への被害はくいとめられましたが、かつて隠れキリシタンの人々が多かった西半分は壊滅しました。爆心地近くには平和祈念公園が作られ、「長崎を最後の被爆地にしよう」という市民の運動が今も続けられています。
また、1990年には、雲仙の普賢岳が噴火し、大きな被害を受けました。郷土芸能部門会場となった島原復興アリーナは、大火砕流の被災地を整地した跡に建てられたものです。
ゆたかな自然と日本・中国・西洋の文化の交差点としての歴史を受け継ぐ長崎は、全国の高校生が交流し、学び合う交流の最高の舞台となりました。