16年ぶりの総文祭出場 愛知県立松蔭高校和太鼓部

曲目は「祈り」 心に響く神楽太鼓を届けたい

(2016年6月取材)

県大会での演奏
県大会での演奏

毎年7月末~8月初旬に開催される「文化系部活のインターハイ」こと、全国高等学校総合文化祭。その総文祭の郷土芸能部門には、全国各地に伝わる祭り囃子、神楽、民謡、踊りなどの「伝承芸能」と、伝承曲・創作曲を含む「和太鼓」の2部門があります。「和太鼓」は、様々な種類の太鼓の合奏に、チームによっては笛や鐘、踊りや唄が加わることもあり、チームごとに持ち味が異なるパフォーマンスが繰り広げられます。

 

愛知県立松蔭高校和太鼓部は創部28年目、16年ぶり4回目の総文祭への出場です。現在部員は70人(3年15人、2年25人、1年30人)で3年生と2年生が出場します。

 

今回和太鼓部が総文祭で演奏するのは、太鼓の合奏に地域に受け継がれる神楽(かぐら)の笛や唄、獅子舞を組み合わせた華やかな創作曲です。

 

取材の日は、武道場での練習日。学年別に分かれて、それぞれの練習に取り組んでいました。

 

この日は最初に3年生が総文祭の曲の練習をしていました。リーダー役の生徒が前に立ち、曲を通しながら細かい動きや音の揃え方をチェックしていきます。とにかく迫力がすごい! 単なる大音量とは違って、空気全体が振動して、それが腹の底に響いてくる感じです。叩きながらバチを回したり、腕の角度を複雑に変えたりするのですが、ただ振りが揃っているだけではなく、息を飲むような緊張感があります。集まって来た2年生と1年生も、先輩たちの動きを食い入るように見ています。 

左の大きい太鼓が長胴太鼓(ながどうたいこ)、正面が締太鼓(しめだいこ)。1人で2つの太鼓を打ち分けます。


コーチの方に神楽(かぐら)の踊りの稽古をつけてもらっています。

 


3年間の集大成を目指して、創部以来の伝統曲にチャレンジ! ~3年生

総文祭の中心になる3年生に聞きました。

佐々木秀美さん 元部長/笛担当

――和太鼓を始めたきっかけを教えてください。

 

高校に入学して、新歓で先輩方の演奏を見て和太鼓部に入ろうと決めました。

 

――今までで、いちばんたいへんだったことを教えてください。

 

2年生の夏に出場した富士山での大会が、体力的にも精神的にもいちばんたいへんでした。毎日体の節々、指先まで痛かったですが、それでも練習しました。何よりもとにかく暑くて頭がボーっとしてきましたが、太鼓だけに集中して、あとは根性でやりきりました。

 

――和太鼓のパフォーマンスのどんなところに「醍醐味」を感じますか。

 

和太鼓にも様々な系統がありますが、どの太鼓にも共通するのは、演奏者の雰囲気だと思います。笑っていたり、苦しそうだったり、真剣だったり、背を向けていても情熱がにじみ出ていたりという舞台にあふれる熱気やそれぞれの気合が見えるのがいいなあと思います。 

――総文祭に出場できることになったのは、何が大きな要因だったと思いますか。

 

総文祭で演奏させていただく曲は、たくさんの人の力をお借りして完成しました。私個人としては、曲中にある獅子舞の笛を地域の保存会の方に直接指導していただいたことです。今までの私たちにない新しい感性を育てていただき、とても充実した経験でした。

 

部全体としては、やはり神楽太鼓で挑戦したことが大きかったです。この神楽太鼓は、創部当時から受け継がれてきたものです。部の象徴であるこの曲をもう一回見つめ直し、新たな要素を加えて一つの曲としましたが、どう評価されるか、想像がつきませんでした。

  

――夏休みまで勉強と部活の両立はたいへんだと思いますが、どのように乗り越えていこうと思いますか。

 

部活と勉強の切り替えは徹底しようと思います。どちらも後悔のないよう頑張ります!

  

貝崎壮樹くん 大平太鼓(おおひらたいこ)担当

貝崎くんの後ろが大平太鼓
貝崎くんの後ろが大平太鼓

――初めから和太鼓部に入るつもりだったのですか。

 

入学した時は、部活をすること自体あまり考えていなかったんです。そうしたら、母が和太鼓部を勧めてくれたので、見に行ってみて「すごい」と思ったのがきっかけですね。意外に女の子が多いな、というのにもびっくりしましたが。

 

――大平太鼓を始めたのはいつ頃? 自分で何か特別な練習はしているのですか。 

和太鼓のばち。太さや長さは様々です。右下が大平太鼓のばち
和太鼓のばち。太さや長さは様々です。右下が大平太鼓のばち

1年の冬に、先輩が「やってみないか」と言ってくれて、そこから始めました。大平太鼓のばちは、けっこう重くて扱うのがたいへんなので、1年の12月から週5回、ジムに通って体の軸や筋肉を作るように心がけました。体を作ったことで、打っている時自分に返ってくる音が違ってきたことがわかります。

 

――和太鼓を始めて、貝崎さんに何か変わったことはありますか。

 

時間を守るようになったと思います。練習時間が限られているので、いつでもぱっと最高の状態で始められるようにすることが、自分の中で意識としてついてきたかな、と思っています。

 

――和太鼓ってスポーツに近いのかなという印象ですが、あえてスポーツとの違いを挙げるとすれば何でしょうか。

 

難しいですね…。これは、僕個人の印象ですが、スポーツはミスしても誰かがカバーすることができますが、和太鼓、特に僕のように一人だけのパートは絶対ミスができない。個人に期待されていることと責任がすごく大きいと思います。

 

楽譜もテキストもないから、とにかく繰り返し見て聞いて叩いて覚える! ~1年生

1年生の指導は2年生が中心になって行います。実は、和太鼓には楽譜やテキストはありません。だから、打ち方も動きもすべて見て覚えて、何度も繰り返して身につけるのです。入部時はほとんど全員が初心者なので、基礎の動きを一通り練習し、コーチや先輩がそれぞれの人の特徴に合った楽器を選んでいきます。

 

入部から2か月の、1年生のメンバーに聞きました。

 

岸田亜仁香さん 1年

――和太鼓のどんなところに魅力を感じて入部しましたか。

 

先輩方の演奏を聞いて、ただ太鼓を叩いているだけではなく、表情や腰を使って体で音を表現しているところに引き込まれました。

 

 

――ふだんの練習ではどんなことをしていますか。また、学校の練習以外に個人的に心がけている練習があれば、教えてください。

 

まずは太鼓の基礎練習を毎日行っています。同じリズムをひたすら打ち、姿勢や手の上げ具合、強弱などを意識的にやっています。日々の生活の中でも太鼓を打つ時に出てくる癖を直すために、姿勢には気をつけるようにしています。

  

――これからの目標を教えてください。

 

体力も技術も早く追いついて、今の先輩方のように聞いている人を魅了できるような、そして「和太鼓ってすごいんだな」と思ってもらえるような迫力のある演奏がしたいです。そのためには、今やっている基礎練習を大切にして、細かいところも少しずつ意識して直すことを頑張っていきたいです。

 

大所帯の部活をまとめ上げながら、自分たちの音作りを目指す ~2年生

新しく入った1年生を指導しながら、全国大会に向けて3年生を最高のコンディションで送り出すという大切な役割を同時に担っているのが2年生。総文祭にも唄やお囃子(はやし)で出演するとともに、自分たちのレパートリーの練習にも余念がありません。

 

リーダーとしてメンバーをひっぱる中山さんと津田くんに聞きました。 

右から、中山亜澄さん、津田竜大くん
右から、中山亜澄さん、津田竜大くん

中山亜澄さん 部長/長胴太鼓など担当

――毎日どんな練習をしているのですか。

 

ふつうは授業が終わってから5時まで、空いている教室や屋外で基礎練習をします。木曜日と土・日は武道場が使えるので、主に合奏の練習です。地域の方に来ていただいて踊りや笛、歌などの練習もします。

 

3年生はあまり練習に出られないので、集まった時は全国大会の曲のパフォーマンスの練習をしています。2年は1年生の指導と自分たちの曲の練習、1年生は「基礎打ち」といって基本的な動きの練習が中心ですが、6月19日(10日後)に初めてお客さんの前で演奏を披露するので、その練習もしています。

 

昨年から火曜日と水曜日には筋トレも入れています。筋肉がついて、打力が全然違ってきました。

 

――和太鼓の魅力はどんなところだと思いますか。 

私は中学から和太鼓をやっていましたが、松蔭高校の演奏を見て、この学校でやりたい!と思って入学しました。和太鼓の魅力は、国や年齢に関係なく、どんな人にも音でつながることができるところだと思います。私たちの部活では、演奏会だけでなく屋外でライブのような演奏をすることが多いので、お客さんの反応がよく見えて、伝えたいこと・見せたいことがストレートに届いているのがよくわかります。

 

――実はこんなところがたいへんだ、ということはありますか。

 

近隣の方のご迷惑にならないように、練習の時には窓を閉め切ることになっています。だから、熱気がすごいんです。これからの季節は、特に暑さ対策がたいへんです。それから、やはり音がすごいので、負けないようにしゃべっているうちに、知らず知らずのうちに声が大きくなってしまいます(笑)。

 

――松蔭高校和太鼓部の持ち味・得意な部分はどんなところでしょうか。また、今回総文祭で演奏する作品のテーマ、見て・聴いてほしいところを教えてください。

 

何と言ってもチームワークです。全員が主役であること。音だけでなく、気持ちも一つにするために、イメトレとして声と手拍子で曲を合わせる、という練習もしています。

 

今回の曲は、地域の伝統を取り入れた曲なので、古い歴史を感じてもらえるように、地域の方に来ていただいて声の出し方や振りなどを指導していただいています。部長としては、中心となる3年生にいいコンディションで演奏してもらえるように、全員をまとめていきたいと思っています。

 

2年生の合奏練習。松蔭高校得意のレパートリー「エンカウンター」
2年生の合奏練習。松蔭高校得意のレパートリー「エンカウンター」

津田竜大くん 副部長/長胴太鼓、組太鼓など担当

――和太鼓を始めたきっかけは何ですか。

 

高校で和太鼓というのは珍しく、高校選びの時から目をつけていました。実際に部活の“新入生勧誘会”での先輩方の演奏を見て「和太鼓で演奏する」ということのすごさや、やりがいを感じて入部を決めました。

 

――技術や見せ方を向上するために、どんな練習をしていますか。部の練習で行っていること、個人的に心がけていることの両面から教えてください。 

 

津田くんが演奏するのが組太鼓
津田くんが演奏するのが組太鼓

まずは何においても「打力」が大事なので、基礎的な練習を積み重ね、しっかり打つことができるように努めています。また、お客さんから見た時に、集団としてみんなの動きを揃えることも大事で、腕の上げ方や角度など鏡を見たり、先輩や同期にも見てもらったりしながら、日々向上を目指しています。演奏以外でも、舞台に立ち、お客さんの前に出た時に演奏者として立ち振る舞うということも大切で、歩き方や姿勢など、周りから見て恥ずかしくないように、というのは人一倍心がけているつもりです。

  

――和太鼓の「醍醐味」はどんなところですか。

 

やはりパフォーマンスは、見てくださるお客さんあってのものなので、演奏していく中で、お客さんの笑顔や盛り上がりなどの反応を見ることができた時、「あぁ、和太鼓やっててよかった」といつも思います。また、舞台に向けての日々の練習から、仲間との団結やチームワークを感じることができるというのも、体を使って演奏する和太鼓ならではないかと思います。

 

獅子舞や踊りの入った曲もあります
獅子舞や踊りの入った曲もあります

――全国大会が決まった後、2年生の皆さんが中心になって活動を引っ張っていくにあたって、どんなことを心がけていますか。 

唄のための発声練習
唄のための発声練習

昨年度から和太鼓部への入部数が増えて、1・2年生の数がかなり多くなりました。すると、それぞれみんなの思いや考えていることが違い、そこから対立が生まれることもあります。対立が広がると部全体の士気の低下につながってしまうので、それを防ぐためにみんなを支えられるよう心がけています。

 

70人近いメンバーのほとんどが初心者だったということが信じられないくらいの迫力と完成度に圧倒されっぱなしの取材でした。しかし、一つひとつの音や動きのために皆がどれだけの練習を重ねているのか、ということも同時に知ることができました。

 

ふだんはほわっとしているけど太鼓に向かうと性格が変わる子が多い、というメンバーの皆さんの練習も、これからがいよいよ大詰めです。総文祭で最高のパフォーマンスを見せてくれることでしょう。皆さんもぜひ会場でその迫力を味わってください!

 

(取材日 2016年6月9日) 

 

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