(2014年5月掲載)
「3年前、入学式ができなかった私たちのために、本当は入学式に聞くはずだった校歌を今日、吹奏楽部が演奏してくれて、明日は入学の時につけるはずだったコサージュをつけて卒業式するんです。なんか本当にいろいろあった3年間だけど精一杯楽しめたって思えている今が凄く良い気がする!」
上の文章は、震災当時気仙沼市に住んでいた阿部愛里さんが、Facebookに投稿したものです。この春彼女は地元気仙沼の高校を卒業したばかり。現在は一人上京し、大学進学の準備をしています。彼女が過ごした3年間という月日はどのようなものだったのか。そしてこの3年間を経て、彼女はこれからどのように生きていくのか。みらいぶ高校生ライター新造真人くん(東京都立西高校)が、気仙沼を訪ね阿部さんに取材しました。
「褒められたら伸びるタイプだけど、けなされても『くそっ!やってやる!』って。学校が嫌いで、音楽が好きで、めっちゃロック好きで、でも和太鼓やる出しゃばるおばさん(笑)」。
阿部さんはそんなふうに、ユーモアを交えて自己紹介をしてくれました。彼女は2012年9月に高校生有志団体「底上げYouth(通称: Youth)」を友達と立ち上げ、観光で気仙沼を盛り上げようとしています。一方で、彼女は小学6年生の時に和太鼓で全国大会を優勝した実力者でもあります。
「ベトナム、上海万博、北京の3つの海外公演をキャプテンとしてチームを引っ張り、自他ともに太鼓奏者として生きていくと思っていた。親もそう思って、自分もそれを望んで、その道が定められていると思っていた」。
太鼓奏者になると信じて疑わなかった彼女を、そして気仙沼というふるさとを変えてしまったのが、2011年3月11日に起きた東日本大震災です。
—阿部さんは底上げYouthの共同代表をやっているよね。底上げYouthを立ち上げたのはなぜ?
地震の影響で高校は5月から始まって、夏に海外公演が控えていたから太鼓を頑張ってたけど、9月頃にパタンと自粛。そこから暇で暇でしょうがなくって。運良く、アメリカに長く住んでいた方に紹介されて、夏に3週間アメリカに行くことになった。滞在中に一番すごいって思ったのは、サンフランシスコに行った時のこと。同い年の17歳の男の子が、町のために子どもの会議の場を作ることに力を入れていて「僕たち子どもが、話し合うことに価値があるんだ。それを町づくりに反映してもらえるように活動しているんだ」と言っていた。私は震災が起きて、町がめちゃくちゃになっているのに自分は何もやってないって。ショックだった。
そんなある日、テレビの取材が入って、気仙沼の市場でレポーターを案内している時、「ここが市場です!あっちが観光施設で、まだ復旧の目処は立っていません・・・」って自分で喋っていて気が付いた。「大人には、まだまだ観光にまわす手がない。なら自分で観光を盛り上げよう!」って。一緒にやる仲間を集めるために30人くらいの友達にメールしたり、会ったり、電話したり。でも、みんなからは「部活が忙しい。子どもがやるもんじゃない」とか「高校を卒業したら気仙沼を離れるから関係ない。興味ないし好きじゃない」って言われた。それは違うでしょ!!
そのうちに、7人のメンバーが集まったから、とりあえずチンドン屋をしたりして(笑)。そんな活動をしていくうちに「私たちのやっていることは、すごいことなんじゃないか?」って思い始めた。というのはYouthを始めた人たちは、どんどん気仙沼が好きになっていく。無理矢理引っ張ってきた後輩たちも、最初は気仙沼は「好きでも嫌いでもないし、無関心」みたいな感じだったけど、今は気仙沼のことが好きと言う。自分が生まれた場所だから、出て行くにしても好きになって出て行ったほうが気持ちがいいし、また帰ってこようって思える。そうなったら気持ちいいし、気仙沼は変わっていくんじゃないかって気付いたんだ。
—そうそう、底上げYouthは「恋人」「お祭り」「フード」の3つのグループに分かれて活動しているって聞いたけど、なんで「恋人」ってキーワードが出てきたの?
Youthを立ち上げた最初の活動で、メンバーで気仙沼について知っていることを出し合ってみた。その中に、「恋人」というワードがあったんだよね。
「恋人」という言葉を、近代短歌史上初めて使った落合直文っていう人がいるのね。その人は気仙沼の出身で、その影響で市内に「恋人」にまつわるスポットが結構あることに気が付いた。
砂の上に わが恋人の名をかけば 波のよせきて かげもとどめず
これが私は一番好き。落合直文は、実は「短歌」っていうものを作った人でもあるんだ。今、和歌っていう言葉はあまり使わないじゃん。彼は、多くの人にもっと文学に触れてほしい想いで、和歌を短くして「五七五七七」っていう概念を作って、日本の「短歌革新」をした人なの。歴史の流れで、教科書とかにあまり名前が載ってないんだけど。この人と同じ時代に生まれた人たちの短歌って、昔の言葉を使ってて、実際わかりづらいのね。でも、落合直文の短歌はわかる。人のことを思って、本当に文学というものと触れてほしいっていう気持ちで作ったものだから。そんな彼の想いを受け取って欲しい。私はもう大好き!(笑)。
Youthのマーク、ロゴのデザインは、阿部さんいわく「後輩がいつのまにか勝手に作ってくれた(笑)」そうです。作ったのは村上はなさん(高校2年)と、小野寺彬さん(高校3年)。
小野寺彬さん:
Youthのロゴマークには意味があって、三角形の一番下の青は「気仙沼の海」、真ん中のオレンジは「気仙沼の人たち」、そして一番上の黄緑の若葉が、私たちYouthメンバーを表しています。
「気仙沼の海があって、気仙沼の人たち、つまり地元の方々に支えられて、私たちYouthが成り立っている」という意味を込めました。ちなみに、一番上の若葉マークが片方だけ大きいのは、これからどんどん成長していくぞ!ということを表しています!
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