(2013年10月取材)
世界のいろいろなところで、内戦やテロ、貧困、移民や難民の人権などさまざまな問題があります。そんな問題を真剣に考える高校生の主張! それが、「国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール」。
その全国大会(第60回)を見てきました(10月21日@東京・青山にある国連大学にて)。
全国の予選を勝ち抜いた29名の高校生が、「日本が国連の安保理常任理事国になることについて」「未来の世界のため、環境保護と経済開発のどちらを重視すべきか」「多様化する国連のニーズと日本の役割について」のいずれかのテーマで発表しました。
◆特賞4名⇒この4名は明年春休みに米国ニューヨーク国連本部での視察研修へ派遣されます。
・外務大臣賞 岡山白陵高等学校 上田 明さん
・文部科学大臣賞 長野県立飯山北高等学校 菅野 萌子さん
・法務大臣賞 大阪府 梅花高等学校 中越 采子さん
・公益財団法人日本国際連合協会会長賞 宮崎県立宮崎西高等学校 安藤 由夏さん
◆優秀賞6名
・東京都 東亜学園高等学校 ジェンディ 今夢 さん
・宮城県 仙台白百合高等学校 佐藤 梓さん
・東京都 青山学院高等部 弓長 春佳さん
・福岡県 八女学院高等学校 上田 泰成さん
・長崎県 九州文化学園高等学校 坂口 舞さん
・東京都 玉川聖学院高等学校 佐藤 萌音さん
ニューヨークに行くことになった4人。左から、上田さん、菅野さん、安藤さん、中越さん。
おめでとうございます!4人の皆さんの発表を紹介しましょう。
シエラレオネの現実に言葉を失う。極度の貧困で、生活費も医療費も無い、学校も電気も薬も無い。病院に運ばれるものの、医療を受けることもできず、母親の瞳を最後まで見つめながら死んでいく。ゲリラに捕らえられ、見せしめに手や足を切り落とされる、目の前で母親の首をはねられる。
私たち日本人のどれくらいの人がこの現実を知っているのか。この地球上の人々の生活環境にこんな格差があっていいのか。2011年、WHOの平均寿命調査ではシエラレオネは193番目の47歳。それに比べ日本人の平均寿命は一番で83歳。最下位と一位。
環境保護と経済開発のどちらを重視すべきか。平和な環境で暮らす日本人であれば、環境保護を重視する人が多いような気がします。しかし、シエラレオネの現実を知った人は間違いなく、「そんな甘いものじゃない!」と、経済開発を重視するのではないでしょうか。
今日、明日の食事が得られない、学校にも行けない、医療も受けられない、そんな環境の中にいる人は、環境保護など考えている場合ではないのです。環境保護はある程度成熟した発展途上国や先進国ができることだと考えます。
国連は、人が人らしく平和に暮らせる世界を追求している組織だと考えます。この平和を実現するためには最終的には人権という価値観を共有しなくてはなりません。
貧しい国には経済開発を、発展している国には環境保護を。どちらを選べといえば、「明日、生きているかわからない」という人々がこの世にいる限り、経済活動を優先させなければならないと主張します。
2013年3月、私は地学研修のため、ネパールの山岳地帯をめぐり、首都カトマンズを訪れました。圧倒的感動を覚えるヒマラヤ山帯、人なつこい人々、多様な民族文化、どれをとっても心惹かます。一方、1日18時間停電になる電力事情、環境への無配慮、未舗装の道路、詰まれたゴミ。ネパールでは、インフラ整備も環境への取り組みもまだこれからです。経済発展の途中では環境への取り組みは進んでいないのです。
昼夜を問わない停電は、外貨を得るためにインドへ電力を売っていることが理由のひとつ、と聞きました。発展のためにはもっと外貨が必要になり、ヒマラヤの美しい谷に、ひとつまたひとつとダムが建設されるかもしれません。
経済的に恵まれた国の人が発展途上国を訪れ、「美しい自然をそのままに。このすばらしい文化遺産を壊さないで」と、その国の経済状況を配慮せず言うことは、とても傲慢なことなのではないでしょうか。
環境保護と経済発展はどちらも必要で、共存すべきものです。経済発展重視で環境破壊という失敗をしてしまった北半球の国々は、その失敗を活かし、経済発展を進める国に対して支援や協力をしていくことが必要ではないでしょうか。
人が人として幸せに生きていくために一定の経済発展は必要です。また、環境を保護し、このかけがえのない「地球号」が未来に向けて航海を続けるには、人類の知恵や技術、それを形にする資金も必要です。しかし、過度な経済発展や自己中心的な開発は、地球号の座礁の原因となることに人類は気づき始めました。私も小さな小さな存在ながら、この船の乗員の1人として、地球号の未来への無事な航海のため尽くして行きます。
引率の須野原美香先生(左)と、朝一番の電車で来ました(国連大学前で)
私のひいおばあちゃんは大正生まれで今年90歳を迎えます。戦争、日本の復興や発展を見てきた、ひいおばあちゃんの話を、いつも興味深く、尊敬の思いを持って、弟と聞き入っています。ひいおばあちゃんの日々の生活にはいつも笑顔が絶えません。
一方で、高齢者の忘れない光景があります。親戚のお見舞いに行ったときのこと。親戚のいる病室は他に3人の高齢者の方がいました。そこに1人の看護師さんが昼食の介助にやってきて、「ハイ、口開けて!ほら開けて!早く食べてくれなきゃ、私困るのよ。」と、その高齢者の方々の口に、なかば強引にスプーンを運んでいくのです。流れ作業のような、そして患者の尊厳を無視する看護師の対応にいたたまれない思いがしました。
驚くべきことに世界では、80歳以上の人口は現在最も急速に増えている世代だそうです。医療技術が発展し、死亡率も低下し、世界の平均寿命は過去最高の70歳へと延びました。今や、高齢化は地球規模でも深刻な課題なのです。
日本人の平均寿命は男女ともに世界の首位です。しかし、世界に誇れる長寿国でしょうか。高齢者の孤独死、社会保障制度への不安、自殺、高齢者間での格差、老人ホームでの虐待や人権侵害など、さまざまな問題が深刻化しています。
国連総会で1990年、高齢者の自立、参加、ケア、自己実現、尊厳の5つを基本原理とした高齢者のために国連原則が採択されました。誰もが必ず迎える高齢期を、尊厳を持って、性別、地域、人種や民族的背景、障害に関わらず公平に、充実した生活を笑顔で送ることができる、そんな社会モデルを世界に向け発信し支援することは長寿国日本の役割です。世界の高齢者とその取り巻く環境にたくさんの笑顔があふれるよう、世界に向け支援できる日本、そして自分でありたい、そう強く決意します。
祖母が7歳のときにヒロシマ・長崎に原子爆弾が投下されました。その祖母から聞いた戦争の話に衝撃を受け、原爆はこわい、戦争はいけない、という意識が私の中にしっかり刻まれました。
姉がアメリカに留学した時、アメリカの人たちに「核をどう思うか?」と聞くと、「日本人には申し訳ないが、いつ戦争がおこっても対応ができるように核は手放せないんだ。」という言葉が返ってきました。日本人が伝えてきた核の恐ろしさ、悲痛な叫びは、悲しいことに世界の人には届いてはいなかったのです。今も、北朝鮮の核搭載可能な弾道ミサイル発射、イランの核開発と、私たちは核の危険性と隣り合わせにいる状態に置かれています。
平和維持のために大きな権限を持ち世界の国々をリードしていくのが、国連の安全保障理事会の常任理事国です。しかしながら、常任理事国5カ国はすべて核兵器保有国です。唯一の被爆国として核兵器の恐ろしさを理解している日本こそ、世界平和のための積極協力と責任を果たすべきです。核兵器を持たない日本が常任理事国になることで、世界平和のために力を発揮することができるのではないでしょうか。
私と同じ宮崎県出身の誇れる男性がいます。井上正盛イラク大使館第一等書記官。彼は2003年、イラク戦争中に現地で何者かの銃弾を受け、30歳という若さで帰らぬ人となりました。井上氏は幼いときに見た、中東の貧しく危険な生活を追った番組に影響されて、世界が平和であることの緊急性と重要性を強く感じ、外務省に入省されたのです。私も平和を強く願う日本の代表者として国連の一職員となり、世界平和の実現のために精一杯力を尽くしたいと思います。
参加者のみなさんに、ひとこと、将来についてうかがいました。発表した内容とともに紹介します!
「多様化する国連のニーズと日本の役割について」
青山学院高等部(東京) 弓長春佳さん
シエラレオネは1991年から10年間内戦が続き、人々は心身ともに傷を負い、経済も産業も自立することが難しくなりました。国連監視団が、治安の確保や、戦闘員の社会復帰などに力を尽くしています。
私は、アフリカ支援ボランティア団体に入り、シエラレオネの孤児院の支援を手伝っています。孤児院の責任者のアルプさんが言いました。「例話をしよう。キミが魚を釣っているが、全く釣れない。隣の人は、どんどん魚を釣っている。キミはその魚がほしいか。魚の釣り方を教えてほしいか。」
シエラレオネに必要なのは、魚の釣り方、つまり子どもへの教育です。シエラレオネの未来を築くのは子ども達。国連が子ども達に教育を施し、国として自立するまで助けるべきではないでしょうか。
日本は東日本大震災の際に、奪い合うことなく、協力し合いました。学校教育では、集団生活の仕方やルールを守ることも教えます。そのきめ細かい教育を、国連を通じて途上国へ発信していくことが、日本の役目だと思っています。
国連職員は重い使命を背負い、任務にあたっています。知れば知るほどその過酷さに驚きます。しかし、私は、幼い時に見た「荷台の下で丸まって眠る途上国の子ども達」の写真から受けたショックを胸に、国連職員を目指したいと考えています。
国連職員になりたいです。法律を勉強して、特に途上国を支援するための仕事ができたらと思っています。世界の国々の人々が幸せになるよう、warm heartを伝えたいと思っています。
「未来の世界のため、環境保護と経済開発のどちらを重視すべきか
-長崎、私たちがつくる離島の明日-」
九州文化学園高等学校(長崎県) 坂口舞さん
地元、長崎県の黒島は、人口550人程度の、隠れキリシタンの歴史を持つ島で、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の一つとして世界遺産入りを目指しています。私は、過疎に苦しむ黒島が、世界遺産に登録されれば、環境客が大勢来て、地元に大きな経済効果があると思っています。
地元の人たちに聞いて回ったところ、カトリック信者の人たちは観光化が進むことは反対だと言っていましたし、逆に、観光業で雇用が増えれば若い人も増えるだろうから賛成だと言う人もいました。
私は、環境保全と経済の両立の観点から、遺産保全と観光をバランスよく両立させることはできると思います。私たち高校生にできることは、島の地理や歴史を学ぶこと、島の清掃活動などボランティアをして島を大切にすること。こうした活動で、地元の人が守る世界遺産の島として、アピールすることができるでしょう。世界遺産を通して、理想の未来を作ることができると思います。
海外で日本語を教える教師になりたいと思っています。言語だけではなく、日本の価値観や文化なども教えたいです。
「未来の世界のため、環境保護と経済開発のどちらを重視すべきか
-発展途上国からみた課題-」
静岡サレジオ高等学校 合月七海さん
フィリピンのネグロス島は、サトウキビの島ですが、かつて飢餓の島として知られました。1958年、砂糖市場が暴落し、サトウキビが売れず、一方、島では食用作物が作られておらず、飢饉に陥り、ユニセフが緊急の援助要請をしました。現在は当時ほどではありませんが、貧しさは変わりません。私がボランティアでネグロス島を訪れた時には、サトウキビの加工工場は稼働していませんでした。ここでは、サトウキビが人々の命を左右するのです。
親に売られたり、ストリートチルドレンになり誘拐されたりした、3歳から18歳までの少女たちを保護するセンターに行った時のことです。彼女たちは笑顔で迎えてくれましたが、どこか寂しそうです。性を売る仕事をさせられた過去で、心に傷を負っているのです。どうして親が子を売るのか。問題の根源は、貧しさにあります。
単一の食物だけを生産するモノカルチャーは、植民地時代に押し付けられたものです。その土地に合った品種が消滅し、効率優先で自然環境に負荷がかかっています。害虫で全滅するリスクも高いのです。
経済開発と環境保護は両立が必要です。2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催され、持続可能な農業についても話し合われました。その理念には、発展途上国も賛成ですが、しかし、実現するための資金がありません。日本や国連が持続可能な経済開発のために協力していくべきだと思います。
フィリピンで見たことを、皆さんに伝えたいと思ってここに来ました。フィリピンに行ったことで、将来は、NGOなどで、アジアなどを中心に人を助ける仕事をしたいと考えるようになりました。大学ではそのための勉強をしたいと思っています。
「多様化する国連のニーズと日本の役割について」
安田女子高等学校(広島県) 東美言(みこと)さん
私は、アメリカの大学が主催する、核軍縮核不拡散の教育プログラムに、高校から参加しました。そこで、核兵器のことを学び、核兵器廃絶を訴えるプレゼンテーションをすることになりました。
プレゼンテーションを行うための話し合いで、核兵器を減らす条約はあるものの、現在核兵器を持っている国が保持し続けることは認める、不公平な内容だとわかりました。世界から核兵器をなくすのには、どうしたらいいか。私たちは、政府レベルではなく、市民レベルの活動が有効と考え、個人に向けたCMを作ることにしました。
CM作りは、もちろん初めてで、技術も知らず、撮り直しも多く大変でした。しかし、1人でも多くの人に見てほしい一心で完成にこぎつけました。
製作したCMの内容は、一人の少女が夢で、核のボタンを押してしまう。何気ない行動が引き起こしたものは・・。夢からさめた少女は核のボタンを捨てます。最後に「選ぶのはあなた」の字幕。
世界中の国が、得意な分野で国連に協力することがこれからは重要となるでしょう。3度も被ばくした日本の役割は、核の廃絶を訴え続けることだと思います。
私は国際看護師になりたいと思っています。もともと、看護師になりたいと思っていたのですが、看護師として、世界の貧しい国に住む人々の役に立ちたいと思うようになりました。
「多様化する国連のニーズと日本の役割について -どう日本の知識・経験を世界に活かすか」
愛知県立千種高等学校 平井杏奈さん
日本は国連において、アメリカに次いで多くの分担金を出しているものの、分担金の割には、職員数が大変少ないものとなっています。日本がもっと国連で活躍するためには、まず、日本人自身が世界の情勢を認識すべきであり、そのためには、メディアと教育が大事であると考えます。
スウェーデンに留学した際、政治家の従軍慰安婦発言に関して、スウェーデン人の友人に意見を求められました。日本への関心が高いわけではないのですが、報道やSNSなどを通じて知識を得ていました。日本のニュース番組は、高校生にもわかるように伝えられているでしょうか。わかりやすく、公平な報道で、個人が考える機会を増やしてほしいと思います。
教育に関していえば、学校教育では、考える授業が大変少ないと思います。また、歴史認識をめぐって、日本は、韓国や中国と対立していますが、第二次世界大戦後、EUでは、共同歴史認識研究を行い、それに基づき教科書が作られました。日本でも、隣国と共同歴史認識研究を行う必要があると思います。
CNNで働くのが夢です。キャスターやアナウンサーなどの華やかな表の仕事ではなく、取材で真実を追究する、裏方の仕事に憧れます。高校を卒業したら、ロンドンの大学に進学して、国際関係論を学びたいと思っています。
「多様化する国連のニーズと日本の役割について -環境問題には国境はない-」
新潟県立佐渡高等学校 中野稜子さん
中学1年の夏、北京に旅行しました。中国人は親切で、良い思い出がいっぱいできました。ただ、唯一気になったのが、北京滞在中、青い空を見たことがなかったこと。濁った空でした。今思えば、PM2.5の影響だったのでしょうか。
地球環境の問題は一国では解決できない、国際的な問題です。しかし、温暖化をとってみても、CO2の排出規制に関して、国際協調ができていません。
地球環境を守るためには、持続可能な自然エネルギーの開発が不可欠です。日本は、高い技術力で開発に貢献すべきです。私は佐渡島に住んでいますが、佐渡では自然を守る取り組みが進んでいます。自然の大切さを忘れないでください。
今回は、世界を身近に感じている人がいっぱい参加していて驚きました。高校1年生で、将来のことはまだ考えられていませんが、今回の経験で、世界に眼を向けた仕事もいいなあと思いました。
発表が終わってほっとして、仲良くなった人たちと。