世界一強い女子高生力士の休日

~取材を終えて<高校生みらいぶメンバーより>

(2014年12月取材)

「あまり苦労したという意識はない」と言い切れる強さに驚いた

ゆうすけに、女子相撲の野崎舞夏星さんの取材に誘われた時にまず思ったのは、「聞いたことがない」ということだった(ごめんなさい…!)。でも、それでかえって興味がわいてきた。どんな思いでその世界に入り、どんな強さをもって活躍しているのだろうか。

取材前にも取材中にもいくつか試合の映像を見せてもらったが、普段とは怖いくらいに目つきが違っていた。本人はあまり意識していないそうだが、持ち前の負けず嫌いな性質が現れているのだろう。また、インタビューした時、彼女は以前の試合で負ったけがの治療中であった。だが学校の友人と過ごす時間ができて良かったと、プラス思考だった。負けず嫌いもプラス思考も、試合結果をすべて力に昇華できる、強力な素質だろう。


支えを受けた人について聞いたのは、チームスポーツならその仲間の支えあいがあるのに対し、一人で戦う相撲ではどんな人間関係が影響するものなのかを知りたかったからだ。「チーム競技も楽しそうと思わないか」ということについては、「一人のほうが悪い結果もしっかりと受け止められるし、努力もそのまま反映される」ということで、やはり否定的であった。そのうえで、家族一人一人とのたくさんのエピソードを聞かせてくれた。お兄さんが応援メッセージを集めてくれたこと、お姉さんがいつも遠くから応援に駆けつけてくれること。取材の後にはご両親と並んで写真撮影をしていた、その姿が印象的だった。高校生の家族でこれほど仲がいいのは珍しいだろう。ちょっとしたチームなどよりも強固なこの結びつきも、舞夏星さんの力の一つになっているのではないか。

ここまで彼女の強さのことをあれこれと考えたが、実はインタビューの中で一番驚いたのが、「あまり苦労したという意識はない」という彼女の言葉だった。その言葉を思うと、強さのわけを考えることは彼女にとっては取るに足りないことなのだろうか、ひいては今回のインタビューでは彼女の切り取るべき側面を切り取ることができたのか、といった疑いが自分の中に生じ、不安でもあった。


そんな不安はあるけれども、今回のインタビューでは舞夏星さんの相撲に対する熱意に触れることができ、また自らの姿を顧みるよりどころとできた。最後に、今回の関係者の皆さんへの感謝をもって、締めくくる。     
 (つじ・ありつね)


「格闘家」のイメージを覆す、おだやかさとあたたかさ

皆さんにとって、格闘家とはどんなイメージだろうか。私にとって、相撲・レスリング・柔道のような格闘技の世界で活躍する人は、体格がガッチリしていて積極的な性格で、普通の人とは少し違う、強そうなオーラを放つ人だと思い込んでいた。おそらく私と同じようなイメージを抱いている人は少なくないのではないだろうか。それゆえに、初めて野崎さんにお会いしたその瞬間、私は正直驚いた。というのも、私達を迎え入れてくれた時の彼女はふんわりした雰囲気で、またインタビューに答える彼女の喋り方はとてもおっとりしていて、私が持っていた格闘家のイメージとは正反対だったのだ。取材中に彼女の試合の映像も見せていただいたのだが、その試合中の目つきは、目の前で喋っている彼女の目とは全く違う、「格闘家の目」だったのでさらに驚いた。試合が始まったら真剣な顔つきになり、勝負がついた瞬間には普段の顔に切り替わる、その切り替えができるのは、本物のアスリートだと改めて感じた。

野崎さんとお話していて、彼女は「女子相撲」というジャンルのスポーツに誇りを持っているのだと感じた。というのも、取材中彼女は、「女子相撲はとても粘り強い試合展開がされている」、「体格的に恵まれていない人でも活躍できる」など女子相撲について熱く語ってくださったのだ。さらに、「女子相撲を広く知ってもらいたい」というコメントからも、そのスポーツを代表する選手として発言しているのはかっこよかった。


野崎さんの強さの秘訣は、日々の練習はもちろん、精神力の強さだと感じた。インタビュー中に、何度も「大変とかつらいとか思うことがない」と言われていたのが印象的だった。相撲中心の生活は、幼いころからの習慣なので、彼女にとっては当たり前らしい。また、家族の温かさを感じさせるエピソードとともに、家族に感謝しているということも言われていて、インタビューしていて心があたたかくなった。そして、「相撲・レスリング・柔道の各先生方が野崎さんのことを理解してくれて、家族がいつも応援してくれるからこそ今こうやってスポーツに専念できているから感謝している」、という言葉からも、感謝の気持ちを持ってスポーツをしていることを感じることができた。

インタビュー中やインタビューが終わってからは、学校生活や方言についてなど、他愛もない話で盛り上がった。そうやって話していると、当然のことかもしれないが、野崎さんも自分と同じ女子高生なのだということに改めて気付かされた。野崎さんは私と同い年である。それにも関わらず、全国大会で女子相撲界を引っ張っていくだけでなく、世界で日本代表として活躍してさらに結果まで残しているのは、尊敬に値する。今後も野崎さんの活躍をぜひ応援したいと思った。


今回のインタビューを通して、いろんな方向からのアプローチを通して、自分の強みを見つけるというのは大切だと思った。野崎さんの場合は、女子相撲だけでなくレスリングや柔道を通していろんな体の使い方や技を覚えて、他の競技でもそれを活かしているし、それが野崎さん自身の強みだという話を伺った。個人的な話になるが、私は今フルートと国際交流の活動、この二つに力を入れている。しかし最近フルートコンクールに出ても自分の目指していた結果が出せず伸び悩みを感じていたし、またいろんな国で様々な人と出会うと自分が小さな存在であるように感じていた。同じ高校生にもかかわらず世界で結果を残している野崎さんに出会って、発想を転換して様々な方法で自分らしさを追求していってみよう、と思えたし、良いモチベーションをもらえた。今回野崎さんに出会えて様々な刺激をもらえたのは、私自身の成長に少しでもつながったと思うので、この出会いに感謝したい。
(たにはら・こころ)


負けず嫌いでポジティブ、でもやっぱり同じ高校生!

世界一に輝いた人。TVではよく見かけるが、実際にそんな人に直接会う機会はまずない。自分とはかけ離れており、異次元にいる。誰しもそんなイメージを彼らに対して抱いている。


僕自身もそうで、運動が苦手な生粋の文化部の人間なので、なおさらだった。えげつない緊張と、単なる一高校生である自分達(一緒に行ってくれた2人には申し訳ない)が野崎さんからうまく話を引き出せるのかという不安が体中をぐるぐる巡っていた。しかし、出迎えてくれた彼女の笑顔によって、それらは吹き飛んでしまった。そしてインタビューが始まり、最初はお互い緊張していたが、やりとりするうちに、雲の上にいた彼女が僕らのいる地上へ降りて来たような感覚になっていった。その不思議な感覚の正体は、彼女も僕らと同じ「高校生」だということだ。

確かに、彼女は骨折しながらも世界大会で優勝するぐらい凄い力(肉体的にも精神的にも)を持っているが、言い方は悪いけど、それらを取ってしまえば、彼女はほんわかとした癒し系(これはあくまでも僕の印象)の女子高生だ。食べるのが大好きで、お母さんの作る料理が一番好き。日曜に朝からトレーニングがあったけど、日曜ぐらい休みたい。これだけでも、自分達の中に似たような経験を思い起こされるだろう。こういったことは、実際に話を伺ってみないと、先入観に囚われてしまってなかなか理解することができない。彼女とのやりとりの中で、根は僕らと同じ「高校生」なんだということが分かった。

じゃあ、どうして野崎さんは今の野崎さんでいるのか。僕らにも起こり得るちょっとした要因(環境的なものだったり性格的なものだったり)があったおかげで、今の彼女が出来上がったのだろう。それは何か。彼女へのインタビューを通して、僕は2つ見つけた。

まず1つ目。それは、彼女が周囲の人から理解されていた、ということ。レスリングの先生に勧められたことがキッカケで相撲を始めることになったのだが、その先生は今に至るまで、レスリングの指導に留まらず、彼女の取り口(相撲を取るスタイル)に関して様々なアドバイスをなさったそうだ(世界大会直前にもいらっしゃって、アドバイスをしたとのことだ)。また、家族も彼女のことを理解していた。車で20分かかる道場まで毎回送り迎えしているお父さん。いつも側で支えているお母さん。会社の休みをとって世界大会に駆けつけたお姉さん。密かに日の丸の旗にメッセージを書き込んでくれるよう奔走したお兄さん。皆さんから愛されていた。高校生って家族と何かしらの確執を持っている、という僕のイメージとは全く逆であった。

そして2つ目は、彼女の負けず嫌いで非常にポジティブな性格だ(一見矛盾しているように見えるのは考え過ぎだろうか)。彼女のポジティブさを一番に感じたのは、ケガをしてどう思っているかを尋ねた時だった。骨折に気付いて、練習が出来なくなった時、皆さんはどう思うだろう?ほとんどの人は相当ショックを受けるのではないだろうか。僕自身もかなり落ち込むと思う。しかし、野崎さんはその治療期間を一人暮らしの準備期間として捉え、家事を手伝ったり、友達や家族と接する時間をより大切にするようにしたりしているそうだ。運動部員にとってケガは人生の終わりに等しいという凄まじい偏見を持っていた自分には、このエピソードはとても意外だった。また、彼女は試合で負けた時はとても悔しい思いをするのだが、その内容はあまり覚えていないそうだ。彼女はその悔しさを、単なる1つの出来事として捉えていたようだった。これも、彼女のポジティブな性格によるものなのかもしれない。


断っておくが、これらはあくまでも野崎さんの場合、である。もちろん皆が皆、そうすれば良くなるわけでは無いし、これ以外で成功している人もいる。これらはあくまで1つの要因に過ぎない。合う合わないもある。もしこれらを実践してみた時、合うなら合うで良いし、合わないなら合わないで別の方法を試せば良い、と僕は思う。その中で、結果的に自分に合ったものをやり続けることで、それが成功する大きなキッカケを見つけることができるのだ。僕自身も彼女のポジティブさを見習って、実践しようと頑張っている。

今回の取材で、彼女にお話を聞くことができて、本当に良かった。このおかげで、思い描いていた将来の夢に向かって突き進んでいく決心がついた。その意味でも、この取材を快く引き受けてくださった野﨑さん、取材に同行してくた友人たちに感謝しています。

相撲は日本の国技と言われていますが、この記事で初めて女子相撲の存在を知ったという人がほとんどだと思います。女子相撲がどんなのかとりあえず見たいという方。YouTubeでは取り組みの様子が既にアップされています(「女子相撲」と検索)。実際に、女子相撲を見てみたいという方、直近の大会は4月(2015年)に大阪の堺市で開催されます。ぜひ、女子相撲についてもっと知ってください!
(はら・ゆうすけ)

カメラマンから見た野崎舞夏星さん

野崎舞夏星さんにお会いした。彼女のことは取材の前から少しだけ知っていて、それでも実際に目の前にすると「この方が相撲をとるのかぁ」と。ただ、取材を始め彼女の写真を撮り始めると、野崎さんは目がしっかりしていて、それでいて品のある方で「やっぱり相撲をとるんだなぁ」と不思議な納得をした。


品のある方だなぁと特に思ったのは、取材中のこのやりとり。取材をする高校生が少し意地悪に「聞かれて困る質問はありますか?」と聞いた際に、「よく、『優勝するために苦労しましたか?』と聞かれるけど、あまり苦労したという意識はないんです。世界選手権優勝というのは、感動的かもしれないけど、好きなことなので苦労と思わず楽しんで練習できているんです」と答えた時だ。


感動的なものを求める世間からすれば素っ気ないのかもしれないが、彼女は彼女自身に対して本気で、本当の態度をとっているように感じた。なんだかとても嬉しくなった。

そういった彼女の真摯なやりとりを受けて、相撲は土俵の上で待ったなしの勝負が繰り広げられているから、土俵を下りた時には、わざわざその苦労というものは語られる必要はないのかもしれないと考えた。「本番中は体が勝手に動いているので、取り組み自体は覚えているけど、何を考えていたかは覚えていない」と彼女が言っていて、次の彼女の試合はぜひ観に行きたいと思った。相撲の立ち会いの技術的なことはわからないけど、取り組みの時の力士の真剣さは、素人のぼくでも感じ取れる気がする。

取材が終わり、皆が席から立ち上がっても、ふとしたことでまた話が始まり、いつの間にかまた20分が経っていた。彼女にとって「同級生」である3人の高校生が「インタビュアー」だったことが大きいと思うが、時間は本当にあっという間に過ぎた。お互いがお互いの話を聞き合い、引き出すことに夢中になっていた。
(しんぞう・まこと)

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