(2014年3月取材)
《みらいぶ=「未来」部=「未来」を見据えて今を存分に楽しむ「部」活》
自分のやりたいことにとことん打ち込む人をとことん応援したい。
そんな思いを持って“みらいぶ”は、高校生に読んで欲しい情報を発信してきました。
しかーし、残念ながら“みらいぶ”の目指す「高校生が自ら行動を起こす」例は、まだまだ特殊なもの。
自分から目的をもって動けば、得るものは多いし、なにより「今」を心から楽しめるはず。
自分からやりたいことを追い求めないうちは、受動的な学びを抜け出すことはできない。
もちろん、そんなに簡単なことじゃない…。
それならば、リアルな世界で、アクションのきっかけの場をつくってしまおう。
そんな発想から企画されたのが「みらいぶ 春の熟議」。高校生が身近に感じている社会問題についてディスカッションし、自ら行動を起こすきっかけとするイベントです(*^_^*)
イベントの様子を、みらいぶライターであり、このイベントの司会を務めた“やまけん”こと、山田健太郎がリポートします。
「未来の教室」に関西の高校生が集合!
~未来の教室を想定した環境で~
会場は大阪にある内田洋行の「フューチャークラスルーム」。つまり、「未来の教室」!!
部屋の2面がすべてホワイトボードになっていて、他の2面は全面ガラス張りという開放的な雰囲気。内田洋行のオリジナルアプリを事前にダウンロードしておくと、パソコンからでもスマホからでも“ワンクリックで”“瞬時に”手元の画像やパソコンの画面を壁面にスイスイ映し出し、みんなでシェアできる。教室に取り付けられたプロジェクターの数はなんと6台!
椅子や机は軽くてめちゃめちゃかわいい。学校の教室にあるような蛍光灯ではなく、超先進的な照明器具が……。ワンクリックで色や明るさを演出できて……もう、まるでスポットライト。自分が主役になった気分!劇の舞台に迷い込んでしまったか……(妄想)。学校の教室もこんな雰囲気だったらいいのになあ。
高校生でアクションプランを練る!
~未来の授業の形?社会問題について語り合う~
今回の熟議では、“高校生でも”行動を起こせるような「アクションプラン」を考えていく。机上の空論に終わりがちな、ただのディスカッションや、議論の練習を目的とするディベートとは、そこが大きく異なる。
↓テーマはこの6つ↓
A.メディアリテラシー
B.地方の未来
C.発展途上国と教育
D.グローバル人材の育成
E.防災と地域
F.偏見による生き方への影響
開催地の大阪からはもちろん、京都、兵庫、滋賀、岡山、広島、和歌山、奈良、計8都道府県から集まったメンバーで、6つのグループに分かれてディスカッションします。
6つのグループのテーマは、各グループのリーダーたち(高校生)と僕で、「高校生の関心のあること」について事前に話し合って決めたもの。
そう、高校生だって、社会や世界に対して問題意識を持っている!
進行役は理論社会学教授!?
~口を動かすのは先生でなく生徒自身~
今回イベント全体のまとめ役を務めるのは関西学院大学の鈴木謙介先生。
先生の肩書は、
「関西学院大学 理論社会学教授」。
・・・うおっ、講義型授業だったら寝るよ。
っていうのは冗談で、型破りなフランクさに誰もが“教授のイメージ”を壊されてしまうはず、というくらいとっても面白い先生なんです!
大学で教鞭を執る傍らラジオのMCも務める鈴木先生は、見た目から話し方までとてもフレンドリー。それに、テレビで観たことがある人もいるかも(以前、NHKで『青春リアル』という番組の司会もやっていた!)、というくらい実は有名。(なかなか高校生には馴染み薄いかもしれませんが。)
そんな鈴木先生が今回の熟議の進行役だ!!(*゚0゚)!!ワーオ
知らない人同士のグループは緊張感があるけれど、鈴木先生のラジオ風トークで場の雰囲気が和む。
「地方の未来」がテーマのグループで、「田舎、いいよね。」という話になっていると、「田舎は良い‥‥と言っても誰にとって『良い』の?住んでいる人?行く人?それとも、両方?」と鈴木先生。
「グローバル人材の育成」がテーマのグループへは、「グローバルって何?海外に行くことがグローバル?最初は日本人向けに作られたLINEが世界で使われるようになったこともグローバル化といえないだろうか?」。
このようなやりとりが先生と高校生たちとの間で繰り返されていたわけですが、あなただったらこれらの問いかけにどう答えますか?
データをもとに、20年後も考える!!
~20年後の未来は?問題を的確に捉える~
鈴木先生は各グループに話し合いの材料になるような統計資料も事前に提供してくださった。「20年後の未来はどうなっているか」考え、想像力を働かせることによって今すべき&今できる対策を明確化するための資料だ。
参加高校生が主役のディスカッションタイム!!
~Twitter活用。大学生も活用(笑)~
各グループに大学生が1人ずつ書記としてついていて、ノートパソコンで議事録をとってくれる(雑用ごめんなさい、今日は高校生が主役なので(笑))。議事録といってもグループごとに用意されたTwitterアカウントで高校生の発言をどんどん呟いていく方式で、その内容が会場内の壁面に大きく映し出される仕組み。議論が弾んでいるグループのタイムラインはどーんどん流れていく。すべてのグループのタイムラインが並んで壁面に表示されるので、ほかのグループがどんな感じで進んでいるのかもわかる。ハイテクー!
ディスカッションに入ると、テーマについて自分が知っていることを話したり、わからないことがあればスマホを使って調べてみたりするところからスタート。
「発展途上国と教育」グループでは、
・4歳の子どもが農業のお手伝いをしている地域がある
・生徒100人に対して先生が1人しかいない学校がある
などという情報が出てくる。どのグループも、まずはこういった知識の共有から。
しばらく経つと、どのグループでも意見を出し始める。例えば、「偏見による生き方への影響」がテーマのグループでは、
「そもそも、偏見って悪いことなの?」
「偏見って、必ず悪意によるものってことでもなくて、
お節介が過ぎるだけのこともあるんじゃない?」
といった議論も。ふむふむ。午前中のディスカッションは1時間ちょっと。お腹も空いてきたしお昼休憩、と。
すでに活動している同世代からも学べる!
~同世代の高校生の取り組みを参考に~
午後一番は、様々な活動をしている高校生団体によるポスターセッション。「自分たちで課題を見つけ、実際にアクションを起こしている高校生」の話を参加者たちが聴いて、午後の議論の参考にする時間だ。
↓今回イベントに駆けつけてくれた高校生団体↓
どんな活動をしているか、詳しくは下記をクリック!
『WITH』(国際交流)
『Teen for 3.11』 関西支部(東北復興支援)
『D.D. for Japan』(防災・減災促進)
『BOKU1 HOUSE 神戸』(10代の政治参加)
例えば、防災・減災促進団体「D.D. for Japan」は、いくつかの学校で防災に関する出張授業を行うなどの活動をしていて、NPO法人としての登録も検討しているという。ポスターセッションが終わった後は、参加者全員は発表者たちと自由に交流して、質問をしたりしながら良い刺激を受けているのが見て取れた。
キャッチフレーズでプランを表そう!
~熟議も終盤。先生からもアドバイス~
ポスターセッションを終え、14時すぎくらいから、グループごとのディスカッション再開。鈴木先生や、鈴木先生のゼミ学生(大学生)のアドバイスを受けながら議論を深め、徐々にアクションプランまでもっていく。鈴木先生のアドバイスで、発表するアクションプランは、その内容を簡潔に表すキャッチフレーズの形にすることとなった。
終盤になって鈴木先生からこんなアドバイスも。
「何か課題があるときに、それが『仕組みや制度によるもの』なのか、『人の意識によるものなのか』、一度分けて考えて、どちらかに焦点を絞ってみることも必要。例えば、男性にも育児休暇という制度があるけれど、実際に利用している人はほとんどいない。『休むと出世に響く』と上司に言われれば、仕組みはあってもその仕組みを利用できない。上司に言われなくたって、『休むのはまずいな』、と自ら思うことだってある。仕組みを作っても利用する側の気持ちが追いつかない。こんな風に焦点を絞ると、何を解決すればいいか見えてくることもある。」
これがプランだ!!
秘密のParty
●社会の抱える課題
「情報を評価識別し、クリティカルに読み取る能力」の不足
●高校生にもできる解決策
高校生が集まる楽しい時間を使って、メディアリテラシーを高校生の間に浸透させていく
●具体案
まず、「文化祭の打ち上げ」など、高校生が好き好んで集まるイベントを高校生自身で企画。そのついでに、イベント当日に撮った写真のSNSへの投稿の仕方やSNS自体の使い方について司会がちょくちょく説明を挟むことによって、真面目くさった講義になることもなく、集まった人がメディアリテラシーを身につけられる。
●社会の抱える課題
地方からの人離れ、過疎、等
●高校生にもできる解決策
田舎の素敵なところなどを高校生が発信するサイトを立ち上げる。
●具体案
地方に住む高校生が自分の住んでいる地域の素晴らしいところを紹介できる投稿サイトを作ることによって、観光地として名の知れたところだけでなく、地元の人しか知らないような場所でも、サイトで紹介されたおすすめの場所に観光客や修学旅行客が訪れるようになり、地方が活気づくきっかけとなる。
●詳しくはこちら→勝村岳世くん(盈進高等学校[広島]3年)に聞く
●社会の抱える課題
発展途上国の子どもたちが基礎教育(読み書きそろばん)を受ける機会の不足
●高校生にもできる解決策
発展途上国の子どもたちが「学校に行きたい」と思えるような絵本を作り、届ける
●具体案
夜空の綺麗な星を眺めて光り輝く星に興味を持った途上国の子どもで、それまでなら学校へ行くことも叶わず貧しさゆえ家の仕事を支えることしか考えたことがなかった子どもたちに、絵本を通して興味の先の世界を伝える。「学びたい」つまり「学校へ行きたい」という思うことを基礎教育普及のための第一歩とした。
●詳しくはこちら→佐々木佑介くん(京都市立堀川高校3年)に聞く
●社会の抱える課題
「世界に通用する日本人」の不足
●高校生にもできる解決策
「国境なき交流会」を開催。自分の得意な分野での異文化交流から始めて、その後様々な分野で異文化交流を図る。
●具体案
スポーツ枠、音楽枠、国際枠など分野別に異なる3カ国の高校生を集めて、それぞれスポーツ交流、多国籍演奏会、観光ツアーなどを通して交流を深めることによって、「異なる」ことに対する参加者の意識を変える。
●詳しくはこちら→中村詩音さん(大阪教育大学附属高等学校池田校舎2年生)に聞く
●社会の抱える課題
防災を学ぶ機会の不足
●高校生にもできる解決策
「ロールプレイイング」を取り入れた防災訓練を行う。
●具体案
高校生6人程度で、お父さん役やお母さん役を決めて災害発生時の状況をシミュレーションしてみる。また、子供役、妊婦役、老人役などを決めて災害発生後の避難所での状況をシミュレーションしてみる。そこにゲーム性を付与することによって、誰もが「アクティブ」に防災に取り組み、またそれを身の回りに「シェア」する「シェア・アクティブ防災=シェアクティブ防災」。
●詳しくはこちら→神田寛生くん(灘高校[兵庫]1年)に聞く
●社会の抱える課題
女性、障害者などに対する偏見
●高校生にもできる解決策
高校生が自分とは違う立場の人々になりきったり、自分とは違う立場の人たちとディスカッションしたりすることができる機会を設ける。
●具体案
異なった人種、年齢層、職業の人たちを10人ほど集めた一定期間の合宿を実施する。互いの相違点を見つけ、共有することが目的。また、高校生だけであれば、自分とは違う立場の人々(高齢者、障害者、女性、男性等)の気持ちを理解するためのロールプレイング、など。
●詳しくはこちら→秋山慧さん(ノートルダム清心学園清心女子高等学校[岡山]3年)に聞く
6つのアクションプランが出揃った。具体的なところまで詰められたものもあれば、タイムオーバーで具体性に欠けるものもあったけれど、どれもこれから実現していけたらいいなあと思えるようなものばっかり。どれもこれも今すぐにでも実現してほしいけれど、多分「みらいぶ」の役目はこの辺まで。あとは、高校生自身が底力をふり絞って自力でアクションを起こすかどうかに尽きると思う。
最後に、イベントの締めくくりとして鈴木先生がしてくださった話を紹介します。きっと刺さるはず。
高校生のみなさんへ、鈴木謙介先生からのメッセージ
楽しいことは感染する
熟議でのみんなの様子を見ていて、自分が高校生のころを思い出した。俺は男子校に通っていて演劇をやっていたのだけれど、高1のある日、女子と演劇をやりたいという下心から、地域の高校生を集めて公演をやろうと思い立った。
結局、高1の3月に公演は実現できたんだ。この前、たまたま地元の福岡に帰ったときに演劇関係の人にこの話をしたら、「あ、知っていますよ。今でもやっているやつですよね」って。
当時は、大変なことばかり。いろいろな学校の演劇部宛てに「一緒にやりませんか」というハガキをひとりで書くことから始めた。そして、なにより大人を説得することが大変だった。地域の顧問の先生が集まっている場所に行って、「こんなことをやりたいんですよ」と偉そうなことを言ったりして。
今日、熟議を見ていて「すげーな」って思った。最後のほうになったら、みんな前のめりでいい顔してるし。何より嬉しかったのは、後ろのほうで見学している先生が「面白そうじゃん」って顔してること。
それで、俺が始めた演劇が、どうして20年たった今でも続いているのがわかった気がした。「おもしれえな。やってみたら、すげーじゃん」っていうのは、伝わるし、つながるんだ。俺の知り合いの津田大介(ジャーナリスト)は、「正しいは伝わるけど、楽しいはうつる(感染する)」と言っていた。隣に感染するようなものは、次につながっていく面白い試みになると思うよ。
つながるって面白い
これからみんなは、大学に行ったり、行かなかったり、理系で学んだり、文系で学んだりするんだろうけど、今日出たアイデアは、経済学や社会学といった、わりと文系っぽいものが多かった。
そんな中、紹介したい面白い試みがあるんだ。ドーナツ型のでっかい容器があって、水が入れられて、ゴロンゴロン転がせる。これなんだかわかる?
答えは、そのまま。水を運ぶためのもの。50リットルくらいの水が入って、子どもでもゴロゴロ転がせる。途上国の子どもたちのいちばん大事な仕事って水汲みなんだけれど、近くの川まで往復1時間で1日5回汲みに行くなんてこともあって、学校に行く時間がない。というわけで考えだされたのが、このタンクなんだ。
つまり、文系的なアイデアだけでなく、理系的なアイデアを加えたり、物をつくったり、開発したり、そんなことからでも改革はできる。今日のメンバーが大学生になって、大人になって、「実は俺、そういう専門家だよ」とか「自分の知識ではこういうことが可能なんだけどさ」とか、そんなふうに持ち寄れたら、もっと面白いアイデアが出ると思わない?
そうやっていろいろ持ち寄って、アイデアがどんどん面白くなっていくとしたらいいなと思う。これから先、学んでいくことが専門的になっていくだろうけど、ネットワークやコラボレーションでそれを持ち寄れば、すごい面白いものができるきっかけになるんだ。
こんなことが自由な感じでできるのは若いときだけだよ。コレから先、海外に行くときは、できるだけ安いチケットで行くこと。なぜかと言うと、そういうチケットだと、隣の席のヤツも外国の金のない若者だから。12時間くらい飛行機に乗っていれば、言葉は通じなくてもだんだん仲良くなっていくんだ。
これが、やってみるとけっこう面白い。若いだけでつながれる。今日のこともそのひとつ。今日、この場だからできたってことがたくさんあると思う。
社会は変えられる
今日やってみたことは、本当に貴重な体験なんだ。一日中考えてディスカッションして、頭の中がぽーっとしてよくわからなくなっているかもしれないけれど、そのこと自体が貴重な体験だ。
昔はこういうことをやらせてくれなかったし、今ももしかしたら「いらない」と思っている大人もいるかもしれない。でも、今日見ている大人が「あれ? これけっこういけるかな?」と思ってくれたり、みんなも思ってくれたり、「やろうよ」って言い出してくれたら、それだけで人の顔は変わるし、顔が変わればその周囲は変わるし、周囲が変わったら社会は変わるし、社会が変わるってことは仕組みが変わったりお金が動くことだったりする。
つまり、たった何十畳かのスペースでやったことが、本当にいちばん最後の仕組みやお金を動かすところまでつながるかもしれないということ。そういう想像力を持って「今日はやったな!」と感じてもらえればいいのかなと思う。
以上 ~みらいぶライター・
「みらいぶ 春の熟議 」司会
山田健太郎(18)でした。
(※学年は取材時)