地元特産の焼酎から酢を作る?! 画期的な製造法で、地域の活性化も目指す

【化学】鹿児島県立福山高等学校 科学研究部

(2015年7月取材)

左から唐鎌將暉くん(3年)、八木勇成くん(3年)
左から唐鎌將暉くん(3年)、八木勇成くん(3年)

◆部員数 9人(うち1年生5人・2年生1人・3年生3人)
◆書いてくれた人 八木勇成くん(3年)、唐鎌將睴くん(3年)、満永千尋くん(3年)、米重大夢くん(2年)

 

■発表内容「焼酎から酢は作れるか」

私達の学校のある鹿児島県霧島市福山町は、その温暖な気候を利用して黒酢の生産が盛んです。学校の周りにも黒酢を作るための「あまん壷」がたくさん見られます。黒酢は過疎に悩む福山町の重要な産業であるとともに、貴重な観光資源となっています。

では、その酢はどのように作るのでしょうか。私達も中学校の社会科見学で醸造工場の見学に行きましたが、その時のイメージは「米と麹と水を壷の中に入れて放っておくと酢ができる」という漠然としたものでした。そこで科学研究同好会を立ち上げ、自分達で酢づくりの研究を始めました。

 

しかし、最初に大きな問題がありました。焼酎を勝手に作るのは、酒税法に違反することになります。そんな時、理科の先生から「日本酒を放置すると酸っぱくなって、酢のもとになる酢酸ができる。では、鹿児島名産の焼酎から酢を作ることができると思うか」という話を聞き、市販の焼酎から酢を作ることができれば酒税法にもひっかかることもなく、新しい名産品作りにつながるかもしれない、福山の町おこしや鹿児島の醸造業の振興のために、自分達で作ってみよう! ということになりました。

 

焼酎から酢を作るための実験の手順はスライドの通りです。

 

はじめに、空気中の酢酸菌を捕獲するために、
焼酎50ml (=エタノール濃度25%)、
焼酎30ml+蒸留水20ml(=エタノール濃度15%)、
焼酎20ml+蒸留水30ml(=エタノール濃度10%)
の3つの濃度の溶液をビーカーに入れ、日向と日陰に合計6個、11日間放置しました。


しかし、酢酸菌は発生せず、酸度の上昇もありませんでした。これは、酢酸菌に必要な栄養分が不足していたからではないかと考え、次は日本酒を使って同様に実験を行いましたが、今度は雑菌が繁殖して腐敗してしまいました。そこで、雑菌の繁殖を防ぐために、無菌室を使ったり器具を殺菌したりすることを考えましたが、実際の壷酢作りは自然のまま放置しているので、このような方法が正しいとは考えられません。

 

そこで考えたのは、酢酸自体に殺菌効果があるので、酢酸を培地に加えれば雑菌の繁殖を抑えられるのではないか、ということです。そして、栄養を補うために、酒粕も加えることにしました。

 

そして、200mlビーカーに蒸留水100ml、酒粕3g、福山酢30ml(1%)、99%エタノール4ml(3%)で作った培地を校長室、体育教官室奥の用具室、物理準備室、生物室の4か所に置きました。この結果、雑菌の多い用具室は腐敗してしまいましたが、他の場所では7日後に酢酸菌膜が得られました。

 

次に、ここで得られた酢酸菌を使って、培地のエタノール濃度と酢度の関係を調べました。


エタノール濃度が0%から12%まで、1%きざみの13種類の濃度の培地で、45日間酸度の上昇を測定しました。

 

すると、9日目まではエタノール濃度2%の酸度の上昇が大きく、28日目以降は8%のものが上昇率が大きいことがわかりました。

2%の方は、生成速度は速いものの、酸度は日を追うごとに下がってしまっています。この酸度低下を防ぐためにはどうしたらよいのか。


私達が以前失敗した実験で、培地をスターラーでかき混ぜ続けたら酢酸菌発生はおろか、カビすら生えなかったというものがありました。また、鹿児島県工業技術センターでは、醸造時にラップをしっかりとすることで酸素の混入を防いで酸度低下を防止している、ということをうかがいました。

そこで、2%エタノール酒粕培地を、酢酸発酵後「スターラーをかける」「厳重に三重のラップをする」「軽くラップをする」という操作をしたところ、スターラーでかき混ぜることにより,効率よく酸度低下を防止することができました。

これらから、私達は発酵終了直前にエタノールを追加することで、エタノール濃度2%時の生成速度の速さ、8%時の生成量の多さを同時に利用することができるのではないかと考えました。

7日目と16日目にエタノールを添加したところ、予想通り酢酸の生成量が増加しました。このように、途中でエタノールを追加する方法は、従来の酢作りでは行われていなかった、画期的な方法です。

以上のことから、「焼酎から酢を作ることができる」と結論付けることができました。


そして、最適条件はスライドに示す通りです。

できあがった酢で食味官能実験をしました。濾過して100℃で15分間煮沸消毒したものを味わってみると、市販の酢よりもツンとせず、まろやかな食味のものができました。

今後は、
・酒粕ではなく、焼酎粕を用いて酢を作ることを成功させる。
・酒粕や焼酎粕を用いずに酢を作る。
・自然界の酢酸菌の捕獲条件をもっと詳しく探る。
などについても、さらに研究を深めていきたいと思います。

■研究を始めた理由・経緯は?

福山高校の地元福山は過疎化が進んでいます。福山高校の生徒数も、全校生徒152人、一学年50人とピーク時の半数にまで減少しています。そのため、福山や福山高校を活性化させることを目標に、地元の名産品の焼酎、酢、そして科学の力を結び付けて新しい名産品である酢をつくることをテーマにしました。(八木くん)
今までの鹿児島の名産品から新しい鹿児島の名産品を生み出すことで、過疎化に悩む福山町の地域活性化や町おこし、鹿児島の醸造業全体の活性化につながると思ったからです。(米重くん)

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2013年9月から、1日あたり2~3時間行いました。

■今回の研究で苦労したことは?

・滴定で何個も測るのが多いこと。(満永くん)
・空気中から福山高校に生息している菌をとらえる実験で、20~30回失敗続きだったこと。何回やっても失敗で最適な条件も手探り状態で精神的に辛かったです。(八木くん)
・測定とその片付けです。1年生がいないときは人数が少なく、最高で39回の測定! その片付けを毎日行いました。(唐鎌くん)
・エタノール濃度の比較実験で、0~12%に設定した13個の培地を3回ずつ、計39回の測定を行ったこと。(米重くん)

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

・マイクなしで発表するための小道具を使いました。(満永くん)
・「初期設定のエタノール2%を全て酢酸発酵しきったら、エタノール2%を添加する。添加した分のエタノールも酢酸発酵しきったら、またエタノール2%を添加・・・」というように、「エタノールを酢酸発酵しきったら添加」という、従来の酢作りには見られなかった方法を開発したこと。(八木くん)
・できるだけ分かりやすく書いたので、全てを見てほしいです!(唐鎌くん)
・培地にすべて薬品だけにするのではなく、地域の特産品「福山酢」を用いたこと。(米重くん)

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究


鹿児島県工業技術センター松永さんの助言をいただきました。
・『驚異の「天然つぼ酢」-血液が若返る』藤野武彦(講談社)
・『福山の黒酢琥珀色の秘伝』蟹江松雄(農山漁村文化協会)
・「日本農林規格」農林水産省

■次はどのようなことを目指していきますか?

・今回の研究はまだ最初の段階なので、次年度は、今回の研究で失敗したり、うまくできなかったりした実験を行い、何回も実験を行うことで、再現性も確かめたいと思う。(米重くん)

■ふだんの活動では何をしていますか?

・近隣の高校と一緒に、理科離れをしている子供達に理科の楽しさを伝える「わくわく実験コラボ」という実験教室を行いました。今後は中学校等への出前授業なども要望があればしていきたいです。(八木くん)

■総文祭に参加して


・高校で最後の場で全国大会だったので、まさか行けるとは思わなかった。私は発表しなかったが他のメンバーが前にでる時はかなり緊張した。先生のおかげで色々な体験ができたので感謝したいです。(満永くん)
・様々な研究があり自分自身の科学に対する視野が広がりました。研究だけでなく生徒交流会や巡検など楽しいイベントも企画されていて、もう一度総文祭に出場したいなと思いました。(八木くん)
・最初で最後の全国に出場し、とてつもない緊張でした。でも、自分のできるだけのことができたので良かったです。また周りの研究もとても興味のわく研究だと感じました!(唐鎌くん)
・今回の総文祭は初出場で、想像していたのと大きく違い、緊張やあせりが出てしまいましたが、いつも通り練習してきたプレゼンなどができ、私達の実力が今まで以上に知ることができた。結果的に入賞はしなかったものの、全国大会や全国の高校のレベル、研究内容を知ることができ、とても勉強になりました。この勉強したことを次年度に生かしていきたいです。(米重くん)

福山高校科学研究部の皆さん
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