カスミサンショウウオに立ちはだかる壁!

安住の地にたどりつくために水路の壁はどうあるべきか

【生物/ポスター部門】滋賀県立虎姫高校 科学探究部

(2015年7月取材)

左から、池野僚太くん(3年)、澤村直輝くん(3年)、清水健介くん(3年)、中辻翔太くん(3年)
左から、池野僚太くん(3年)、澤村直輝くん(3年)、清水健介くん(3年)、中辻翔太くん(3年)

◆部員数 17人(うち1年生2人・2年生3人・3年生12人)

◆書いてくれた人 池野僚太くん(3年)

■研究内容「カスミサンショウウオの壁のぼりに関する研究」

カスミサンショウウオは、愛知県以西に生息する止水性の小型サンショウウオです。全長は成体で60〜125mm、環境省レッドリストでは絶滅危惧II類、滋賀県版では希少種に指定されています。


カスミサンショウウオは冬から春にかけて卵嚢を産卵し、卵嚢から孵化した幼生は水中で成長し、夏の初めに上陸して成体となり陸上で過ごします。

図は私たちが発見した産卵地の写真です。Aはコンクリートの用水路、B~Eは山裾の湿地、Fはコンクリートの蓮池となっています。

これまでの私たちの産卵地調査から、カスミサンショウウオの生存を脅かす存在として、天敵の存在、水枯れ、降雨時の水流、傾斜角の大きい壁などが挙げられました。中でも、私たちは傾斜角の大きい壁に注目し、幼生から成体へ変態した直後のカスミサンショウウオはコンクリートの壁を登ることができるのかという疑問を持ち、実験を始めました。

 

[実験]
私たちはコンクリート壁の傾斜角、表面形状、角の有無に注目して実験を行いました。図のような装置を作り、変態したばかりのカスミサンショウウオ20匹を砂利の上に置き、以下の条件1~3の元で24時間後に壁を登ってケースに入った個体の数をカウントしました。

 

・条件1:コンクリートの傾斜角を15,30,45,50,60,75,80,85,90度に変える。


・条件2:コンクリート板の表面形状を滑らか、粗い、縦縞、横縞に変える。

・条件3:先行研究ではトウキョウサンショウウオが角を使ってコンクリート壁を登ることが知られているので、これを検証するためにコンクリート板を組み合わせて図のような壁を作る。


[結果]
滑らかなコンクリート板を使った条件1では、傾斜角が大きくなるにつれ上陸成功率は減少していることがわかりました。

次に条件2・3の場合、傾斜角60度では滑らかなコンクリート板よりも、粗い、横縞、縦縞、角つきのほうが成功率が高くなりました。これは、表面に凹凸があることで、カスミサンショウウオが手足を左右に突っ張ったり、溝の上にかけたりして、体重を支えやすくなるためと思われます。また、傾斜角90度においてはいずれも低い値を示しました。なお、傾斜角90度でも上陸する個体は存在しますが、実際の水路ではもっと長い距離を登る必要があることや、壁際にはアメリカザリガニ等の天敵が存在することから、野外では死亡する可能性はより高まると思われます。

これらの実験から、カスミサンショウウオは表面形状や角の存在にかかわらず、傾斜75度以上の急なコンクリート壁を登ることは難しいということがわかりました。よって傾斜角が急な産卵地では、傾斜角60度以下のスロープを設置するなど対策が必要と考えます。


■研究を始めた理由・経緯は?

滋賀県長浜市中部地域にあるカスミサンショウウオの産卵地において、カスミサンショウウオが用水路やコンクリート壁を登ろうとして落下する様子が観察されました。上陸が阻害されることは溺死や捕食の危険が増大するため、カスミサンショウウオの生存を脅かす大きな原因となります。そこで、カスミサンショウウオの保護のためにも、どのような条件のコンクリート壁なら登れるのかを検証するため、研究を開始しました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

実験活動は、1日あたり約1時間(装置の設置+観察と計数)で約2か月です。カスミサンショウウオ全般の研究に関しては、2012年から行っています。

■今回の研究で苦労したことは?

実験装置を設置して、24時間後に観察や計数を行いました。この試行回数を多くしたため、ほぼ毎日学校に来て実験をすることに苦労しました。しかし、手を抜かずに実験をした分、良い結果が得られたことには満足しています。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

・カスミサンショウウオに上陸する必要性を感じさせる実験装置を作成した点。
・コンクリート壁を傾斜角と表面形状の2点に注目し、結論を導き出した点。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?


・『原色爬虫類・両生類検索図鑑』高田榮一、大谷勉 (北隆館)
・「日本のレッドデータ検索システム」 

 NPO法人野生生物調査協会、NPO法人Envision 環境保全事務所
 http://www.jpnrdb.com/
・「トウキョウサンショウウオの三面コンクリート水路での繁殖」2006 

 埼玉県立松山高校生物部

■次はどのようなことを目指していきますか?

次は、カスミサンショウウオの生存を脅かす大きな原因の1つである産卵地における水流がカスミサンショウウオの幼生を流してしまうのかどうか、研究を進めていく予定です。


■ふだんの活動では何をしていますか?

ふだんは保護飼育しているカスミサンショウウオの世話をした後、研究を行っています。その他にも文化祭での出し物等も行っています。詳しくは、虎姫高校科学探究部のホームページをぜひみてください。(ホームページはこちら


■総文祭に参加して

今回私たちは総文祭出場者としてだけでなく、運営スタッフとしても参加しました。忙しかったですが、充実した3日間でした。

ポスター発表では審査中は緊張しましたが、審査がない時間には様々な方々にポスター発表を聞いていただき、質問や提案や批評をたくさんしていただきました。これらの質問や提案や批評には、これまでに私たちが研究してきた中で気付けなかったことや、初めて知ることも含まれていたので、今後の研究を進める上で非常に重要なことを教えていただくいい機会になったと感じました。ぜひ今後の研究に生かしたいと思います。


※虎姫高校は、「アントシアニンの退色に関する研究」についても発表しました。

■研究内容「アントシアニンの退色に関する研究」

◆研究したのは 布本孝裕くん(3年)、居川尚矢くん(3年) 

会場運営担当としても活躍した虎姫高校生。 前列左から3番目が布本孝裕くん(3年)
会場運営担当としても活躍した虎姫高校生。 前列左から3番目が布本孝裕くん(3年)

pH指示薬として用いられることのあるアントシアニンの退色についてその退色を抑制する方法はないか、ということで今回はデンプンと金属イオンについて実験を行いましたが、退色抑制は見られませんでした。


■研究を始めた理由・経緯は?

昨年の研究でアントシアニンは退色が起こるために、pH指示薬として不適であるとわかったため。その退色を抑制する方法はないか、ということで今回の研究を始めました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

1週間当たり約4時間で約4か月ですが、アントシアニン全般に関しては約2年行っています。

■今回の研究で苦労したことは?

きちんと結論を導き出すことのできるデータを出すため何度も実験を行うのが大変でした。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

結論を導き出すことのできるデータが出るまで、実験方法について見直し、くり返し実験を行った点です。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

「花の色とアントシアニンの化学」斎藤規夫(蛋白質 核酸 酵素Vol.47No.3(2002) )

■次はどのようなことを目指していきますか?

今回の研究では、退色を抑制する方法は見つからなかったので、引き続きその方法を探究できればと思います。

■ふだんの活動では何をしていますか?

カスミサンショウウオの研究やフィールドワークなどです。

■総文祭に参加して

自分たちが全国大会の場で発表を行ったという経験だけでなく、その運営に関わったことや、全国の高校の素晴らしい発表を見ることができたことなど、様々なことを経験できました。今回の総文祭に携わることができて本当に良かったです。

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