竜巻注意情報の精度を上げ、防災に役立てる!


【地学】沖縄県立球陽高等学校 地球科学部

(2015年7月取材)

左から又吉真子さん(2年)、石川ひな子さん(2年)、奥間夢翔さん(2年)
左から又吉真子さん(2年)、石川ひな子さん(2年)、奥間夢翔さん(2年)

◆部員数 3人(2年生3人)
◆書いてくれた人 又吉真子さん、石川ひな子さん(2年) 

 

■研究内容「関東平野の竜巻発生メカニズムに関する研究」

私たちの住む沖縄県では、竜巻が多く発生します。私たちは、竜巻再現実験装置の開発を通して竜巻発生のメカニズムを解明するために研究を行いました。

既存の竜巻再現実験装置は、回転する気流を上昇気流で吸い上げる方法や、ペットボトルから水を抜いて回転を与える方法が知られています。これらは身近な材料でできていますが、はじめから回転や上昇という竜巻発生条件が与えられているため、自然状況下での竜巻発生過程の解明にはつながりません。一方、大学で用いられる装置は数百万円もするもので、一般的とは言えません。


そこで本研究では、竜巻発生条件をはじめから与えない竜巻再現装置を安価な材料を用いて開発し、竜巻の発生過程を解明することにしました。

 

下図は、関東平野と沖縄本島の風の観測点の分布を示しています。

このように、沖縄本島で竜巻が発生しても、その周辺の風を観測できるポイントはわずかです。また、海岸沿いで竜巻が発生しても、陸側にしか観測点がありません。


一方、関東平野で竜巻が発生すると、かなりの観測点で竜巻をとらえることができます。
そこで本研究では、関東平野で発生する竜巻を研究対象としました。

まず、関東平野で発生した竜巻の調査を行いました。
調査した竜巻は以下の2つです。
(1)2012年5月6日12時30分 茨城県つくば市で発生した竜巻
(2)2013年9月2日14時05分 埼玉県越谷市で発生した竜巻

調査結果です。
(1)つくばの竜巻の発生前後の気象レーダー画像です。☆印は竜巻発生地点を表わしています。積乱雲が竜巻発生30分前は西側に、発生30分後は東側にあることがわかります。したがって、竜巻発生時刻にちょうど竜巻発生地点付近に積乱雲があったことが推測できます。

下図は、竜巻発生時刻の風向・風速・気温をまとめたものです。☆印が竜巻発生地点、数字は気温、赤色が暖気、青色が寒気を表します。竜巻発生地点付近では、暖気に対して寒気が横方向からぶつかっていることがわかります。

一方、(2)越谷の竜巻発生前後の気象レーダー画像から、積乱雲は竜巻発生時刻の1時間前には竜巻発生地点の西側に、5分前にはちょうど竜巻発生地点付近にあることがわかります。

また、竜巻発生時刻の風向・風速・気温をまとめた図を見てみると、竜巻発生地点付近で寒気と暖気がすれちがっていることがわかります。

また、どちらの竜巻も関東平野の中央付近で発生していたことが地図からわかりました。

 

以上の調査からわかった共通点は以下の通りです。
・竜巻発生時刻は気温の高い日中の時間帯である。
・竜巻発生地点は関東平野中央付近の平坦な地形であり、南寄りの暖気と北寄りの暖気の境界付近である。
・竜巻発生時刻に積乱雲が通過していた。


以上の調査をふまえると、竜巻再現実験装置の開発には、
・寒気と暖気をぶつけることができる
・上昇気流(積乱雲)を自由に動かすことができる
という二つの条件が必要であることがわかりました。

下の写真は私たちが開発した実験装置です。

平坦な部分が関東平野です。上昇気流はパソコンのファンを用いて再現し、電源装置につないで吸い上げる力を調節できるようにしました。空気に色を付けるためのフォグマシーンから出る煙は、温度が高くすぐ上昇してしまうため、氷入りの冷却装置の中を通しました。これは写真の右側から左側に向けて放出され、暖気の役割を果たします。左側の冷却装置は氷の量を多くし、相対的に冷たい空気を写真の右側に向けて放出します。こちらが寒気に相当します。

この装置を用いて、先ほどの(1)(2)の竜巻を再現しました。(1)では、暖気に対して寒気が横方向にぶつかっていたため、それを再現する気流を作り、その上で上昇気流を動かして、竜巻ができるかどうかを検証しました。

こちらが空気の流れの模式図です。
このように、暖気と寒気の境界で暖気の回転が見られました。

 

次に、上昇気流を寒気の真上・暖気と寒気の境界・暖気の回転の中心と動かしていくと、回転の中心の真上に来たときのみ、暖気を吸い上げ竜巻が発生しました。

 

(2)の再現実験では、暖気と寒気がすれ違っている気流を作り、その上で上昇気流を動かして、竜巻ができるかどうかを検証しました。


こちらでも寒気と暖気の境界付近で暖気の回転が見られ、回転の中心の真上に上昇気流を動かしたときのみ竜巻が発生しました。

以上の実験からの考察です。
(1)の竜巻について、つくば市の当時の気温から等温線を引き、5度以上の温度差がある部分を暖気と寒気の境界線と推定して線を引くと、竜巻は境界付近の暖気側で発生していることがわかりました。このことから、実験装置のように境界付近で暖気の回転が見られたと推定できます。

以上のことから、つくば市での竜巻発生メカニズムは次の通りに考えられます。


まず、関東平野の中心付近で、北からの寒気と南からの暖気がぶつかり、境界付近で暖気の回転が生じます。その真上を積乱雲が通過したときに地表の回転が吸い上げられ、竜巻が発生します。


越谷市でも同様の現象が見られたと考えられます。

結論です。
今回の研究により、関東平野で竜巻が発生するメカニズムは次の通りとわかりました。


1.関東平野中央部の地平面で南からの暖気と北からの寒気がぶつかったりすれちがったりすることで風の回転が発生する。
2.関東山地方面で発生した積乱雲が発達しながら関東平野を東に横切る。
3.積乱雲が回転の真上を通過する。
4.竜巻が発生する。

従来の竜巻注意情報は積乱雲にのみ注目していたため、発生の時間や場所が特定できず、広範囲に警報が発されていました。的中率も5~10%しかありません。


私たちの方法を用いれば、地表付近での暖気と寒気の境界を特定することで、その上を積乱雲が通過する時刻が特定され、場所と時間を特定した竜巻注意情報を発表でき、的中率を上げることができると考えられます。それによって、防災にも役立つと考えられます。

■研究を始めた理由・経緯は?

研究テーマを決める際に、顧問の先生がいろいろなテーマを教えてくださって、その中で、ペットボトルの簡易竜巻に興味を持ちました。さらに、竜巻の発生率は沖縄県が全国1位だと知り、興味が湧いたので、竜巻を研究テーマとしました。

■今回の研究にかかった時間は?

1日約2時間で5か月ほどです。

■今回の研究で苦労したことは?

実験では、地表の風の回転と積乱雲モデルの位置が少しでもずれていると竜巻が発生しなかったので、何回も実験を繰り返し、竜巻が発生するポイントを地道に探していったことです。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

学校にある物、身近で安価な材料を用いて、たくさんの意見を話し合って、試行錯誤しながら実験装置を開発したことです。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・Wikipedia「竜巻」
・「Wind  Effects  News Vol.22  August  2009」
・科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書
第22回 風工学シンポジウム論文集-J-Stage
「マルチファンマルチベーン式竜巻シミュレータによる竜巻状流れ場の制御に関する研究」
日本経済新聞記事「風速75メートルの衝撃解明へ ミニ竜巻の発生装置」

■次はどのようなことを目指していきますか?

最終的には防災に繋がるようにしたいため、もっと具体的な情報を集めていきたいと思います。そして、たくさんの人に知ってほしいです。

■総文祭に参加して

今回、びわこ総文に参加して、初めて体験することが多くてとてもいい経験になりました。初めてのプレゼンでとても緊張しましたが、自分たちの研究をきちんと伝えようという気持ちをもって発表できました。他県のプレゼンでは、新しく学ぶことが多く、難しいこともたくさんありましたが、とても勉強になりました。生徒交流会で初めて「よし笛」を作り、演奏して楽しかったです。滋賀県の魅力がたくさん伝わってきました。今回学んだことをこれからに活かしていきたいと思います。(又吉真子さん)

初めての全国大会ということと、3泊4日の長い間で疲れたりもしましたが、とても勉強になる大会でした。賞こそ取れなかったものの、記者の方からの取材や琵琶湖のプランクトン観察などの新しい経験をすることもできました。プレゼンに対し、いくつか言葉に詰まる質問があったりしましたが、多くの方からお褒めの言葉を頂き、良かったと安堵しました。まだまだ不足な所もあり完璧とは言えない研究ですが、足りない所を補い、より正確なものにできればと思います。(石川ひな子さん)

3日間、総文祭に参加して沢山のことを吸収しました。自分たちの研究発表はもちろん他県の方の研究発表も興味深い内容が多く、勉強になりました。自分たちの研究発表の時は、とても緊張しました。賞には入らなかったけどベストを尽くせたと思います。また、滋賀県での巡検では博物館で琵琶湖の歴史や琵琶湖に生息する生き物について学ぶことができました。とても貴重な体験をすることができました。(奥間夢翔さん)


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