夜空の明るさを数値で表現。「光害公式」で、美しい星空を守る啓発につなぎたい

【地学】東筑紫学園高等学校 理科部 (福岡県)

(2015年7月取材)

左から 本田陸人くん(2年)、藤井悠野さん(2年)
左から 本田陸人くん(2年)、藤井悠野さん(2年)

◆部員数 14人(うち1年生6人・2年生6人・3年生2人)
◆書いてくれた人 古川郁将くん(1年)


■研究内容「夜空の明るさの高度変化と限界の暗さ」

市街地では、夜になっても空が明る過ぎて、星をきれいに見ることができない。それは「光害」のせいです。光害とは、ビルや街灯などの明かりが空気中の微粒子に当たって乱反射し、夜空が明るくなってしまう現象を指します。

私たちはこの光害に関心を持ち、夜空の明るさを数値化することに取り組んできました。また、気象条件や環境指標のデータと比較し、これらが夜空の明るさに大きく影響することがわかりました。


この図は、人工衛星から撮影した各経度の夜の写真を合成したものです。日本がくっきり浮かび上がっているのがわかります。これが光害です。

夜空の明るさは、かつてはLEDを使った自作の測定機で、現在はスカイクォリティメーター(SQM)という光度を測る市販の機器で測定しています。その数値は星の等級と同じ単位(mag/□")で表されます。これがその装置です。

私たちの先輩は、気象条件・天体条件・大気中の浮遊物質のいずれもが夜空の明るさに影響することを、観測結果の分析によって示しました。また、地上で測定した湿度・SPM(浮遊粒子状物質)・光化学Ox(オキシダント)と夜空の明るさが相関関係にあることから、夜空の明るさは地上付近で決まると考えました。

 

2012年には、「北九州1/5万等光度曲線地図」を製作し、夜空の明るさを可視化することができました。

また、地表と地上150m(下関市・海峡ゆめタワー屋上)で比較したところ、夜空の明るさは150m地点で地表の2分の1ほどになっていたことから、夜空の明るさは地上数百メートルで大きく影響を受けていることがわかりました。

そこで、さらに詳しく、垂直方向における連続的な変化を調べるために、2013年から北九州工業高等専門学校と、気球を用いた共同研究を開始しました。気球は上空800メートルまで上げることができますが、部員が手作業で上げています。(写真のバックにある銀色のものが気球)


そして、夜空の明るさの高度変化についての観測を行うとともに、北部九州で最も暗い場所を割り出すため、近隣の英彦山周辺の等光度曲線地図を製作しました。

 


まずは高度変化について。
横軸は高度、縦軸は夜空の明るさを表します。40回の観測を行いましたが、風の影響があると、期待したような結果を得ることはできませんでした。

 

しかし、比較的風の影響が小さかった時の観測では、高度が上がるほど夜空が暗くなっており、この時の100mごとの明るさの垂直変化率は0.29 mag/□"/100mでした。


上空800mまでの観測結果を見てみると、急に夜空が暗くなっている箇所がありますが、そこには雲がありました。雲の下での変化率が0.21 mag/□"だったのに対し、雲の上での変化率は0.03 mag/□"と小さくなっています。雲が夜空の明るさをさえぎっているのを数値として証明したのは、私たちが初めてです。

次に、夜空の明るさの限界の暗さについて。
日本で最も暗いとされる夜空の明るさは24.40mag/□"という写真測定で得られた値です。これを北部九州でも観測したいとの思いから研究を行いました。

 

まず、私たちの観測機器であるSQMがそのような値を測定できるのかどうか調べるため、洞窟内の暗闇および学校の倉庫でSQMの測定限界を計測しました。すると、24.5 mag/□"までは測定でき、目標値の測定は可能であることがわかりました。

 

そこで、光源となる市街地から離れた、英彦山で観測を行いました。しかし、当日山頂には霧がかかっており、観測に大きな影響が出てしまいました。また、英彦山周辺での夜空の明るさを車で観測したところ、英彦山の南側のA地点で22.01 mag/□"という値が観測されました。

このような測定値をもとに、等光度曲線地図を製作しました。

A地点で再び観測を行った際の明るさは22.19 mag/□"で、この地点が一番暗いことがわかりました。さらにこの地点で徹夜観測を行おうとしたのですが、通行止めとなってしまっていたため、第二候補であるそこから南に位置するB地点で観測を行いました。


B地点では、湿度99%という水蒸気量の影響から市街地の光が乱反射され、21.18 mag/□"という期待よりも明るい値が観測されました。以上の観測結果から、英彦山で最も暗かったのはA地点で計測された22.19 mag/□"という値でした。

これからは、夜空の明るさの経時変化率との関連性を調べるとともに、これまで大きい小さいという曖昧な指標で表現してきた光害を、私たちが考案した「光害公式」を用いて数値化し、光害の啓発ができるよう研究を進めていきたいと思っています。


〈参考サイト〉
東筑紫学園高等学校 理科部   

http://rikabu0321.bob.buttobi.net/1-1yozora-top.html
Sky Quality Meter  

http://www.unihedron.com/projects/sqm-l/

■研究を始めた理由・経緯は?

夜空の明るさの研究は、2002年に先輩が始めたものを14年にわたって受け継いでいるものです。山間部などの光源が少ない場所では星をきれいに見ることができますが、市街地では夜になっても星を綺麗に見ることができません。この「光害」に関心を持ち、研究を行っています。


2006年の研究の際に、下関市の海峡ゆめタワーの地表と屋上(地上150 m)で夜空の明るさが2分の1になっていました。そこで、さらにより多くの連続した点を用いて垂直変化率を算出するため、2012年の夏の科学イベントで知り合った北九州高専と協力し、気球を用いた垂直連続観測を行いました。

また、スターウォッチングネットワークの冷却CCDカメラで撮影された写真解析によると、日本で最も暗い夜空の明るさの値は24.40 mag/□"であるとされています。これは、2007年に岩手県一関市で、2008年に島根県津和野市で観測されたものです。そこで、私たちの住む北部九州でもこの値が観測できないのかと考え、夜空の暗さの限界値の観測を行いました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

課外の終わる17時から学校の閉まる21時まで週に3回行っています。しかし、大会前には平日は毎日5時間、時には土日に1日12時間、これを約1か月行いました。1年間の徹夜観測時間が合計50時間かかっています。よって、4時間×3日×4週間×12か月×14年+徹夜観測(50時間)×14年=8764時間です。

■今回の研究で苦労したことは?

そもそも、「夜空の明るさ」の研究なので、活動時間が夜に限られてしまいます。過去には、実際に補導されかけた先輩もいたそうです。特に英彦山では徹夜観測を行ったため、帰ったのは朝5時頃になっていました。また、月齢や雲量などの影響で夜空が明るくなってしまうため、観測する日が限られてしまいます。

高度変化の研究では、気球を上げて観測をするために航空法の申請書を北九州空港に、公園使用の許可書を区役所に提出してから、許可が下りるまでに約1週間かかりました。そして、いざ観測する日に限って台風が来てしまうなど天候に恵まれず、観測するのに時間がかかってしまいました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

夜空の明るさを数値化するために、私たちの先輩が2002年に自作機器を製作したことが、現在の研究に繋がっている点に注目して欲しいです。「北九州1/5万等光度曲線地図」を製作する際、4年間で合計11回、1021ヶ所のデータから作り上げました。夜空の明るさを可視化した経験が、北部九州で最も暗い地点を導き出す参考になりました。

また、全国各地のデータを効率的に集めるために、「夜空の明るさ全国ネットワーク」を発足させました。2008年は6校でしたが、現在は35校へと増加しています。今後もっと全国のデータを集めたいと考えています。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

東筑紫学園高等学校・照曜館中学校理科部 (2002~2010): 夜空の明るさ 2010 Ⅰ(2003)~XIV (2015)第22回「星空の街・あおぞらの街」全国大会 環境大臣賞 受賞記念号

■次はどのようなことを目指していきますか?

次の研究テーマとして「光害の数値化」を行っていきます。これまで光害は、大きい・小さいというあいまいな指標で表現されてきました。これを定量的に評価するため、自分たちで「光害公式」を考え、様々な意見を専門家の方々から頂き、より有効なものにして光害の啓発を行っていきます。

また、福岡県の移動式大気汚染物質観測車を使えるかもしれないと考えています。もし使うことができれば、理科部が観測する際に来てもらったり、SQM-LEを乗せて観測できたりするかもしれません。これができれば、より多くの環境指標(NOx、SOx、光化学Ox、SPM 他)と夜空の明るさをより詳細に比較できるでしょう。とても楽しみです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

この研究の他に、「広谷湿原保全プロジェクト」があります。温帯カルストの代表的標識地、平尾台に日本で唯一カルスト台地に存在する広谷湿原について成因、減少、再生の3つの観点から研究をしています。現在は、再生活動の一環として「平尾台・広谷湿原」をラムサール条約に登録しようと活動をしています。いろいろな方にこの活動を知ってもらい理解してもらうため、「平尾台・広谷湿原ラムサール条約登録準備委員会」を設立し、啓発活動をしています。

また、「再生チョーク」の研究では、短くなって使えなくなったチョークを再利用するための活動を行い、科学技術館(東京・九段下)で行われた「科学の祭典2007」に出展しています。現在は、福岡県内の科学イベントや学校見学会で、多くの人にアイデアチョークを作ってもらっています。2011年にはこのエコ活動が認められ、北九州市長より「3R活動推進表彰」をいただきました。


このほかにも、年に3回程、地域のイベントや公開実験に参加して実験を行ったり、年に4回ほど近くの小学校に出前実験を行ったりして、幼稚園~小学生に理科の楽しさを感じてもらっています。

■総文祭に参加して

他校の発表を聞いていると、さすが全国大会だけあって、どの研究もレベルが高いと感じました。口頭発表の直前までは、その雰囲気に呑まれてか、これまでにないほど緊張していました。でも、いざ本番となると、いつも通り「笑い」を取り入れた発表ができました。残念なのは、プレゼンテーションで全力を出せたのにも関わらず、あまり評価されなかったことです。
今回の全国大会出場を通して多くの人と交流ができ、今後の研究に繋がるようなたくさんの意見が得ることができました。このびわこ総文は、私にとっても、研究チームにとっても良い経験であり、有意義な大会でした。

東筑紫学園高校理科部の部員の皆さん。下段左より、伊藤渚さん(3年)、藤井悠野さん(2年)、本田陸人くん(2年)、湖平元彌くん(2年)。上段左より、西村 江梨花さん(1年)、東元太誠くん(1年)、古本絢音さん(2年)、古川郁将くん(1年)。
東筑紫学園高校理科部の部員の皆さん。下段左より、伊藤渚さん(3年)、藤井悠野さん(2年)、本田陸人くん(2年)、湖平元彌くん(2年)。上段左より、西村 江梨花さん(1年)、東元太誠くん(1年)、古本絢音さん(2年)、古川郁将くん(1年)。
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