植物自身が身を守る仕組みを活かして、甘利山のレンゲツツジを救え!

【生物/ポスター部門】 山梨県立韮崎高等学校 生物研究部

(2015年7月取材)

◆書いてくれた人 岡本和泉さん(3年)
◆部員数 4人(うち1年1人・2年1人・3年2人)

■研究内容「植物はなぜ酸性ホスファターゼを分泌するのか」

韮崎高校の近くには甘利山があり、レンゲツツジの群落があります。近年、その数の減少が問題化しています。私はその原因の一つとして、ニホンジカの食害の他に、レンゲツツジが甘利山の土壌に適応できなくなっているのではないかと考えました。そこで、植物の根と土壌の関係に注目し、植物が分泌する酵素に関する基礎研究を行いました。

 

植物は、ふつう土壌中の無機リン酸を栄養として吸収しています。しかし、土壌が酸性になると、無機リン酸に余分なものがたくさん結合してしまい、植物が吸収できなくなります。そうなると植物は枯れてしまうため、その対応策として、根から酵素の一種である酸性ホスファターゼを分泌します。酸性ホスファターゼは、有機リン酸を分解して無機リン酸にするという働きをしています。

実験では、酵素を多く分泌するといわれている、マメ科のルーピンという植物を用いました。まず、酸性ホスファターゼが本当に分泌されることを確認しました。

そして
・酸性ホスファターゼの最適pHは、名称のとおりpH3前後の酸性域にある
・分泌型酸性ホスファターゼはすぐに失活せず、リン酸回収に有利である
・分泌型酸性ホスファターゼには基質となる有機リン酸化合物が複数存在する可能性がある
ことを確認しました。

その後、主根と側根で酸性ホスファターゼの分泌量は違うのかを調べるため、主根と側根それぞれから0.1gずつを量り取り、酵素活性を測定しました。

その結果、側根のほうがホスファターゼを多く分泌していましたが、これは同じ質量の場合、側根のほうが本数が多く(主根2本:側根約15本)、表面積も大きくなるからです。そこで1本ずつで分泌量を比べたところ、主根のほうが多いことがわかりました。

さてルーピンは、リン酸が欠乏すると側根の側根である非常に細かいクラスター根を作るということがわかっています。そこでクラスター根の分泌量を調べたところ、クラスターの根は97本あり、1本の側根に比べ酸性ホスファターゼの分泌量は5倍以上もあることがわかりました。


以上のことから、側根の成長を促進させると酸性ホスファターゼを多く分泌させることができる、つまりリン酸を回収しやすくなると考えられます。

次の実験では、酸性ホスファターゼが分泌される要因は、土壌が酸性になったときにあるのか、それとも無機リン酸が欠乏したときにあるのかを確かめました。そこでMS液体培地を使って、条件を変えた培地でルーピンの水耕栽培を行いました。それぞれの根から酸性ホスファターゼを採取し、その酵素活性を比較する方法で行いました。

すると、標準区と酸性区ではほとんど分泌量が変わらなかったことに対し、リン酸欠乏区では分泌量が高い結果となりました。つまり、酸性ホスファターゼが分泌されるのは、リン酸が欠乏したときであり、根は土壌中のリン酸が欠乏したというのを感じ取ることができるのだということがわかりました。

では、根がリン酸を検知する仕組みというのは、どのくらいの精度なのでしょう。それを確かめる実験として、1本のルーピンを用意して根を二つに分け、片方を標準区、もう片方をリン酸欠乏区という異なる環境に置きました。すると、リン酸欠乏区の方が分泌量が1.5倍多く、置かれた環境によって酸性ホスファターゼの分泌量を細かく調整できることがわかりました。

さらに、酸性ホスファターゼがどのように作られ、どのように分泌されるのかを調べるために、RT-PCRという方法を使い遺伝子の応答で実験を行いました。この方法は、遺伝子の命令分子であるmRNAを検出するものです。


この実験の前に2つの仮説を立てました。
(1)植物の根の細胞の中では常に酸性ホスファターゼが作られ続けていて、リン酸が欠乏したときに酵素自体が活性化して分泌される。
(2)酸性ホスファターゼは常に作られているわけではなく、リン酸が欠乏したときに作られる。


結果は下の図のとおりで、仮説(2)が正しいことがわかりました。

なお、水耕栽培だけでなく土壌栽培でも遺伝子の発現を調べてみました。すると、水耕栽培においてリン酸の欠乏したものよりも、土壌栽培のほうが遺伝子の発現が強いという結果になりました。つまり、「酸性ホスファターゼを作れ」という命令は土壌からより強く出ていることになります。


ちなみにこの土壌は市販のもので、栄養も豊富でリン酸も欠乏していないはずです。にもかかわらず、このような結果になった理由を考えた時、もしかしたら土壌には植物の栄養を助けてくれる共生菌がいるのではないかと思い、共生菌がルーピンやレンゲツツジの中にいるかどうかを調べました。

その結果、レンゲツツジには共生菌が確認でき、共生菌が酸性ホスファターゼの分泌を促す役割をしているという可能性が考えられます。

研究の成果と考察と考察です。


1.ルーピンは酸性ホスファターゼを根全体から分泌している。
2.酸性ホスファターゼは酸性環境で酵素の活性が高い。
3.分泌された酸性ホスファターゼは長時間活性が維持されるので、無機リン酸回収量が増加する。
4.酸性ホスファターゼには分解できる有機リン酸化合物が複数存在すると考えられる。
5.酸性ホスファターゼの分泌は、根が無機リン酸の欠乏を検知したときであり、分泌量を調整できる。
以上のような酸性ホスファターゼの特性は、ルービンが効率よく土壌からリン酸を回収するのに適した働きを示していた。


6.無機リン酸の欠乏は遺伝子の発現を変化させ、APase-mRNAの転写量を増加させる。
7.甘利山レンゲツツジも根から酸性ホスファターゼを分泌している。土壌中の無機リン酸を回収できる。
8.植物の根には、内生菌(共生菌)と呼ばれる菌類が多様に存在し、根からの酸性ホスファターゼの分泌や無機リン酸の回収などの制御に関わっていると思われる。

今後は、無機リン酸の欠乏を検知するしくみを調べる実験系を確立するとともに、共生菌と酸性ホスファターゼの分泌・活性の変化の関係、発根促進ホルモンであるオーキシンと酸性ホスファターゼ活性の相関についても研究を進めていきたいと思います。


■研究を始めた理由・経緯は?

韮崎高校の近くの甘利山では毎年レンゲツツジが咲くのですが、それが減少していることが問題になっています。その原因に植物の根が分泌する酸性ホスファターゼが関係していると考え、研究を始めました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

1年です。2014年の6月から始めました。

■今回の研究で苦労したことは?

大会前に基礎実験がすべて失敗してしまったことです。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

全部です! 私の研究から、動けない植物がどれだけ賢く環境に適応しているか知ってもらえれば幸いです。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・広島大学の和崎淳先生の研究を参考にさせていただいています。
http://www.hiroshima-u.ac.jp/gsbs/kenkyu_syokai/wasaki/
・また共生菌の遺伝子解析は、山梨大学の片岡良太先生に実験指導をしていただきました。
http://www.les.yamanashi.ac.jp/modules/kenkyu/index.php?content_id=44  


■次はどのようなことを目指していきますか?

今後は、酸性ホスファターゼを制御するマスター遺伝子を調べたいと思っています。将来的に、森林保全や今後の農業に貢献できる技術にしたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

研究しかしてないです。レンゲツツジが減少している理由としてシカの食害もあげられるので、今は狩猟と罠の資格の勉強をしています。

■総文祭に参加して

今年は、自分の研究で全国大会に出場できたので、自分の好きなようにのびのび発表できました。とても楽しかったです。



※韮崎高校の発表は、ポスター部門の奨励賞を受賞しました。

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