山梨はかつて海だった!? 礫の観察から500万年前の地形を探る 

【地学】山梨県立都留高等学校 地球物理部地学班

(2015年7月取材)

左から 内田佑人くん、小川瑞奈さん(3年)
左から 内田佑人くん、小川瑞奈さん(3年)

◆部員数 7人(うち2年生3人・3年生4人)
◆書いてくれた人 小川瑞奈さん(3年)

■研究内容「山梨県上野原市の鶴川流域の地質とその形成史について」


私たちは、山梨県東部の上野原市を流れる鶴川流域の地質とその形成史について研究を行いました。


上野原流域で、新第三紀中新世後期に堆積したとされる桂川礫岩層を調査したところ、鶴川周辺では、露頭によって礫の形状や円磨度に違いがあることがわかりました。そこで、この地域の地質調査を実施し、かつての海洋の堆積環境を調べてみようと思いました。


この鶴川流域で6ヶ所、その他の地域で6ヶ所の、計12か所で調査を行いました。調査地域は地図の1~12です。

続いて、調査の方法です。
今回は、礫の種類・形状・円磨度・扁平度・地層の走向と傾斜を測りました。

○礫の種類
礫の種類は、堆積当時の河川上流の地層を反映しています。
礫の大きさは、礫の中に互いに直交する軸の長さについて長径・中径・短径を測りました。


○礫の形状
礫の形状は、長径・中径・短径の長さの関係から、円盤状・球状・棒状・小判状に分類しました。礫の形状からは、礫の流れ方を推定することができます。

○礫の円磨度
円磨度は、Krumbeinの円磨度印象図から、数値で求めました。

○礫の扁平度(球形度)
礫の球形度・扁平度は左のスライドに示した式から算出しました。共に、値が大きいほど礫は球形に近くなります。

次に、礫の流れ方についての説明です。
礫の流れ方には、河床を引きずられるように流れる滑動、転がるように流れる転動、跳ねるように流れる跳動があります。
礫は滑動によって平たい形状に、転動によって球形に、跳動によって角ばったり割れたりと変化します。

採取した礫と露頭の状態はスライドの通りです。鶴川流域の原と鶴川の写真です。原から鶴川では、礫は角礫から亜角礫で、地層では礫層の中に砂層やシルト層も見られました。八ツ沢と日向入口では、地層は礫層のみで、礫は円磨度の高い円礫でした。

調査の結果です。地層の走向傾斜や層理面を確認し、推定することで、地質図を作成しました。


この地域に堆積した礫層は、丹沢山地が衝突したことにより、走向がおおむね西向き、傾斜は北向きであることがわかりました。また、礫の形状や礫種から、周辺地域は三層の礫層からできているのではないかと考えました。

次に、礫の大きさについてです。礫径は、下流から上流に行くにつれて大きくなっています。
礫の種類は、以下のグラフから、泥岩主体の地域と、砂岩主体の地域と、砂岩と泥岩主体の地域の3グループに分けられることがわかりました。それぞれを、松留礫岩層、桂川礫岩層、上野原礫岩層としました。

このグループをもとに礫の形状を見てみると、松留礫岩層では円盤状の礫が最も多く、桂川礫岩層では円盤状の礫が最も多い地域が多く、次が球状でしたが、大野ではその逆でした。上野原礫岩層は、棒状や球状の礫が比較的多く見られました。

円磨度は、桂川礫岩層と松留礫岩層は0.70~0.73と高い値を示す一方、上野原礫岩層は0.32~0.54と値が低く、上野原礫岩層はほかの二つの礫岩層とは異なるものであることが確認できました。


また、走向が約20度違うことから、桂川礫岩層と上野原礫岩層は不整合の関係にあるのではと考えました。


扁平度は、松留礫岩層と桂川礫岩層で値が小さく、平たい礫が卓越していると判断しました。

考察です。


礫の形状や円磨度、扁平度から、松留礫岩層と桂川礫岩層の礫は、長い距離をわたって海底を滑り沖合に運ばれたことから、丸みを帯びた平たい形状に変化したのではないかと考えました。長い距離を運ばれたということは、堆積場所は深い海であることが予想されます。


上野原礫岩層の礫は、海洋でもあまり侵食されず、陸地から近い浅い海底に堆積したのではないかと考えました。


文献によると、上野原礫岩層は新第三紀鮮新世の500万年前に堆積したものであり、丹沢山地と列島の衝突と時代が一致することからも、当時の海は浅かったことがわかります。

今後は、桂川の北側の他の支流についても調査を行い、堆積環境を調査したいと思います。また、調査地域の地層の調査を詳細に行い、詳しい地質柱状図を作成します。調査地域の礫の起源がどこかについても、調査を行う予定です。



■研究を始めた理由・経緯は?

もともと都留高校地球物理部では山梨県の富士河口湖町~大月市~上野原地域の地質について調査・研究をしています。その一環として、上野原市の鶴川で調査をしていたところ、上流と下流では礫の形状に大きな違いが見られたので、今回の研究をしてみようと思いました。

■今回の研究にかかった時間は?

調査~分析~まとめまで、延べ日数で2か月くらいです。

■今回の研究で苦労したことは?

川の中を歩いての調査だったので、流れは速くなかったのですが、深いところがあったりして大変でした。また礫の分析でも、礫を露頭から採取する作業には時間がかかり、また礫を分析するためにきれいに洗ったりする作業もともなうため、現地での作業には苦労しました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

礫層の特徴から地層を3つの層に分けたこと。礫の形状、円磨度、球形度、偏平度から当時の礫の堆積環境が推定できたこと。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?


『山梨県地質誌昭和45年』山梨県・山梨県地質図編纂委員会 ※古い本です!
『山梨県地学のガイド -山梨県の地質とそのおいたち』田中収編著(コロナ社)、
『堆積物の研究法 -礫岩・砂岩・泥岩』砕屑性堆積物研究会編(地学団体研究会)

■次はどのようなことを目指していきますか?

今回の研究テーマを継続するのであれば、地層の詳細な調査を行い、地質柱状図を作成して過去の小さなイベントまで考察してみたいです。研究テーマを変更するのであれば、学校の近くに標高が634m(東京スカイツリーと標高が同じです!)の岩殿山という山があります。この山はほとんどが礫岩層でできていますが、層理面がはっきりしないので、詳しく地質調査を行いたいと思います。また、礫を観察すると一定方向に並んでいるインブリケーションという構造が見られる露頭も多数あるので、古流向についても考えてみたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

研究テーマに沿った調査・分析を行っています。その中で、調査テーマとは別に疑問点が出てきます。小さい疑問点は調べたりして解決していきます。大きな疑問点は次年度以降の研究テーマにすることで解決しています。

■総文祭に参加して

どの学校も興味ある研究で、とにかく一生懸命取り組んでいるんだと思いました。発表も上手で、勉強になりました。意外に天文関連の研究が多くてすごいと思いました。地学は、私たちのやっている地質関係の研究ばかりでなく、地球、気象、天文、環境、自然災害と研究分野が多岐にわたります。他の分野の研究にも取り組んでみたいと思いました。

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