微生物発電の実用化を目指して、ただ今試行錯誤中!

【物理】山形県立鶴岡南高等学校 科学部

(2015年7月取材)

左から原田宏哉くん、高野瑛世くん(2年)
左から原田宏哉くん、高野瑛世くん(2年)

◆部員数 13人(うち1年生6人・2年生4人・3年生3人)
◆答えてくれた人 原田宏哉くん(3年)

 

※鶴岡南高校は、同じテーマを物理・生物の両部門でそれぞれ別の角度から研究発表を行いました。ここでは、物理部門の発表を紹介します。


■研究内容「微生物発電の実用化を目指して」

私たちは、新たな再生可能エネルギーとして注目されている嫌気性微生物による発電に着目して、5年前から水田を利用した微生物発電を実用化しようと研究を続けています。これまでの研究で、実際に水田を利用してLEDを発光させるほどの発電に成功しています。

最初に、微生物による発電のメカニズムを説明します。土壌中の微生物が、有機物を電子、水素イオン、二酸化炭素に分解します。その後電子は負極から正極まで移動した後に、水中の酸素と水素イオンと結びついて水となります。

この発電装置を実用化するには2つの大きな課題があります。一つ目は発電方法にしては極端に低い発電量、二つ目は設置にかかる莫大なコストです。そこで今年度の研究はこの二つの課題を克服することを目標としました。

まず、発電効率を上げるために正極と負極の距離を調整しようと考えました。これは微生物発電の発電様式が燃料電池と類似していて、燃料電池では正極と負極の距離が近いほど発電量が高くなるためです。そこで微生物発電でも、両極版の距離が近いほど負極から発生した水素イオンをたくさん受け取り、反応が起きやすくなるのではないかという仮説を立てました。


しかし、両極版の距離と発電量の関係には、明確な結論が出ませんでした。

そこで、負極の上に載せている土が発電に何等かの影響を及ぼしているのではないかと思い、土を取り除いて同じ実験を行いました。しかし、土を取り払った後も、極板距離と発電量には相関性が見られませんでした。よって、負極付近にまた別の発電を抑えている要因があるのではないかと考えました。

(左から3cm、5cm、7cmの結果)

 

次に設置コストを抑えるために、負極の形状の改良を研究しました。水田に現状の発電装置を設置するには、一度水田の土を取り除いてから負極を設置し、また土をかぶせるというとても大がかりな土木工事が必要となります。


そこで今より簡単に設置でき、かつ今までと同じ発電量を保てるような負極の形状を検討しました。一つ目は粉末型ポッドといい、グラファイトフェルトという電極素材を細かく砕いて粉末状にしたものです。


同じ実験をこの形状で試したところ、著しく発電効率が落ちてしまいました。よって粉末型ポッドは、負極の形状としては不適切と結論づけました。


二つ目はロール型ポッドといい、負極を円筒型にしてまっすぐ土に埋め込むというものです。これなら地中に設置する際に土を上げる必要がなくなります。



この負極で実験してみたところ、従来型よりも発電効率が伸びました。

(左の赤い棒グラフがロール型、右が従来型)


この結果から、負極の形状は従来型と同様以上の効果があり、かつ設置コストを抑えられるロール型が相応しいと結論づけました。


さらに私たちは、ロール型の負極の表面積を多くすることによってさらなる発電量の向上が見込めるのではないかと考え、表面積を2倍にした「ロール型大」を負極にした実験も行いました。


しかし発電量の伸びはわずかでした。
(左の青い棒グラフがロール型で従来比1.15、右がロール型大で1.25)


またロール型の電池の性能を従来型と比較するために内部抵抗を測定しました。回路図は左図の通りです。


しかし、結果として電圧・電流ともに正確な値を取ることができませんでした。

これは電流と電圧の値が小さかったためではないかと考え、発電装置の規模を大きくして実験することにしました。そこで、先ほどの10倍の発電装置を使い実験したものの、従来型、ロール型ともに電圧の値を計測できませんでした。


原因としては、微生物電池の抵抗の大きさや発電が安定するまでに時間がかかることが考えられます。発電様式が似ている燃料電池は、大規模になるにつれ内部抵抗が小さくなる傾向があるので、微生物電池もさらに大規模な装置を使用してみようと思います。また電極の材質も工夫することで、内部抵抗を小さくできるのではないかと考えました。

以上の結果を踏まえて、発電装置の改善策として(1)電極の距離を近づけすぎないように配置する (2)水田の縁に沿う形で負極を設置する (3)内部抵抗を小さくする、の3つがわかりました。今後は、これらの点について検証を進めていきたいと考えています。

■研究を始めた理由・経緯は?

2011年から微生物発電についての研究が開始しました。先輩方が、水田に発電を行う微生物が存在することを知り、それらの微生物がどのようなメカニズムで発電しているのかについて研究を始めました。発電メカニズムが明らかとなり、また、発電微生物を分離する中で、セルロース分解細菌の可能性が示唆されました。これからは発電微生物とセルロースとの関係性を解明していく上で、最初のステップとなる研究として始めました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?


1日2~3時間で約4~5か月かかりました。

■今回の研究で苦労したことは?

内部抵抗を計測する実験を何度行っても値を計測できず、どうすれば計測できるかを長い時間をかけて試行錯誤したところ。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?


[物理部門]
・微生物電池に発電様式が似ている燃料電池に、他にも類似点があること
・正極と負極の距離と発電においては、燃料電池と明らかに異なる点があること

[生物部門]

・微生物発電にはセルロースが有効であること
・身近なセルロース資源でも発電できる点

■今後はどんな研究を進めますか?


物理部門では、これまでと研究とは違ったテーマとして現代物理を研究できれば面白いのではないかと思います。


生物部門の、セルロースに関する研究は今後も継続していきたいと考えています。セルロースが微生物電池において効果があることが確認できたので、今後は分離した発電微生物の発電の仕組みにセルロースがどう関係しているか調べていく予定です。

■ふだんの活動では何をしていますか?

最初にその日に行う実験の内容を簡単に説明し、そこからグループに分かれて分担作業を行っています。また、不定期ではありますがミーティングを行い、部員全員が意見を出し合って研究の進め方を決めています。研究以外では6月に地元の河川の水質調査を行い、その後バーベキューをすることが恒例行事になっています。

■総文祭に参加して


全国の高校生たちのレベルの高い研究を肌で感じ、とても良い刺激になりました。また、自分たちでは気づくことができなかった足りない点を指摘していただき、これからの研究をより発展していくことができる良い機会になったと思いました。


下段左から 本間千晶さん(1年)、原田宏哉くん(3年)、 高野瑛世くん(2年)、本間詩野さん(2年)、上段左から 太田光希さん(1年)、五十嵐重紀くん(3年)、加藤拓海くん(2年)、岡部晴子さん(2年)
下段左から 本間千晶さん(1年)、原田宏哉くん(3年)、 高野瑛世くん(2年)、本間詩野さん(2年)、上段左から 太田光希さん(1年)、五十嵐重紀くん(3年)、加藤拓海くん(2年)、岡部晴子さん(2年)


※鶴岡南高校は、昨年度のいばらき総文祭の化学部門でも微生物発電の研究発表を行っています。くわしくはこちら↓

「水田土壌の微生物を用いた発電 IV」

水田土壌に棲む発電微生物は新たなエネルギー資源になりうるか!?

河合塾
キミのミライ発見
わくわくキャッチ!