カワイイ名前の「パンダ石」、その生成の謎に迫る


【地学】富山県立上市高等学校 科学部

(2015年7月取材)

左から 赤間太一くん(3年)、谷上義成くん(3年)
左から 赤間太一くん(3年)、谷上義成くん(3年)

◆部員数 8人(うち1年生2人・2年生2人・3年生4人)

◆書いてくれた人 赤間太一くん(3年)


■研究内容「上市川の『パンダ石』」


私たちの学校のそばを流れる上市川では、暗色のブチがある花崗岩が見られ、私たちはこれを「パンダ石」と呼んでいます。本研究ではその成因について調べました。

まずはこのような暗色のブチを持つ花崗岩について文献調査を行いました。文献によると、黒部川上流域にも、同様に暗色のブチを持つ花崗岩が見られることがわかりました。この石は、花崗岩質マグマの中に玄武岩質マグマが侵入してできたと考えられています。花崗岩質マグマの融点は玄武岩質マグマに比べて300度ほど低く、侵入した玄武岩質マグマは花崗岩質マグマの中で急冷された状態となり、玄武岩質マグマのふちには、細粒で針状の角閃石や黒雲母が濃縮して、急冷縁を形成しているとされています。


黒部川の岩体は上市川の花崗岩体とは形成時期が異なるようですが、パンダ石形成のメカニズムを知るヒントになると考えました。

 

最初に、パンダ石を肉眼で詳しく観察してみました。すると、パンダ石には、白い部分と黒いブチとの境界が直線的なものと曲線的なものの二種類が存在することがわかりました。これらを、直線型と曲線型と呼び分けることにします。


直線型は境界がはっきりしており、黒いブチの部分の粒子が細かく、有色鉱物が詰まっていることが見て取れます。一方、曲線型は白い部分と黒ブチとの境界があいまいで、ブチにはところどころ無色鉱物が含まれていました。

 

次に、薄片を作って顕微鏡観察を行いました。直線型と曲線型のそれぞれについて、A.白い部分・B.境界部分・C.黒いブチの三か所の薄片を作成しました。

直線型のAでは、斜長石を中心に、石英や正長石などの無色鉱物が目立ちました。結晶は大きく、2~3mmのものが多かったです。


直線型のBは、境界がはっきりしていて、ブチの方には角閃石や黒雲母などの有色鉱物が多く、白い部分は石英などの無色鉱物が多かったです。ブチの部分は結晶が1mm以下と小さく、白い部分は結晶が比較的大きかったです。


直線型のCは角閃石や黒雲母などの有色鉱物が多く、結晶は1mm以下と小さかったです。

曲線型のAは、結晶のほとんどが2~3mmを超える大きさで、角閃石などの有色鉱物がわずかに見られましたが、ほとんどが石英などの無色鉱物でした。


曲線型のBは、直線型に比べ境界があいまいで、白い部分と黒いブチが混ざり合っていました。


曲線型のCは、斜長石や正長石、角閃石や黒雲母の結晶が見られ、1mm以上の大きさの結晶が直線型よりも多くありました。

 

まとめると、
・直線型に比べ、曲線型の白い部分には有色鉱物が含まれる割合が少し多い。
・直線型は境界がはっきりしているが、曲線型の境界はあいまいである。
・直線型に比べ、曲線型の黒いブチの鉱物の結晶は少し大きい。
ことがわかりました。

 

以上の結果から、直線型・曲線型のパンダ石の形成メカニズムを次のように推定しました。

直線型のパンダ石は、ほぼ固結した花崗岩質マグマの中に玄武岩質マグマが割り込むようにして貫入してできたと考えられます。そのため、直線型の境界部分ははっきりしており、黒いブチの部分は急冷されたことで細かい結晶が密集しています。


曲線型のパンダ石は、未固結の花崗岩質マグマの中に、玄武岩質マグマが混ざり合ってできたと考えられます。花崗岩質マグマが比較的高温の状態で混ざり合ったために、境界部分はあいまいで、ブチの部分の結晶も徐冷されたことから比較的大きくなっています。

 

次に、上市川の河川敷で、パンダ石がどれくらいの割合で含まれているか調査しました。


その結果、直線型と曲線型の存在比はおおむね1:1から2:3であり、曲線型のほうがやや多い印象です。また、水量による割合の変化は見られませんでした。


また、参考に河口でも調査したところ、直線型と曲線型の存在比は1:1であり、河原での記録と類似していました。以上のことから、直線型と曲線型のパンダ石は、同一もしくは非常に近い安定した供給源を持つと考えました。

この結果を踏まえ、実際の産出状況を確認するために周辺で調査を行いました。露頭は雪や植生に覆われていましたが、多くのパンダ石を発見することができました。その周辺を、パンダ石の存在する露頭と考え、マップを作成しました。


上市川上流にはダムがあり、周辺には安山岩の露頭が見られました。他にも、図のように安山岩の露頭が見られました。


上市川は小又川と千石川に分かれます。私たちは、千石川沿いに調査を行うことにしました。途中、安山岩と花崗岩の境界と見られる箇所があり、その先には花崗岩の露頭が見られました。川の中にもパンダ石が多く見つかりました。

露頭では、直線型と曲線型の両方のパンダ石が採取できました。転石中にも両方のパンダ石が見られました。これは、供給源が同じまたは非常に近いことから、がけ崩れの時に同時に供給されているものと考えられます。

以上を踏まえ、直線型と極性が他のパンダ石が同一地点で形成されたと考えられますが、それは固結する前の花崗岩体の温度分布に非常にムラがあったということになります。しかし現状では、その原因まではわかりませんでした。

今後は、大規模な供給源があるとみられる川の上流の露頭を調査し、さらに詳細な地質図を作成したいと考えています。


■研究を始めた理由・経緯は?

私たちの高校のすぐ横を流れる上市川の礫に、変わった石があると聞いたことから始まりました。見てみると、花崗岩に暗色のブチが含まれたもので、なぜこのような石ができたのか疑問を持ったことがきっかけです。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

1週間あたり15時間で10か月です。

■今回の研究で苦労したことは?

今回の研究で使用した薄片の作成と、偏光顕微鏡での薄片の観察です。薄片の作成では、薄片をセロハンテープぐらいの薄さになるまで石を削る必要があり、大変でした。薄片の観察では、本を見たりアドバイスをもらったりして結晶の種類分けを調べました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

プレゼンでは研究テーマである石の特徴を、拡大写真を使ってわかりやすいようにしました。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・『超火山「槍・穂高」―地質探偵ハラヤマ/北アルプス誕生の謎を解く』原山智 他(山と渓谷社)
・「黒部川沿いの高温泉と第四紀黒部川花崗岩」 原山智他4名(地質学雑誌第116号(2010))
・「常願寺川の石」増渕佳子(富山市科学博物館収蔵資料目録/富山市科学博物館[編]、第26号)
・「北陸地方土木地質図」北陸地方土木地質図編纂委員会(国土開発技術研究センター)
・「飛騨帯船津花崗岩類に伴われる暗色包有物の岩石科学的特徴」石岡純(日本地質学会美術大会講演要旨106、日本地質学会)

■次はどのようなことを目指していきますか?

私たちは3年なので研究することができませんが、もし続けられるのであれば、野外調査で調べたところよりも、さらに上流のところを調べ、考察が正しかったかどうか調べたいと思います。

■ふだんの活動では何をしていますか?

普段は大会で発表するものの内容を深めるために文献を調べたり、野外調査をしたりしています。

■総文祭に参加して

今回出場した滋賀県のびわこ総文は、私たちにとって初めての全国大会だったので、とても緊張したとともに、良い経験をしました。発表では、慣れない環境の中、練習通りにいかなく、こういった環境の中でどのような対応ができるかといったことが学べました。


他の高校の研究発表やポスター発表では、研究を選んだ経緯や得られた結果などをわかりやすくまとめてあり、また聞く方の気持ちも考えて丁寧に発表していました。質問に対しても、棒やレーザーポインターを使ってわかりやすく対応してくれて、難しい内容でも理解することができました。


今後はこの大会で学んだことを、自分の進路に生かして努力していこうと思いました。今回のびわこ総文は、良い経験をさせてくれたとともにとても良い思い出になりました。


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