紫外線が気になるあなたに、朗報です
―サリチル酸添加ジニトロセルロース膜を用いた、積算紫外線量の測定―

【化学】大分県立大分上野丘高等学校 化学部

(2015年7月取材)

◆答えてくれた人 古城真夏さん、日野太一さん(2人とも2年)
◆部員数 28人(うち1年生14人・2年生7人・3年生7人)

 

■研究内容「UVs」


夏といえば、紫外線が気になる季節。日焼け止めを塗って帽子をかぶって紫外線を浴びないように気をつけている人も多いのではないでしょうか。しかし、私たちがどのくらい紫外線を浴びているのか、数値化して確認することは意外と難しいものです。よく売られているのは瞬間の紫外線量の測定器で、私たちが本当に知りたい積算した紫外線量を測る機械は、あったとしても高価なものだけでした。私たちは、この積算紫外線量を測定する新たな素材を開発しようと研究を進めています。

 

きっかけは、ふとした出来事でした。サリチル酸添加ジニトロセルロース膜という高分子膜の研究を代々続けてきた私たちは、ある日、透明なはずの膜が黄色く変色していることに気づきました。太陽光の当たる場所においていたからではないかと考え、別の膜にプリズムで波長ごとに分けた光を当ててみると、紫外線が当たったところだけ黄変しました。先行研究を調べても似ているものは見当たらない。もしかすると、これは新たな発見かもしれない!そう思い、研究をスタートさせたのです。

そこで、まずはどうして紫外線によって黄変するのか解明することにしました。


サリチル酸添加ジニトロセルロース膜は、高分子であるジニトロセルロースとサリチル酸が一体となって構成されている膜です。紫外線を当てると、そのうちのどちらかに反応が起こるはず。実験してみると、ジニトロセルロースから二酸化窒素ガス(NO2)が発生することがわかりました。


今度は二酸化窒素(NO2)をサリチル酸と反応させてみます。すると、サリチル酸は黄色く変色しました。次にサリチル酸と似たような構造を持った安息香酸やフェノールと比較して実験してみると、フェノール性-OH基を持った物質のみが黄変したため、このフェノール性-OH基が黄変の原因だと考えました。

それでは、フェノール性-OH基はどう関与するのでしょうか。私たちは、(1)「フェノール性-OH基がNO2に置き換えられた」、(2)「フェノール性-OH基とは別のところにNO2がくっついた」の2通りを考えました。分子量の変化を見ると(2)に当てはまったため、黄変はサリチル酸にNO2がくっついた3-ニトロサリチル酸、もしくは、5-ニトロサリチル酸に変化することで起こるとわかりました。

続いて私たちは、自作の紫外線照射装置を用い、積算紫外線量を測るシートづくりを始めました。


紫外線による黄変は、色差計を用い黄色方向の色味を表すb値を指標として測ります。紫外線強度や照射時間を変化させたところ、強度を2倍にして時間を半分に、逆に強度を半分にして時間を2倍にしても、無視できるほどの誤差で同一のb値が得られたので、紫外線強度×照射時間で表せる積算紫外線量をb値で正確に相対化できることがわかりました。この紫外線量をUVs(Ultra Violet: 紫外線とStorage:貯蔵を組み合わせた造語)と名づけます。

紫外線は、全て膜に吸収されるわけではありません。通り抜けてしまう一部の光は地面に反射して裏から膜に再吸収されます。その効果を一定にするために、白色の台紙を下に貼り付けました。これは黄変を見やすくする効果も期待できます。


こうして完成したシートをUVsシートと呼び、太陽光に当てることで測定データを集めました。市販の紫外線の瞬間強度測定器で測定できた値の関数を積分すると、積算量がわかります。これをb値と対応させることで、b値からUVsの値を求めることができるようになりました。

このUVsシートは電気が不要で軽く、衣服に貼り付けることもできます。今後は、黄変したUVsシートの色の変化をスマートフォンのアプリで読み取り、手軽に積算紫外線量を測定できるような仕組みを作る、といった実用化も考えています。

自作のUVsシート。これで積算紫外線量を測ります
自作のUVsシート。これで積算紫外線量を測ります

■研究を始めた理由・経緯は?

 

前回までの研究で、高分子膜にいろいろな物質を入れ、様々な機能性高分子膜を作ることを目指しました。その中でサリチル酸を添加した膜だけが、偶然黄変したので、その黄変のメカニズムの解明とそれを応用することを目指し、研究を始めました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

膜の研究は2年前ぐらいから行っています。

■今回の研究で苦労したことは?

 

自作の黄変物質を作るために、NO2を断続的に入れていったときは大変でした。さらにUVSシートを実際に使い、データを集めるのも大変でした。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

作成した膜をシートにするまでの過程、さらにこれからの展望を見てほしいです。

■次はどのようなことを目指していきますか?


UVsシートは、3~4時間紫外線に当たるだけで黄変が完了してしまいます。二酸化窒素の発生を遅らせることで、黄変のスピードを遅くすることができないかということを研究していきたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?


地域の施設に行って、化学のおもしろさを伝えたり、新たな研究を始めたり、大会に向けての発表練習をしたりしています。

■総文祭に参加して

 

すごく緊張しましたが、自分たちの研究をうまく伝えられましたし、他の学校の発表を見て刺激を受け有意義な時間を過ごせました。

※大分上野丘高校の発表は、化学部門の最優秀賞を獲得しました。

 

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