従来の生態調査への疑問を徹底研究で解き明かす!


【生物】兵庫県立農業高校 生物部

(2015年7月取材)

左から木澤祥士くん、米田創樹くん、松木涼くん(3年)
左から木澤祥士くん、米田創樹くん、松木涼くん(3年)

◆部員数 17人(うち1年生8人・2年生6人・3年生3人)
◆書いてくれた人 木澤祥士くん(3年)

 

■研究内容「環境DNA手法によるカワバタモロコ生息調査に関する研究」

私たちは2007年度から、絶滅危惧種であるカワバタモロコの兵庫県内の分布調査と保全活動をしてきました。これまでカワバタモロコの分布調査には、標識再捕法という、従来一般的に使われていた方法をとっていましたが、調査方法の正確性を疑問に思い、環境DNA法という手法を標識採捕法と組み合わせることでより正確なカワバタモロコの生息数と分布調査ができると考えました。

環境DNA法とは、 生き物の糞や体液から出た、水に溶けこんでいるDNAの断片を調べ、生息している生物の種類や生存密度を調べる方法です。PCR法という、DNA断片を増やす手法を用いることで、水中にあるわずかなDNAも検出することが可能になります。


まず、環境DNA法によってカワバタモロコの生息が確認できるかどうかを知るために、カワバタモロコが生息する池、しない池で実験を行い 、正確な結果が出ることを確かめました。


そこで、環境DNA法を用いて、カワバタモロコの新たな生息地を発見する実験を行い、これまで生息が確認されていなかったため池でDNAが検出され、カワバタモロコの生息を私たちの調査によって、初めて確認することができました。


次に、検出されたDNA量から生息個体数を調べられるのかどうかを疑問に持ち、実験してみることにしました。様々な大きさの丸型容器に異なる数のカワバタモロコを入れ、個体数(重量)とDNA量の関係を調べました。自然と同じ環境での関係も調べるためにビオトープ、噴水池での実験も行いました。


結果、生体重とDNA量の関係を表す回帰式(DNA量から生体重を予測する方程式)を求めることができました。水量が多くなるにつれて検出されるDNA量は減りましたが、相関関係は見ることができましたが、回帰式の数値は小さくなっていきました。


そこで、標識採捕法で得られる推定生息数との比較をしました。噴水池でのカワバタモロコの推定生息数は標識採捕法では4000匹以上、環境DNA法では18匹と大きな違いがあり、回帰式が小さくなりすぎていることがわかりました。



この違いの原因として、私たちは水質によってDNAの分解速度の違い、それがDNAの検出量に影響すると考えました。そこで、池の水と水道水でカワバタモロコを育て、DNA検出量に違いが出るかを調べました。その結果、水道水の方が、池の水よりも3倍以上DNAが検出されました。微生物などがいる池の水ではDNAの分解が早く進むと考えられます。


まとめとして、環境DNA法はカワバタモロコなどの生き物の生息状況の把握に役立ち、多くの生き物の保全につながると技術であるとわかりました。これから、回帰式をより正確なものにすることをはじめとして、カワバタモロコなどの生物の保全活動に生かしていきたいと考えています。



■研究を始めた理由・経緯は?

もともとはため池の調査全般を行っていましたが、外来種の駆除を通してカワバタモロコの調査と保全活動が生物部の中心となる活動となっていきました。現在は、カワバタモロコの研究を応用して、他のため池の貴重な生物の保全に活かすことも視野に入れて活動しています。

■今回の研究にかかった時間は?

2007年に神戸市内のため池でカワバタモロコを保護し、2008年に放流。
2009年より継続的に同じ池で生息数調査を行っています。
2014年度からは、環境DNA手法によって新しい生息場所の発見や保護を行っています。

■今回の研究で苦労したことは?

今までは屋外での調査が中心だったので、新たな実験方法に慣れるまでが大変でした。特にDNAの分析などは、目に見えず細かい操作が多いので、緊張しながらの実験でした。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

DNAがうまく検出されるにはどうすればいいかについて、学校の噴水や水槽など様々な調査方法を考えて実践している点に注目してほしいです。さらに、カワバタモロコそのものの魅力も注目してほしいです。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・『水辺の環境 ―生物群集からの視点から―』江口保男・田中哲夫(編)(朝倉書店)
・『水を調べるだけで生き物がわかる!~環境DNAを利用した生物分布モニタリング法』高原輝彦・源利文・土居秀幸(朝倉書店)
・『身近な水の環境科学[実習・測定編]』日本陸水学会東海支部編(朝倉書店)

■次はどのようなことを目指していきますか?

DNAを調べた結果で生息数の計算を行うと、実際に捕獲して行った計算と大きく異なっています。この誤差を生む原因を詳しく追及し、もっと簡単に生息数が計算できるような方法を生み出していきたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

河川や森林など様々な場所での調査を行っています。それと並行して、カワバタモロコを通じた中学校への交流事業や、地域のため池調査やイベントのボランティアを行っています。結果が得られれば、積極的に発表できる場に出ていき、多くの人に興味を持ってもらっています。

■総文祭に参加して

初の総文祭への出場となったので緊張の中の発表となりました。研究の発表を通じて、多くの人に認めていただくことができました。次回もぜひ参加してみたいです。

 

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