世界へ”FLY”する東大生
~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ
登阪亮哉くん(東京大学)
(2015年7月掲載)
第5回 なぜ幼児教育を取材テーマにしたか
教育は人材育成の手段だ
さて、教育に関する取材をしようと決意した僕ですが、「教育」だけではあまりにも広すぎて、ある事例について他と比較して深く分析するような取材の仕方が難しいと感じました。それでは、わざわざ一度に複数箇所に取材に行く意味がありません。
そこで、まずは「教育とは何か」を考えることにしました。もちろん、各個人や立場によって異なる答えがあると思うのですが、記者としての僕は、教育を社会に資する人材育成の手段だと考えました。社会がわざわざ税金を投じて教育を行っているのは、それが将来的に人材というより大きな利益を生むからだ、という考え方です。
その観点から、僕が最初に思い付いたのは、「高等教育(大学)」について分析することです。まさしく人材を最終的に送り出す機関であり、各国ごとに様々な特色もありそうで、今回の企画にはうってつけでした。また、ちょうど日本国内では「L型大学・G型大学」という新たな大学の形が文部科学省の有識者会議で提言され話題となったり、大学入試制度も変革の時期を迎えたりと、注目度の高いトピックでした。さらに、各国のトップ大学のエリートを取材していくことは、僕のバックグラウンド、すなわち灘高校から東大に入ったこととマッチしていました。僕自身も含め、東大生の多くはあまりエリート意識を持っていない印象があるのですが、海外のトップ大学ではエリートとしての自覚が強いという話を聞いたことがあります。そういった意識と大学教育のかかわりの部分に特に興味があり、取材してみたいと思いました。
日本では幼児教育の重要性は認識されていないのでは
これが幼児教育へと大きく変わったのは、高校時代に何度かお手伝いさせていただいた教育系NPOの代表の方に、計画に関するアドバイスをもらいに行ったときでした。その方は元新聞記者で、教育に関するウェブメディアも運営していらっしゃるので、取材に関するプロとしてのアドバイスをいただきたくご協力をお願いしました。僕が教育に関して人材育成の面から各国の事例を取材、分析したいと言うと、まず日本や世界の教育の状況についていろいろ教えていただきました。そのうえで、「幼児教育は取り上げないの?」と言われました。
そのときまで僕は、幼児教育が教育分野のひとつとして扱われていることさえあまり意識していませんでした。ところが、お話を伺うと、例えばノーベル経済学賞を受賞した教授が最も費用対効果の高い教育として幼児教育を挙げているなど、幼児教育の重要性はとても高いことがわかりました。また同時に、僕自身がそうであったように、日本ではまだそういった重要性についての認識が浅いかもしれないと感じました。そこで、人材育成面でも、「今まで誰もやったことがなさそう」という意味でも、幼児教育はぜひとも取り上げたいと思いました。高等教育に加えて幼児教育に関する取材も行うことで、教育のはじめと終わりにおける相違点を見いだせれば面白いと思いました。
尊敬する友人の後押しを受けて
この段階では、高等教育と幼児教育の二本立てで行くつもりでした。しかし、のちにFLYプログラムの申請段階で「軸がぶれるのでは」と指摘され、僕自身もそんな気がしたために、どちらかを選ぶ必要に迫られました。
数日間悩んだのですが、それが解決したのは、僕が尊敬する友人に相談したときでした。彼は僕より圧倒的に賢く意欲的で、彼のような人材を教育によって生み出すことができればそれが教育のゴールなのではないか、と常々思っていました。その彼に「幼児教育を取材することについてどう思う?」と聞いたとき、彼は幼児教育という分野の面白さに同意するとともに、彼自身が幼児だったころ、ハーバード大学の教授が書いた幼児教育に関する本を参考に育てられたと語ってくれました。
この時、僕の中で、幼児教育に対する興味が一気に膨らみました。自分がたどり着いた分野が、本当に重要な意味を持つのだと確信に近いものが持て、僕は幼児教育をとことん調べようと決意したのです。
次は、僕が普段どのように計画のための準備をしているのか説明したいと思います。
※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/