世界へ”FLY”する東大生
~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ
登阪亮哉くん(東京大学)
(2016年8月掲載)
~よい先生とは「子どもに学ばせる」先生
引き続き、シンガポールにあるSarada Kindergartenへの取材をレポートします。
音楽の次は、英語の授業を見学しました。
はじめに先生が、「talkingと同じ意味の言葉を言ってみよう!」と、子どもたちに投げかけました。子どもたちはそれを受けて色々考えていました。そして、誰かが「whispering」と言いました。先生が「いいね!手を挙げて言ってみて!」と促すと、その子は挙手して、元気よく「whispering!」と答えました。先生は子どもたちに対して「じゃあみんなでwhisperingしてみよう!」と言い、みんなでささやくように「whispering」と言いました。
他にないか先生が問いかけると、今度は「screaming」という言葉が挙げられました。これもみんなで叫ぶように「screaming!」と言いました。その後、先生はホワイトボードに「whispering」、「screaming」と書き、それぞれのそばに挙手した子どもの名前も書きました。
その後も様々な単語が挙がり、先生はそれらを黒板に書いていきました。途中で「drinking」という単語を挙げた子どもがいたのですが、その子に対しては「本当にそうかな?」と再び考えてみるよう促しました。
それから少しして、子どもたちが思い付かなくなったためか挙手が止まりました。すると先生は、「私は今みんなに対して何をやっているかな?」と問いかけました。子どもたちは頑張って考え、そのうちに誰かが手を挙げ、「asking!」と答えました。それに対して先生は「You are a good player!」と労い、ホワイトボードに書き加えました。
その後も、難しい単語を出した子に対してはその言葉をかけていました。また、意味を理解していない子がいる単語に関しては実際に読み上げながらやっていました。
授業中、突然スコールが降ってきたのですが、その時先生は窓を閉めた後、「先生はどうして今窓を閉めているのかな?」と子どもたちに問いかけていました。こういった一つひとつの行動に「なぜ?」という意味を考えさせるのです。
以上で授業がひと段落ついたため、最後に先生と子どもたちでホワイトボードに書いてある単語を全て実演しました。子どもたちはとても楽しそうで、すべてやりきった後には拍手とともに歓声が上がりました。とても盛り上がっていましたが、先生が「じゃあ静かにしようね」と言うと、すぐに静かになりました。
次に先生は、「私が言ったことを実際にやってみてね。じゃあ、swimming!」と言い、泳ぐような動きを始めました。子どもたちもそれに合わせて動き始めました。その後、running、hoppingなどの単語も挙げられました。
その次に先生は「chair!」と言いました。これは動詞ではないため、子どもたちはどうすればいいかわからず迷っていました。それに対して先生は、「こんなふうに名詞を言ったら座ってね」と言いました。その後、動詞なら実際にやってみる、名詞なら座る、というゲームが始まりました。時々子どもたちにも何らかの動詞や名詞を言ってもらいました。この時、挙手せず発言した子には挙手するよう促しました。
しばらくしてゲームが終わり、授業が終了しました。最後に、一日で一番発言したり集中していたりした子にシールをあげていました。
Sarada Kindergartenの園長先生にお話を伺いました。
・Learning Storyのような海外の最新事例を取り入れるうえで注意すべき点は何ですか。
<Learning Storyについては、こちらの連載を参照>
まず、最新の情報を手に入れることです。私の場合は、国際カンファレンスに参加した際にLearning Storyについての話を聞くことができ、その信用度や重要性について吟味することができました。幼児教育の効果に対して定性的な評価を行うニーズはかなり高いため、とても注目されていたように思います。
ただし、このような事例を取り入れるにあたっては開発国との違いに気を配らなければなりません。例えば、Learning Storyは先生の数が十分にいないと実現できません。現在Sarada Kindergartenでネックになっているのもその点です。そのため、先生の卵として訓練を受けたい学生を受け入れ、人手を確保することを意識しながら導入の準備を進めています。
・親が家庭でやるべきことは何ですか。
子どもの独立心を育むことです。独立心はその後の学びに大きく影響するので、早い段階で身につけるべきだと考えています。その上で重要なのは、幼児を幼い赤子のように扱わないことです。具体的には、例えば赤ちゃん言葉などを使ってはいけません。そのような接し方をしている間、子どもはずっと赤ちゃんのままです。そうではなく、一人の人間として扱い、自分でできることは極力やってみてもらいましょう。
・幼児教育において、良い先生とはどのような先生ですか。
それは、子どもを「教える」のではなく、子どもに「学ばせる」先生です。何か情報を与えるだけではなく、子どもに問いを与え、考えさせることが重要です。また、子どもの成長のカギとなる問いかけはそれぞれ異なるので、一人ひとりの自己表現に最適な問いかけを様々な機会で与えなければいけません。そのためには、先生は「何も知らない」というスタンスを取るのが有効です。クラスの子どもたちと共に学んでいくつもりでいれば、自然と適切な問いかけやファシリテーションができるようになります。
※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/
前回の記事を読む
先進的な取り組みでシンガポール政府教育省に認定されたSarada Kindergarten その1
~音楽の授業を見学
第36回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その4
教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~実際に書いてみた
第35回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その3
教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~Learning Storyの書き方
第34回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その2
教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~子どもの観察をどのように記録しているか
第33回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その1
子どもの学びを客観的に記述することを通して教育の質を高める「Learning Story」を学ぶ
第32回 子どもを共に育てるチームとして、学校と親が協力することの意味 ~マレーシアの事例紹介 その2
第31回 発展途上国の子どもたちに、実践を通した学びの機会を与えるEQLの試み ~マレーシアの事例紹介 その1
第30回 一人旅での安全管理~万全の注意をしつつ、心ひかれたものをしっかりと味わおう
第29回 話に聞くだけではわからない、「東南アジアの優等生」の街の実態 inシンガポール
第28回 「普通の都会」の風景とアジアの文化が混在する街 inマレーシア
第26回 都市のエネルギーが圧倒的。強烈に焼き付くバンコクの匂い
第25回 欧米の学生の自己発信力と行動力の原点を幼児教育に見た
~問題解決や議論に必要な力は日常生活の中で綿密に育まれていく
第24回 「社会の中の自分」を意識できることを重視~ドイツの幼稚園Kindergarten Küpkersweg
第22回 キリスト教国の最大の祭りの準備~クリスマスマーケットに行ってみましたinドイツ
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第20回 パリ同時多発テロ直後のヨーロッパに滞在! ロンドン編
第18回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記3
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~人格教育を重視。Adventurousness(冒険心)からZest(熱意)まで写真や絵で提示