世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2016年8月掲載)

第36回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その4

教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~実際に書いてみた

 

Learning Storyに不可欠なのは「4つの“D”」

グループワークで用いた模造紙を前に貼ってみんなで指摘し合う
グループワークで用いた模造紙を前に貼ってみんなで指摘し合う

Learning Storyを書く上での注意点を踏まえ、実際にLearning Storyを書く方法が解説されました。

 

まずはみんなでLearning Storyの実例を読みます。要約すると、「ある日、子どもが教室に入ってきて、算数を始めました。自分で興味を持ったようです。はじめは3までしか数えられなかったのですが、先生が手伝ったところ、5まで数えられるようになりました」という内容です。そして、それについて講師が解説します。まず重要なのは、学びの前後での違いを見て記述することです。次に、何が子どもを動機付けしたのか、そのきっかけに注目します。そして、そのために先生は何ができたか、そのフィードバックを行います。

 

以上を踏まえ、Learning Storyに不可欠な4要素(4D)を挙げました。

 

・Describing

学びについて、その重要性を伝えるに足る十分な情報を記述すること。可能な限り、学びに関わる全てについて記述すること。

 

・Discussing

学びの過程で何が起きたか、自分でフィードバックを行うこと。また、他の先生にも読んでもらい、他に何ができたか議論すること。

 

・Documentating

子どもが直接言ったことを、正確に記述すること。

 

・Deciding

次に何をするか、指針を決めること。

 

そして、説明の締めくくりとして、Learning Storyの意義を述べました。

 

「このように子どもの成長を評価する形で記述する理由は、子どもを理解し、次のレベルに進めるよう手助けすることにあります。ですから、先生は傲慢になってはいけません。子どもたちは生まれつき成長する能力を持っており、私たちを必要としていません。私たちこそが、彼らを必要としているのです」

 

以上を踏まえ、最後に、実際にLearning Storyを書いてみることになりました。

 

まず、女の子がネットのような障害物を乗り越え、戻ってくる映像を流しました。先生たちはそれについて観察し、その内容を議論しました。僕は「行きよりも帰りの方が速かった」といった点には気づいたのですが、先生たちは「頭がネットに当たって髪が乱れたから直した」といったところまで見ていました。

 

 

活動の中で習得された「学びの性質」と「カギとなった分野」を分析する

 

次に、Learning Storyにおけるフォーマットに基づき、学びを分類しました。この場合、学びの性質は「Engagement(集中力)」「Reflectiveness(考える力)」であり、学びのカギとなった分野は「Motor Skills(運動能力)」であるという結論になりました。そして、こういった分類がなされる学びにおいては、新しい制約を与えると次の成長につながると講師からの説明がありました。そして、これらをもとに実際に先生たちがタイトル付きのLearning Storyを書きました。

 

以上でワークショップが終わりました。

 

しかし、そこで解散にはならずにそのまま数十分間、ワークショップを通して何が学べたかについて議論していました。終始、講師や先生の真剣さに圧倒される1日でした。

 

最後に、ワークショップを通して感じたこと・学んだことをまとめます。

 

まず、シンガポールの人材育成への積極性をとても強く感じました。それは、このようなワークショップを政府が支援したり、ワークショップを行うことができる先生を政府が認証したりしている点に加え、そもそも幼児教育を人材育成の重要な段階と捉えて推進しているところにも表れています。

 

また、Learning Storyという幼児教育の新しい評価方法が、とても効果的であると感じました。幼児教育で伸ばすべき能力は集中力・好奇心・コミュニケーション能力といった定量化の難しいものが多いですが、Learning Storyであれば定性的な評価が可能です。一方で、フォーマットやルールに則った記述を行うので客観性も担保されます。そして何より、これらの特徴が評価後の指導に応用する上で非常に有用であると感じました。実際に、障害物を乗り越える女の子のLearning Storyに対して、講師は「こういった場合は新しい制約を与えると次の成長につながります」とアドバイスしていました。今後Learning Storyが蓄積していけば、より効果的な指導方法を導き出すことができるようになると感じました。

 

実際に幼児教育の場でLearning Storyを導入するには人手不足などいくつか課題もありますが、今後も情報発信をして、日本での導入事例が増えればと思っています。

 

つづく

第37回 シンガポールの幼児教育

先進的な取り組みでシンガポール政府教育省に認定されたSarada Kindergarten その1

~音楽の授業を見学

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

前回の記事を読む

 

第35回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その3

教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~Learning Storyの書き方 

第34回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その2

教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~子どもの観察をどのように記録しているか

第33回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その1

子どもの学びを客観的に記述することを通して教育の質を高める「Learning Story」を学ぶ

第32回 子どもを共に育てるチームとして、学校と親が協力することの意味 ~マレーシアの事例紹介 その2 

第31回 発展途上国の子どもたちに、実践を通した学びの機会を与えるEQLの試み  ~マレーシアの事例紹介 その1

 

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第29回 話に聞くだけではわからない、「東南アジアの優等生」の街の実態 inシンガポール

第28回 「普通の都会」の風景とアジアの文化が混在する街 inマレーシア

第27回 タイの夜の怖い体験

第26回 都市のエネルギーが圧倒的。強烈に焼き付くバンコクの匂い

 

第25回 欧米の学生の自己発信力と行動力の原点を幼児教育に見た

 ~問題解決や議論に必要な力は日常生活の中で綿密に育まれていく

[欧米の幼児教育調査まとめ]

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第16回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記1

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