世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2016年3月掲載)

第24回 「社会の中の自分」を意識できることを重視~ドイツの幼稚園Kindergarten Küpkersweg

みんなでお弁当やおやつを食べるホール
みんなでお弁当やおやつを食べるホール

今回訪問したのは、ドイツのオルデンブルグという街にあるKindergarten Küpkerswegです。

 

この幼稚園では子どもたちは男女10名ずつ、20人の「グループ」にわかれ、3人の先生のもとで半日を過ごします。ホームページ上で教育方針を公開しており、その細かさに驚かされます。

http://www.kindergarten-kuepkersweg.de/konzept.html

 

この幼稚園は、子どもたちが「社会の中の自分」を意識できるようになることをとても重視しています。

 

具体的には、自分が自由な存在であるという自覚や、目に見える範囲だけでなく影響が及ぶ全ての関係者に対して気を配る想像力、自分の意見を言語化して適切に伝える自己発信力、自分の役割を見つける課題発見力などを養っています。

 

その手段として主にディスカッションと読書を用いており、先生はそれらをファシリテートするとともに、子どもたちの見本となるという役割を担います。

 

 

実際に授業を観察して気づいた点をまとめます。

 

・設備の充実

この幼稚園では多くの時間を子ども同士の自由な遊びに割いているため、環境の整備にとても力を入れています。園庭には自然と触れ合える設備が用意されており、例えば旧式のくみ上げポンプを子どもが使えるようにして、実際にそれで地下水をくみ上げて水遊びや泥遊びができるようになっています。屋内には子ども用に低く設計されたキッチンがあり、当番の子は先生と一緒に果物を切って、おやつの時間にみんなでそれを食べます。

 

このように子どもへの期待値を高く設定し、少し難しいことでも実現できるような設備を整えていました。

 

 

・子どもとの真剣な対話

子どもたちが遊んでいる最中に、体格の大きな子が小さい子を泣かせてしまいました。けんかではなく、小さな子が大きな子に追いつこうとして転んでしまったようです。すると先生は当事者だけではなく一緒に遊んでいたグループ全員を集め、どうすればみんなで楽しく遊べるか子どもたちに問いかけました。そして子どもたちの意見に頷きつつ、双方で歩み寄るように諭しました。

 

あとで先生に話を聞くと、このように園内で問題が発生した際は当事者間だけでなく全体に問いかけ、周囲の子どもたちにも真剣に考えてもらうことが重要だそうです。

 

・保護者との綿密な関係

保護者が園で過ごす時間が長く、先生と話している人や子どもの様子を観察している人が常に数人いました。良い教育効果を生むために、保護者の参加は「義務」だと考えられているそうです。先生は保護者の方に、家での様子について様々な側面から話を聞いていました。

 

クリスマスが近かったので、教室中にクリスマスにまつわるものが置いてある
クリスマスが近かったので、教室中にクリスマスにまつわるものが置いてある

以上を踏まえて、先生にインタビューしました。

 

――この幼稚園の特徴を教えてください。

 

私たちは子どもたちが「社会の中の自分」を自覚できるようになることをとても重視しています。そのため、子どもたちと丁寧に関係性を築いています。特に重要なのは、双方向性です。子どもたちが子どもとしてのコミュニケーションを取る一方で、私たちは大人としてコミュニケーションを取ることで、その違いを考えさせ、理解のための努力ができるようになります。

また、本やCDをたくさん置いているのも特徴です。ただ読んだり聞いたりするだけでなく、それを通じた意見交換をすることで、子どもたちの自己表現能力を養います。

 

――授業はどのように進みますか。

 

私たちの幼稚園では複数学年の男女10名ずつのグループを1単位としています。子どもたちが幼稚園に着いたら、まず先生がグループのみんなに何をしたいか聞きます。あるいは、先生が「昨日は○○をしたから今日は△△をやろうか」と提案することもあります。いずれにしても、最終的に決めるのは子どもたちです。また、毎日ディスカッションの時間を設けて、園であったことや身の回りの問題について話し合います。自分に直接は関係しない周囲の問題に興味を持つことは、民主主義社会に参加する第一歩となります。

 

――それらを実現するうえで先生に求められるものは何ですか。

 

子どもに対するリスペクトです。子どもは幼くとも一人の人間であり、自分の意思を持っていますから、それを尊重しなければなりません。表現の仕方がまだわからない子に対しては、わかりやすい言葉で問いかけながらそれを探っていきます。

 

また、子どもの興味が変わっていくのを敏感に察して、それに合わせた教育をしなければなりません。その変化は子どもの可能性そのものですから。そしてもちろん、グループの子どもたち全員の興味が一致することはないので、お互いの興味を理解したうえでそれをすり合わせて何をするかを決めます。この過程が、より良い関係性を生み出します。

 

教室の目立つところに置かれている本棚
教室の目立つところに置かれている本棚

――保護者に求められるものは何ですか。

 

保護者は子どもにとって最も大切な存在にならなければなりません。良い関係を気づき、子どもたちの肯定的な感情の源として、褒めてあげたり一緒に楽しんだりすることが大切です。

 

また、保護者の方々は子どもの家での様子から、子どもに何が起こっているのかを知っています。それを私たちに伝えてもらえれば、私たちは子どもに何をすればいいのかについて専門的な知識を持っているので、より良い教育をしてあげられます。子ども、保護者、教師の三者間はこのように互いの役割に合わせて働きかけるべきです。

 

――良い教育を具体的にどのように判断しますか。

 

特に幼児教育は、その影響が現れるまでに時間がかかることもあり、加えて生まれつきの個人差もあるので、判断は難しいというのが正直なところです。国際的な研究をもとに、良い影響を与えるとされる要素を見ていくというのが重要かと思います。

 

また、自明に良い影響を与えるだろうと判断できることもいくつかあります。例えば、他者を尊敬したり友好的関係を結ぼうとしたりするという意識や、実際に身体を動かしての多様な経験などです。それらを将来的により活かせるように、好奇心や学び方自体を育むことも重要です。子どもを観察しながら、これらの傾向が現れるようなコミュニケーションの取り方を図っています。

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

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