世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2015年12月掲載)

第15回 マサチューセッツ工科大学で高校生に向け理数系映像教材を開発する渡邊理佐子さんインタビュー vol.2

引き続き、ハーバード大学教育大学院を卒業された渡邊理佐子さんにお話を伺います。前回は、国際教育の視点から教育の各国比較についてお聞きしました。今回はそれを踏まえて、具体的に教育プログラムを作成する際の思考法についてお伺いします。


登阪)現在渡邊さんが開発されている教育プログラムについて教えてください。

渡邊さん)現在、私はマサチューセッツ工科大学でMIT BLOSSOMSというプロジェクトに参加し、高校生に向けた理数系の映像教材を開発しています。一方的に知識を与える従来の映像授業と違い、映像の中で知識と問いを与え、それをもとに先生が生徒の思考をアシストし、その後に映像が再び知識と問いを与えるという双方向の学びを実現しています。

登阪)そういった教育プログラムを作る上で、意識すべきことは何ですか。

渡邊さん)いくつかあります。まず、そのプログラムを子どもたちのどういうところに役立てたいか、ということです。ハーバード大学のHoward Gardner教授によると、人間の知性には様々な側面が独立に存在します。その中のどの部分にフォーカスするかによって、プログラムの内容も変わってきます。MIT BLOSSOMSでは理数系の知性にフォーカスしました。

次に、ターゲットをより具体化することで、プログラムの内容を具体化させます。私たちは、特に将来理数系の分野に進もうとしている高校生を対象にしました。

これらが決まったら、子どもたちをどういう手段で育てたいかについて考えます。私たちの場合、先述のような双方向性を重視しました。生徒に自分たちで問いを解決させるという手法はアクティブラーニングと呼ばれ、最も学習効果が高いと言われています。これは科学的に支持されているため、大きな強みになります。また、これに加え特に重視したのが、「学校の先生が主体である」ということです。映像は先生の指導をサポートするツールであり、その相乗効果がより大きくなるように教材を作りました。

こうしてプログラムを作成する過程で、自分たちと似たようなことをやっている前例がないかどうかというマーケティングを行わなければいけません。プログラムがユニークなものでなければ、長期的に続けることはできないでしょう。また、場合によっては自分たちと近いことをやっている団体とパートナーになれるかもしれません。そのような分析を行うことが重要です。私たちは、学校の先生を主体としているという点でほかの映像授業とは一線を画していると言えます。

最後に、プログラムを実際に運営することを考えなければいけません。人員や資金が足りなくなったらプログラムは回らないので、民間として収益化する、官庁と協力するなどの手段をとる必要があります。

以上のような思考を経て、教育プログラムは作られます。

登阪)「学校の先生を主体とする」というような、プログラムの独自性を生む発想はどこから得られるのですか。

渡邊さん)このプログラムを実際に考えたRichard Larson教授によると、彼が中国に行った時の体験がもとになっています。彼が中国の地方の学校に視察に行ったとき、先生がビデオ教材の一部分を見せて生徒に問いかけ、ひと段落ついたらまたビデオを再生する、というのを繰り返していました。それを見て、先生を主体にした映像教材による双方向での授業を思い付いたそうです。

登阪)最後に、教育を専攻された渡邊さんが、ご自分のお子さんを育てる時に意識したことを教えてください。

渡邊さん)私には娘が2人いるのですが、試行錯誤の連続でした。まず重視したのは、言語と数学です。言語に関しては、例えば長女は幼少期に英語だけで育てたり、小学校からは第二外国語として中国語を学べるようにしたりしました。世界中から人が集まる大学院や国際機関での経験から、英語ともう一つ外国語を話せることは、コミュニケーションの幅を広げる意味でとても大事だと実感したからです。また、言語を学ぶことは文化を学ぶことにもつながります。

数学も、理系に進むならば当然必要ですし、文系に進んだとしても統計を扱えなければ困るでしょうから、必要な水準を維持できるようにしました。

そして、育てる際に何よりも重視したのは「自主性」です。自分がやりたいと決めたことであればそのモチベーションのおかげでどんどん成長できるからです。また、楽しいという思い出があれば知識も強く記憶に残ります。そのため、何についてもなるべく本人に考えさせて、アドバイスを求められたときにそれに応えるという形を取りました。中国語を選んだのも長女自身です。

他にも、生き物を育てたり、伝統芸能を学ぶ機会を与えたりと、色々な刺激を与えました。娘たちのためにやりたいことはいくらでもありますね。

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

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~FLY Program参加を決意したわけ

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休学中、東北の被災地域のNPOで子供たちへの学習支援活動

~価値ある1年をいかに自分で考えて創っていくか
第5回 なぜ幼児教育を取材テーマにしたか

第6回 休学経験者インタビュー:
世界40ヵ国以上、約300日間で回り、海外で働く人を取材し発信する旅
~生ぬるい自分を変え、同世代にいろいろな選択肢を示したい

第7回 世界一周のための準備
~幼児教育の専門家に会い、本を読み、取材項目をまとめた

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