世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2015年12月掲載)

第14回 マサチューセッツ工科大学で高校生に向け理数系映像教材を開発する渡邊理佐子さんインタビュー vol.1

今回はマサチューセッツ工科大学でMIT BLOSSOMSというプロジェクトに参加し、高校生に向けた理数系の映像教材を開発している渡邊理佐子さんに取材しました。


渡邊さんは上智大学を卒業して企業で働いたのち、ハーバード大学の教育大学院へ留学しました。大学院では国際教育について学びながら、UNESCOのEarly Childhood Developmentという部門でリサーチを行っていました。国際教育の立場から、教育に関する学び方や各国比較の方法、教育プログラム作成の際の心構えなどについてお聞きしました。

 


登阪)初めに、なぜ国際教育という分野を志したのか教えてください。

渡邊さん)私は3歳から9歳までアメリカに住み、アメリカの教育を受けました。その後日本に戻ってきて日本の小学校に通い始めたため、アメリカと日本の教育を比べて考えることが多かったのです。大人になるにつれ、そういった教育の違いを学問的に分析してみたくなりました。

また、大学を卒業したあと日本のメーカーに勤務していたのですが、その時に他国の人を採用する仕事をしていました。そのため、受けてきた教育が人々の働き方に影響を与えているのを日々目の当たりにしました。

このような経験を通して国際教育という分野に興味を持っていました。そしてある時、スリランカの教育を調査するというUNICEFのプロジェクトに参加し、内戦下での教育が子どもたちに与える影響の大きさを目の当たりにして、国際教育をもっと勉強したいと思い、ハーバード大学の教育大学院への留学を決意しました。

登阪)教育が働き方に影響を与えるとのことですが、具体的にはどのような違いが見られますか。

渡邊さん)いろいろありますが、特に大きいのは仕事の取り組み方や、課題を発見する能力などです。


例えば、私がよく見てきたアメリカ人と日本人を比較すると、日本人は暗記能力や与えられた課題を処理する能力には優れているのに対し、アメリカ人は自主性に優れ、新たな課題を発見する能力が高いです。このように、仕事における思考回路が異なります。課題を発見する能力とは、例えば地球温暖化のように、それまでは存在すらしなかった概念を問題として提起する力のことです。

この違いは、幼稚園や小学校の頃からの教育の影響が大きいと感じます。実際にアメリカの幼稚園では、とにかく「自分で」何かをするということが多かったです。また、小学校低学年の頃から、先生のファシリテーションのもとで社会問題に関するディスカッションを行い、自分の意見を発表していました。アメリカの先生は議論のファシリテーション能力に優れ、子どもたちどうしでも議論を交わすことができました。中高生になると、授業中のディスカッションへの参加度は成績の評価基準の項目の一つになっています。

これに対し、帰国して入った日本の小学校ではそのような授業が少なく、あったとしても発言回数がかなり少ないのが印象的でした。海外の大学院でも、「東洋人は良い意見を持っているのにそれを発言してくれない」と言われています。

このような、自主的か受け身かという違いが働き方の違いにつながっています。

登阪)そういった経験を踏まえ、大学院ではどのようなことを学びましたか。

渡邊さん)国際教育のほか、異文化教育、緊急時の教育、子どもの人権などの教育関係の授業と、統計や定量的分析、プレゼンなど研究や発表の場面で役に立つ授業を取っていました。国際教育の授業では、各国の事例について学ぶことが多かったです。授業では、あらかじめ各国の事例に関する文献を山のように読んだうえで、10人ずつくらいのセッションにわかれてお互いに発表し合ったり、それについてディスカッションしたりしました。

登阪)特に興味深かった事例は何ですか。

渡邊さん)フィンランドの教育に関する話はとても参考になりました。教師の自由度がとても高く、大学で高度な訓練を受けた教師がそれぞれ自分の裁量で授業を作っているそうです。その分、採用はとても厳しいらしいですね。また、インドやマレーシアの例も興味深かったです。それぞれ国内の格差が大きく、それに合わせたアプローチをしなければならないという困難さがあるそうです。そういった国では、各地方への権限委譲が進んでいるのではないかと推測できます。

登阪)在学中に、UNICEFで幼児教育に関するリサーチを行っていたそうですが、具体的にどのようなことを調べていたのですか。

渡邊さん)UNICEFでは、大学院の単位の一つとして、3か月間リサーチのインターンをしていました。具体的には、各国の幼児教育をどの機関が担っているか、予算配分がどうなっているのか、今後どのように幼児教育を発展させていくつもりなのか、など様々な項目をすべての国について調べました。運営する機関がわかれば、国が幼児教育を福祉ととらえているのか、教育ととらえているのかがわかります。また、政策に予算が付いているかどうか調べることによって、その国の幼児教育が名ばかりのものなのか、あるいは実際に行われているのかがわかります。

登阪)そういった事例の研究やリサーチなどの経験をふまえ、渡邊さんが実際に行った教育の各国比較の方法について教えてください。

渡邊さん)教育には様々な切り口があるので、まずはその分類を行います。公立なのか私立なのか。平時の教育か、紛争などの緊急時の教育か。どの年齢に向けたものなのか。ペーパーテストなどの明確な評価軸があるかどうか。分類の仕方によって、比べ方も変わってきます。

登阪)幼児教育の場合はどうでしょうか。

渡邊さん)幼児教育は、その影響が目に見えてわかるまでの時間が長く、小学校高学年以降にようやく影響が現れるともいわれています。すると、当然その間には小学校での教育や家庭での教育があるため、因果関係が特定できません。そのため、統計的分析を行うなどの手段が有効になります。また、あるプログラムを実施した際、その影響について長期間にわたって影響を追うことも場合によっては必要になります。

次回は渡邊さんご自身の経験をもとに、教育プログラムの作り方について伺います。

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

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~FLY Program参加を決意したわけ

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休学中、東北の被災地域のNPOで子供たちへの学習支援活動

~価値ある1年をいかに自分で考えて創っていくか
第5回 なぜ幼児教育を取材テーマにしたか

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~準備の大切さと予定通りにいかない難しさを実感

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