世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

(2015年12月掲載)

第12回 Love to learnを実現する教育の工夫とは
Villa Montessori幼稚園~カリフォルニア州シリコンバレー vol.2
Head Teacher  Leung Estella先生インタビュー

前回は、取材先のVilla Montessoriの基本情報と教室でのできごとについてレポートしました。今回は、それを踏まえて、見学後に行ったインタビューと、それらから得られた発見についてまとめます。


インタビューを受けていただいたのは、Villa MontessoriのHead TeacherであるLeung Estella先生です。

 

 


成果が表しにくい幼児教育を支えるのは、経験プラス成長を信じる感覚

 

登阪)まず、園での教育の子どもの評価はどのようにされているのでしょうか。

Leung先生)基本的に、私たちはペーパーテストのような数値的な評価はしません。子どもたちの達成度は、彼らの「ふるまい(behavior)」を観察することで見極めています。例えば、どれくらいの重さのものを運べるようになったのか、あるいはどれくらい細かく指を動かせるようになったのか、などです。他にも、彼らが算数をやりたくなったときに、どれくらいの内容のことをやっているのか、あるいはどれくらい集中しているかなどを観察しています。それらを写真や文章で記録し、変化を見ることで子どもたちの成長を読み取っています。

登阪)その観察をもとに、一人ひとりに合わせたカリキュラムを作っていくのですね。

Leung先生)基本的にはそうです。子どもたちはそれぞれ発達の順番が違うので、それぞれの発達に合わせて導き方を変えます。ただし、授業自体は子どもたちの観察を踏まえて、全員に対して提供するものを準備します。今日の誕生日会もそうです。

登阪)カリキュラムを作る際に特に意識していることは何ですか。

Leung先生)子どもたちの学ぶ姿勢を、より前向きにしていくことです。”Love to learn(学ぶことを愛する)”が実現できるように、様々な工夫を行っています。また、自立心が育まれるよう、子どもたちと話すときは対等な関係性で接するように心がけています。

登阪)それらを実現するに当たって必要な教師の能力・素質は何ですか。

Leung先生)何よりも経験が大事です。子どもたちを長い間観察する中で、わかることやできるようになることが非常に多いです。それに加えて、特に幼児教育においては熱意が重要になってきます。ペーパーテストなどがなく成果がわかりにくいので、子どもたちの成長を信じるという感覚がなければ務まりません。

登阪)AMI(American Montessori institute)やAMS(American Montessori Society)に加盟していることはどのような意味を持ちますか。

Leung先生)教師のトレーニング面と教具の購入において助かっています。特に、モンテッソーリ教育の基本的な理念を共有できているのが、教師を採用するうえでも役に立っています。一方で、私たち独自の考え方があり、園の雰囲気もそれぞれ違うと思うので、実際の授業自体は私たちの判断で行っています。

登阪)保護者の方々との関係を教えてください。

Leung先生)保護者の方々もそれぞれに理想があるので、常に完全に円満というわけではありません。意見がぶつかってしまうこともありますが、それでもお互いへの信頼関係は維持しています。一緒に子どもを育てていくパートナーとしての意識が強いです。また、私たちは家庭での子どもたちの様子を知らないので、保護者の方々の視点を取り入れることは子どもたちの成長にも役立っています。

登阪)ありがとうございました。

社会で必要になる力を「自由と規律」の中で育む

最後に、前回述べた授業の観察およびインタビューをもとに、わかったことを2点挙げます。


1.自律心に特化した教育


Villa Montessoriの教育の様々な取り組みや環境は、全て子どもたちの自律心に好影響を与えていることを感じました。


片付けをしっかりすることに対する徹底はその代表です。他にも、移動時に常に列を作ったり、全く喋ったり動いたりしない時間を作ったりと、子どもたちに「我慢」を義務付ける場面が随所で見られ、少しでも守れなかった子にはきちんと冷静に注意していました。それに加え、みんなの前で話す機会を作ったり、自由時間が手持ち無沙汰にならないよう指導したりと、自分で積極的に動かなければならない経験を多く積ませていました。


こういった「自分を律し、やるべきことをやる力」は、その後の人生において非常に役立ちます。実際に、近年の研究では幼児期にこの力を育んだか否かで、その後の社会的成功に差が出ることが統計的に示されています(※)。Villa Montessoriの教育は、多面的なアプローチを通してこの能力を効果的に育てていました。


Research Summary: Perry Preschool and Character Skill Development


2.先生の数とふるまいの重要性


Villa Montessoriにおいて、1で述べたような教育を実現できている最大の要因が、「先生の数」でした。


授業を観察していてわかったのですが、20人のクラスに対して先生が3人もいることにより、教室で起こった大人の指導が必要な場面に、先生の誰かが必ず介入することができていました。


例えば、子どもたちが教室でそれぞれの作業に没頭している時、ある場所では遊びがひと段落着いた子に片付け方を教えていて、違う場所では危ないことをしようとしている子に注意している、といった場面がありました。これは先生が2人以上いないと不可能です。


また、先生たちは子どもに話しかける際、大人に話しかけるのとほぼ変わらない声色で、目線を合わせて諭すように話していました。これは子どもたちの自尊心や自立心を育むのに有効ですが、このようなコミュニケーションの取り方をする場合は子ども1人に対して先生1人が一定時間つきっきりで接することになります。


このように、先生が多いために教室で起こる一つひとつの問題に対し、時間をかけて対処できていました。そして、それらが積み重なって騒ぐ子どもがいなくなれば、教室全体の空気も引き締まり、子どもたちは自分から自分たちを律するようになります。

「教員の数」がキーワードか


今回の取材を終えて、特に「先生の数」が大きな意味を持つことと、そのプロセスがわかりました。これについては、例えば幼稚園におけるクラスの人数と、先生の経験と人数、および子どもたちのふるまいの関係を調査して、先生一人当たりの子どもの人数が何人以上だと指導が必要な場面で目が行き届かなくなるかという閾値を求めることが可能かもしれません。


また同時に、先生が子どもを対等な人格として扱おうとする態度や、先生同士の適切な役割分担などが、子どもたちの成長を促すきっかけを作る場面が数多く見られました。


今後はこの「先生の数」、およびふるまい方や関係性に注目しつつ、カリキュラム作成についてももっと掘り下げていきたいと考えています。

 

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

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