高校生×仲間

世界の高校 行ってみたらこんなとこ 第2回

スウェーデン留学経験者にききました

授業中に飲食も携帯もOK。何をするにも「自己責任」


(2012年10月取材)

杉田こむぎさん

青山学院大学 総合文化政策学部 総合文化政策学科 1年生

公益財団法人AFS日本協会の実施するAFS年間派遣プログラム第57期生)

(取材:2012年10月)

留学期間:20108月~20117(高校2年次)

 

【留学先】

国:スウェーデン
高校がある都市:ニーショーピング Nykoping

高校:テッシン高校 Tessin skolan


◎ニーショーピングってどんな街?

人口約3万人。ストックホルムから電車で1時間ほど。夏の昼間でも過ごしやすく、夜は上着を1枚はおってちょうどいいぐらいの涼しさになる。一方、冬は1日の大半が真っ暗で、屋外は髪の毛やまつげが簡単に凍ってしまうほどの寒さ。家に帰ると暖炉の前に集ったり、サウナに入ったりして暖まる。

 

ニーショーピングの冬の風景
ニーショーピングの冬の風景

 

留学先にスウェーデンを選んだ理由は? 


中学・高校の時に大学で勉強するなら福祉系がいいな、と考えて、それなら世界的に評価されているスウェーデンの福祉制度が具体的にどのようなもので、いかに人々の生活を支えているかを知りたい──と思ったのです。日本は島国で、どうしても考えが凝り固まってしまうし、日本で働くとしても向こうのことはわかっていた方がいいかな、と思ったのです。

 

それに、前々から北欧家具や建築デザインに興味がありましたし、日本語と英語以外の外国語を習得して、世界で活躍する人間になるという目標も胸にありました。福祉にしても家具にしても建築にしても、そこで暮らす人たちと話をした方が、充実した時間をすごせると考え、留学を決めました。

 

 

高校も大学も入学試験ナシ。学校はやりたいことを探して決める


日本の小学校・中学校にあたる基礎学校は9年間。高校は日本と同じように、義務教育ではありませんが、中学を卒業したほとんどの生徒は高校に進学します。中学から高校に進むときは試験はありません。同じ街に3つくらいの高校があって、そのどれかに学校の成績を送って進学先を決めます。ほとんどが進学します。自然科学、音楽、美術、工業、商業などたくさんの種類の学科があり、自分がやりたいことがやれる学校を選んでいる感じです。

 

大学入試もありません。高校3年間の成績と先生の推薦書で、希望する大学に進学できるかどうかが決まるので、特別な受験勉強をする人はいません。日本は「高校から大学へ」というのが一つのルートになっていますが、スウェーデンの高校生は学校で勉強したことだけで自分の将来を決めようと思っていません。高校は将来にやりたいことをするための基礎的な勉強をする場所、と位置づけている人もいました。

 

また、高校を卒業した後は、日本のように高校を卒業してすぐ大学、というのでなく、さらに自分のやりたいこと、例えばどこかに1年留学するとか、自分がつきたい仕事について詳しく調べるとか、ちょっと働いてみるとかしてから大学に行く人が多いですね。職歴やボランティア歴も、入学の評価の対称になっているようです。

 

大学の選び方も、自分が何をやりたいかが最優先です。評価が高いとか、難易度が高いからではなく、「あの大学のあの教授のところで勉強したい」「興味のある研究内容に強いのはあの学校だから」という理由で、進学先を選んでいます。

 

 

自分たちでやりたいことを探し、調べて発表する授業


[杉田さんの学校の時間割] 

生徒数

1クラス27人、1学年は約300人、全校で1000人くらい

他の国からの留学生

杉田さんがいた時は、インド、アメリカ、ブラジルから

時間割

留学生用のスウェーデン語 週3

体育           週1

英語           毎日

第二外国語        週2

ヨーロッパ史、スウェーデン史 それぞれ週1

数学           週2

 

時間割は、大学のように自分で興味のあるものを取りますから、登校時間もばらばらです。でも、けっこうみんな同じものを選択するのが好きで、ホームルームもありました。みんな自分がやりたいことがはっきりしているので、その授業が役に立たないと思ったら、わざと単位を落として、自分のやりたいことをしている子もいましたね。

 

宿題はすごく少ないですが、日本と比べたらコンピュータを利用する機会がたくさんありました。何かを調べるときも制作するときも発表するときもコンピュータを使うので、学校によっては、11台ノートパソコンを貸し出すところもあるようです。

 

「自分でやりたいことを探す勉強」は、ふだんの授業でも感じられました。生徒と先生がいっしょに授業を作る、という感じです。たとえばスウェーデン史の授業では、まず先生が「1700年代について」といったおおまかな主題を決めます。生徒はその時代の王様、活躍した知識人や当時の気候・地理、政治・経済といった具合に、それぞれ自分が調べるテーマを決めていきます。先生からのアドバイスを参考にしながら各自が題材を決めたところで、同じテーマの生徒がチームとなって意見交換をしたり、パソコンで調べたりしながら、「その人は何をしたのか」「その出来事・人は、現代スウェーデンにどのような影響を及ぼしたか」といった観点でまとめ、パワーポイントで発表します。自分たちが調べ、考えたことを他の生徒に説明し、納得してもらうことで、考える力が身につきます。日本のように、先生が1人で年号を教えて…ということはありません。こんな授業スタイルが、日本でも取り入れられるようになったらいいな、と思いました。

 2外国語は、中学校からやっています。進度がものすごく速くてたいへんなようでした。私は、日本語のクラスの先生のお手伝いをしたり、代わりに教えたりしました。第2外国語で日本語と中国語がある学校が全体の3分の1くらいあります。日本語をやりたい人はけっこう多いんです。アニメやマンガ、日本の音楽が人気です。そのほかには、ドイツ語、フランス語、スペイン語もあります。英語は小学生からやっているそうです。

 



授業中に携帯でしゃべってもOK!  ただし、しゃべるのは自分の責任

 

スウェーデンの高校生を見て思ったのは、「自分のことは自分で決める。そのかわり責任も取る」という『自己責任』がしっかり身についているなあ、ということです。

 

授業中でもそれを見ることができます。スウェーデンの高校では、授業中に飲食してもOKなんです。先生の目の前でお菓子を食べている。携帯電話も大丈夫。持ち込むどころか、電話がかかってきても、教室を出れば通話してかまいません。マナーモードになんてしていないので、着信音が鳴り出すこともありますが、先生も別に注意しません。「話すなら、ドアからなるべく離れてしゃべってね」って。授業に支障がなければ問題ないのです。

 
これはつまり「あなたが抜けた分は、あなたが授業を聞けないだけ。授業を聞くことができないのはマイナスだけど、そのマイナスを選んでいるのはあなた自身なのだから、好きにしなさい」ということです。日本の学校では、携帯電話を持って行くこと自体ダメだったので、びっくりしましたが、正論といえば正論ですよね。

将来のことをみんながしっかり考えているので、普通に友達同士でお昼を食べている時なんかに、急に「あなたは将来何になりたいの?」みたいな話をしたりするんです。「昨日のテレビ観た?」と同じ感覚です。お互いにわかっていても、月1回くらいで同じ話題が浮かんでくるのですが、その時にまた答えられなかったりするのは自分でもやばいと思って、将来について真剣に考えるようになりました。

体育の授業でスケートリンクへ
体育の授業でスケートリンクへ

友達も、「やりたいことはないの?」とか、「何々をやればいいじゃん!」とか、みんないろいろと提案してきてくれたりするんですよ。友達同士でそういう話をしたのは、自分にとってすごくプラスになったと思います。日本にいたら、普通に友達とそんな話をすることはまずないですから。

 

結果としてその道に進まなかったとしても、やりたいこと、将来のことを高校生のうちから思い描いているのは、すごく大人だなあと思いました。

 

意外に似ている? スウェーデン人と日本人

 

日本のことはあまり知らない人が多かったです。「スシ」「エレクトロニクス」「お金持ち」、そんなイメージですね。でも、携帯電話は有名でした。スウェーデンでは、日本製の携帯電話はほとんどないけど、スライド式とかテレビが見られるとかいうことは知っていて、すごいすごいと言われました。あと、日本人は数学ができるとか、頭がいいとか思われているようでした。中国は「安いものが多くて、マネをする国」という認識。よく知っているな、と思いました。留学中は、日本の代表として、日本のいいところをいろいろ知ってもらおうと努力しました。

スウェーデン人と日本人は意外に似ています。仲良くなるまでは口数が少なく、考えていることをあまり表に出さないけれど、お酒が入れば一瞬でうちとける(笑)。お酒は18歳から飲めるんですよ。食べるものも話す言葉も気候も生活習慣も全然違うのに、人間性が似ているのはおもしろいですね。

 

それと、スカイプが自慢です。そのほかにも、イケアとか、掃除機のエレクトロルクスとかも。地味なイメージですが、意外にプライドは高いですよ。見た目は堅苦しいけど、実は中はすごく柔軟で、楽しむことを大切にしている国だと思います。

 

ニーショーピングで見えたオーロラ
ニーショーピングで見えたオーロラ

友達との会話は英語も禁止?!で、スウェーデン語を習得

 

一番成長したのは語学、一番苦労したのも語学です。日本を出発する前に少しは単語も覚えていきましたが、すぐに役立つスウェーデン語は「こんにちは」と「ありがとう」くらいでした。

 

「こんにちは」って言うと喜んでくれる。でもその返答が聞き取れない。そこで便利だったのが、「今、何て言ったの?」です。それでスウェーデン語でいろいろ言ってもらって、もしもわからなかったら「ごめん、わからない」と英語でいえば、向こうも英語で返してくれます。最初はその繰り返しでした。

 

スウェーデン語ができるようになりたいとクラスメイトに相談したら、翌日から英語すらも使用禁止になりました(笑)。学校でもホームステイ先でもスウェーデン語だけを耳にする生活を送り、繰り返して言ってみたり、わからない言葉は何度でも聞き直したりすることで、だんだんと習得していきました。

 

アメリカの幼稚園に通っていたこともあって、言葉が違う世界に入ること自体に抵抗はなかったのですが、スウェーデン語は英語にも日本語でもない発音がたくさんありますし、単語は覚えるしかありません。留学生用のスウェーデン語の授業を受けてはいましたが、私のスウェーデン語は同級生やホストファミリーとの会話から習得したものです。

 


わからなくても許される高校生だったからこそ、いろんなことが身につけられた

 

いま振り返ってみると、高校生のときに留学をして本当によかったです。高校生の特権は、「わからなくても許される」ところ。語学も知識も、もしかしたらマナーや一般常識に関しても同じことがいえるかも。わからないことがあったら素直に聞けばいい。それが無条件で許されるのは高校生までだと思うんです。大学生になって、人に頼ってばかりいたら、「勉強する気がないの」と言われてしまうかもしれません。

 

高校生は、向こうの年齢でもまだ成人ではないので、「言葉が通じなかったらどうしよう」なんて気にする必要ありません。身振りでも手振りでも、こちらがコミュニケーションをとろうとしている意思が伝われば、相手は必ずそれに応えてくれます。厚かましくていいのです。そのぶん、自分も日本のことを教えてあげればいいのですから。こうやって、みんなにいろいろなことを教えてもらうことを通して、人に甘えていい時と場合を選べるようにもなりました。

 

行きたいけど、自信がないからあきらめるというのはもったいないです。留学すると、現地の人との会話なしでは生活できません。会話をすれば言葉は絶対にできるようになります。机に向かって1年間勉強するより、人と1年間話をした方が1000倍得だ、というのが私の経験から得た結論です。

 

日本とスウェーデンをつなぐ仕事をめざして

 

留学をして、常識というものは、人や場所によって違うということに気がつきました。文化・風習が違うのですから、日本の常識が通じないのは当たり前ですよね。また、同じ世代の前向きな考え方や将来に対する姿勢を、自分の目で確かめることができたのは、ほんとうにいい刺激になりました。

 

将来的には、なんらかの形でスウェーデンと日本をつなぐ仕事に就きたいと考えています。向こうへ行ってみて、改めて家具関係の仕事がしたいな、と思うようになりました。どこの町に行っても景色や建築物がキレイだったり、家具のデザインや配置や色使いがかわいかったりというのを見て興味が出てきたんです。

 

今は、英語、スウェーデン語を勉強するのと並行して、何かもう一つ語学を習得したいです。大学の第二外国語でフランス語を選択しているので、日常会話に困らないぐらいになるのが当面の目標です。

 

語学だけでなく、社会に広く貢献できるよう、多くのことを身につけていきたいですね。そして将来、自分が歩いてきた道を振り返るときに、「あのとき留学をして本当によかった」といえれば最高です。

 


おまけ スウェーデンの学校ってこんなところ

授業が先生の話をきいているだけというスタイルではなく、生徒たちが自ら進んで授業を作り上げて行くスタイルでした。自分たちが説明できるようになってこそ身に付いている証拠だと思うので、スウェーデンの授業の仕方が日本でも取り入れられるようになったらいいと思いました。先生の話などに疑問を抱いたら、すぐに質問するために挙手するが、当てられてから答えている子がけっこういました。


体育の授業がとても印象的でした。新学期が始まってから1ヶ月以外は特に何をするか決まっていないため、毎回クラスの友達と何をするか相談し、だいたい4〜5人1グループで好きなことをしていました。1年に1回、先生が近所のボーリング場に連れて行ってくれたりします。「学校から自宅まで徒歩で帰宅する」というのを体育の授業としているときもありました。


ランチは無料でバイキング形式。アレルギーや宗教上の問題にも対応しています。

スウェーデンの伝統料理が多いがタイ料理がでるなどバラエティゆたかでした。「豚の血

のプリン」というのがあって、最初はびっくりしたけど、慣れるとおいしかった!

 

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