From the Hub of Asia ~シンガポールから考えた高校・大学の学び

村田幸優くん シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)

(2018年6月掲載)

第7回 日本では気づけなかった、レールの外にある進路~高校生のシンガポール視察合宿をアテンド

[後編:現役高校生インタビュー]

シンガポール視察合宿記の後編となる今回は、柳津聡くん(灘高等学校2年:訪問時)に3日間を振り返ってもらいました。高校では生徒会長を務め、すでに世界規模での挑戦も重ね続けている彼。ただ、実際に足を運んだことで新たに発見したことも多かったようです。

■今回のツアーのプログラムの中で、いちばん柳津さんの印象に残ったものについて教えてください。

 

多民族が協働している現場や、新興企業のビジネス最前線を見学して、漠然ですが人々のパワーを感じました。「頑張ればより良い生活が待っている」という意識を多くの人々が持っているように思えました。このような雰囲気は、日本の日常生活で頻繁に感じるものではないので、滞在を通じて日本人としての自分(自らの生育環境、長所や短所など)を相対化できたような気がします。今後進路を決める際にも、日本海外を問わずできるだけ多様な環境を選択肢に入れることで、自分により合った将来設計ができると感じました。

  

■今回見学したNUSは、柳津さんご自身が持っている「大学」のイメージと比べてどのように感じられましたか。

 

大学が一つの街を形成しており、勉強に集中できる生活環境が整備されていると感じました。学内の交通の便の良さや、整った学生寮が印象に残っています。研究室の見学からは、資金・制度面で政府からの潤沢なサポートが受けられると伺いました。国家の強い関与は絶対善ではないですが、建国間もない実験国家シンガポールが、人材を国家の成長にとって不可欠な資源と捉えている姿勢の表れでしょう。また日本に比べて留学生が多く、国際性を強みとしたブランディングが大学のレベル向上にも貢献していると感じました。

 

■柳津さん自身は、高校卒業後はどのような進路を考えていますか。海外の大学への進学や留学は、その選択肢に入っていますか。

 

僕は国際問題に興味があり、現在も模擬国連や英語ディベートをいった課外活動を通じて国際問題に関する議論の奥深さを感じています。将来は、国際関係論・国際法に関する学識を身に付けた上で、軍縮や移民といったグローバルな課題解決に Practitioner(実行者)として関わりたいです。明確なキャリア設計はまだですが、国連などの国際機関、あるいは外務省のような国家機関で働くことも考えています。他には、シンクタンクのアナリストやジャーナリストなどにも憧れたことがあります。学業に関しては、国際問題という興味分野の性質や海外で新たな経験をしたいという思いから、学部・大学院のいずれかの段階で海外に進学する予定です。

 

■今回のツアー全体や同行した大学生の皆さんから聞いたお話などで、柳津さんの今後の学び方や進路の選び方で参考になったことを教えてください。

 

訪問先の企業・大学の職員方や大学の枠を超えて活躍する先輩方のお話を聞いて、「文系→官僚」「理系→エンジニア」といったいわゆる「敷かれたレール」のみを進路の可能性として検討するだけでは不十分だと感じました。例えば、公共政策の立案に関わるとしても近年の技術発展(AIや自動化など)の秘める可能性について熟知している必要があり、一度企業に勤めてテクノロジーに精通することでより効果的な施策を提案できるかもしれないと感じました。「文系・理系」「日本・世界」といった枠を超えて、様々な分野に知的好奇心を抱いて学び続けたいと思います。

 

★筆者より、ツアーの総括にかえて

最後に一つ記しておきたいことは、こうした記事だけを読んで「自分は海外の大学は向いていなさそうだ」と判断すること、それだけは避けてほしいなということです。確かに今回聞いたお話をまとめる形で、もし大学進学をするなら、どういう人は日本の大学の方が合っていて、どういう人は海外大学が合っていそうだと一般的な結論を列挙することはできそうです(「アカデミアの世界を将来的に目指すなら、より良い研究環境を求めて海外大学を」など)。今後ネットやSNSでも一層情報が溢れて、人によってはスマホをいじっているうちに、自分に合わない理由を見つけることもできそうです。

 

ただそうした情報は、その人が決めるときに一番大事な“自分との”相性とか、“自分が”どう感じるかとかについて、実はほとんど参考にならないんだなと、このツアーを通して感じました。ここで必要とされているのは自分のものさしで「決める」ことであって、それは他人の価値観が反映された情報を元に「選ぶ」とは違うプロセスなのだと。

 

この記事が、一つの選択肢を選ばせない方向に作用するのではなく、一人でも多くの人の行動に何かしら結びつくことができれば本望です。

 

村田幸優(ゆきひろ)くん:東京大学教養学部からの交換留学で、シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)に留学中。高校2年生の時、模擬国連大会の日本代表として国際大会に出場。中高時代はワンダーフォーゲル部に所属して各地の山を渡り歩く。料理の腕前は誰もが認めるところ。

 

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