From the Hub of Asia ~シンガポールから考えた高校・大学の学び

村田幸優くん シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)

(2018年1月掲載)

第4回 授業の質だけじゃない、大学の強みって? 施設とお金編

前回に引き続き、キャンパス内の施設や生活環境の話です。今回は寮の外の環境について。

 

不便なことが、ない……!

シンガポール国立大学(NUS)は生活面でも、設備はものすごく快適です。自分の寮は2011年にオープンしたUniversity-townというエリアの中にあり、広い芝生、巨大なロッククライミング、屋外プール、無料ジム、公共のピアノ、土日も営業している2つのフードコートやお店の数々…….と、だいたい何でも揃っています。またキャンパスもかなり広いですが、無料のバスが土日も校内を運行していて、移動にも特に不自由はありません。

 

勉強のための施設も、学生に不自由がないように相当配慮されていると感じます。例えば自習室は24時間空いているところが多く、 また、いたるところにグループワークができるような机と椅子があり、屋外でもコンセントがついていたりします。東大は平日は22時、休日は19時に全ての施設が閉まり、グループワークの追い込み時は、WiFiを求めて夜中に学校の外をさまようこともよくあったので、いつでもどこでも勉強できる環境があるのはありがたいことです。

 

University-town全体の模型
University-town全体の模型

大学自体が「ハブ」

このUniversity-townの特徴は、施設の充実度だけではありません。写真の左1/4の敷地を占めているのは、創立5年 のYale-NUS大学という別の大学です。国内唯一のリベラルアーツ系であることや、自分たちでこの学校の歴史を作っていこうというチャレンジャー精神にあふれていることから、またNUSとは違う雰囲気の生徒が世界中から集まっていて、刺激を受けます。

 

(学部からYale-NUSに挑戦している日本人学生によるこちらの記事、有料の会員制サイトに載っているものですが、興味があればぜひ読んでみてください。

https://newspicks.com/news/2379837/body/ )

 

 

入り口付近にあるビル群はCREATE (Campus for Research Excellence And Technological Enterprise)という国の研究機関で、MIT(マサチューセッツ工科大学)やETH(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)など世界一流大学 と提携して、産業化前提の研究を推し進めているそうです。特に環境、エネルギー、都市計画などの分野が進んでおり、 NUSの学生で、在学中から所属している人もいるという話です。

 

イスラエルからNUSへ研究に来られた方と。
イスラエルからNUSへ研究に来られた方と。

さらに、 NUSの構内で、国内行事や国際イベントが開かれることもあります。食堂の外が騒がしいなと思ったら、プログラミングの国内大会の会場になっていたり、近くの大ホールが世界銀行のGlobal innovation forum の会場になって、世界中の政府の人が集まっていたり。 実は、来年の世界大学ランキング発表イベント(THE World Academic Summit 2018)も、NUSで開かれることが決まっています。

 

https://www.timeshighereducation.com/news/world-academic-summit-2018-heads-singapore

 

 

上に挙げたような話もNUSの日常のほんの一部の話です。世界中から学生や研究者を政府の支援で誘致して、大学自体が人材のハブとなっていること。そして その教育や研究をもとに、学部生にも身近なところでイノベーションのハブを形成し、大学を単に勉強する場以上のものにしていることが、NUSの大きな強みなのかなと思います。

 

気になるお値段は……?

さて、ではこれだけある意味恵まれた環境の中で、NUS生はどれだけのお金を払っているのでしょうか。実は入学費などを合わせると、日本の国立大学とほとんど変わりません。寮での生活費も毎日食事が朝晩ついて月6万円とかなり安く、東京で一人暮らしをするより年間50万円ほど安い計算です。物価の差はそれほどないため、学生にとってはサービス過剰とも言えそうです。

 

※私立大学は授業料のほかに、施設設備費(約18万)、ほかの経費が必要な場合があります。

参照: 文科省資料「初年度学生納付金の調査結果概要」

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1396452.htm

 

これだけ安く抑えられているのは、実は政府が出す補助金の割合がかなり高いためです。実際、 海外から入学した生徒は補助の対象とならず、この3倍の学費を納めています。

 

これだけの文章だけではなかなか伝えきれないですが、NUSはお金のかけ方が本当に日本とは違うなと常々感じます。「国の存亡をかけた人材育成に、国が戦略的に投資し続けている」という感覚です。夜中も学内施設が使えるようにするためにも、国外から優秀な教授や研究者を呼んでくるのにも、学内を国際会議の会場とするのにも、結局はそれなりの資金、そしてそこに投資しようという意思によるところが大きそうです。

 

国内の諸々の格差も日本より大きいので、単に「シンガポール羨ましいな!!」という話でもありません。ここで思ったことは、こうした大学の環境は、特に入学時に求められるスコアのようなものとはあまり関係のない話であるなということ。だからこそ、前回の寮の話と同様に、今後の大学選びにおいては、 偏差値や何かのランキングだけじゃない比較の基準をいくつか持つこと、大学それぞれの強みがどこにあるのかを理解すること、そのために自分で情報を集めることが、とても大事になっていくのだろうなと感じました。 

 

村田幸優(ゆきひろ)くん:東京大学教養学部からの交換留学で、シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)に留学中。高校2年生の時、模擬国連大会の日本代表として国際大会に出場。中高時代はワンダーフォーゲル部に所属して各地の山を渡り歩く。料理の腕前は誰もが認めるところ。

 

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