From the Hub of Asia ~シンガポールから考えた高校・大学の学び

村田幸優くん シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)

(2017年11月掲載)

第3回 授業の質だけじゃない、大学の強みって? 寮と多様性 編

授業や勉強の話をする前に、今回はシンガポール国立大学(NUS)のキャンパス内の施設や生活環境の話をしたいと思います。というのも、これらに学校側が予想以上に力を入れていて、少なからず生徒の学生生活に影響を与えており、そしてその環境の違いから学べるところがあるなと感じたからです。

 

Residential Collegeの魅力

まずは、自分の住んでいるところから。今住んでいるTembusu Collegeという寮は、Residential College と呼ばれる種類の寮で、そのコミュニティの強さに特徴があります。イメージとしてはまさに『ハリーポッター』に出てくるグリフィンドールやスリザリンのような感じで(!)、5つに分かれているハウス対抗のスポーツ大会が開かれたり、階ごとにラウンジがあってフロアリーダーがいたり、朝晩の寮食が付いていてダイニングが賑やかだったりと、本当に楽しく、気がつけば友達がたくさんできていました。

8階のラウンジの様子。日本から来た友達「お前スリザリンなん?」僕「違うわ!!」
8階のラウンジの様子。日本から来た友達「お前スリザリンなん?」僕「違うわ!!」

 

また、寮自体に選挙があったり、単位の付く授業があったり、クラブがたくさんあったりと、生徒の自治も学校のサポートもしっかりしていて、寮の中での学びが意識的に設計されているなと感じます(※1)。

生徒間でも、例えば試験前のシーズンになると「鬱ぎ込む友達への声のかけ方」というポスターがエレベーターに貼られてしていて、ただ競争が厳しいだけではなくて、自然と友達同士で支え合える環境も寮が作っているのだなと気づきました。

 

※1 Tembusu Collegeの HPはこちら!https://tembusu.nus.edu.sg/

 

こういった寮という場を通した学びの良さは、 Residential educationという分野で近年研究が進み、注目が集まっているようです。実際に東京大学周辺でも、駒場寮という寮が2001年に廃寮してから、友人とルームシェアする人や、公共のシェアスペースがポツポツと出てきたり(※2)、海外の大学を目指す高校生には馴染みの深いH-LAB(※3)という団体が、まさにレジデンシャルエデュケーションを理念に掲げて、東京に新しい学びの場を作ろうとしていたりしていて、海外をモデルに着々と広がりを見せているイメージがあります。

 

※2 例えばこちら:「KOMAD(コマド)」https://paraft.jp/r000017002902

※3  http://tokyo.h-lab.co/

 

 

個人的にこの環境で面白いと思ったのは、学科や性別の違いといった、日本にも存在しているはずの多様性から発見がたくさん生まれているということです。例えばNUSでの生活が始まった時、なんとなく EngineeringやBusiness、Computer scienceの存在感が強いなと感じることがありました。そのことで、日本では授業や所属団体の関係でいわゆる文系の友人が多かったなと振り返ると同時に(文理の分離問題……)、テクノロジーと自分の分野の繋がりを見つけ興味を持つ大きなきっかけになりました。また、朝食時や夜のラウンジで自然と語り合う展開になることも多く、そうして話をした人とは全くバックグラウンドが違っても、長く続く友人になれているなと感じます。

 

 

日本の「大学内に多様性を」の議論でも、いかに海外の学生を確保するかという話も聞きますが、ただいろいろな人がいますというだけでは水族館に水槽が並んでいるのと同じです。大事なのはそこでの交流を通し、自分はどういう気づきがあったのか認識することです。自分がNUSを選んだ理由の1つでもある生徒の多様性は、寮という場によって最大限に生かされているなと思いました。

 

ダイニングでの新入生歓迎パーティーにて。スライドの真ん中の円が寮での学びを示します。
ダイニングでの新入生歓迎パーティーにて。スライドの真ん中の円が寮での学びを示します。

多様性が重視されるワケと、これからの大学

ではその多様性の何が大切なのか。ここでの生活を通して出した今の答えは、シンプルに、触れ合いの中でものの見方の軸が増えることです。

 

少し話は大きくなりますが、経済が成長過程にあり、「明日は今日より進歩した世界がある」という確信のもとで、共通の目標がある社会では、社会の主たる価値観と幸せは結びつきやすいのだと思います。

しかし、社会が成熟し、共通の目標がなくなると、いろいろな価値観を持つ人の中で、それぞれの価値観を持ちつつ、それぞれの生きがいを見出すことが今以上に求められる気がします。

 

そんな中、高校までの限られた人生で培った価値観にのみ判断を委ねていると、自分も周りも息苦しくなる時が多々訪れるのではないでしょうか。

 

例えば、シンガポールに在住している日本人女性の多くが、街中でも周りの人が優しいので日本よりも子育てがしやすいと言います(ベビーカーを押して電車に乗った時の周りの視線が全く痛くない、など)。これはとても単純な捉え方ですが、幼い頃から多様性に富む環境で育ってきた人々は、その見方の軸の多さから、「違う」ということへの抵抗が日本の人より少ないのかもしれません。

 

同じようなことが、高校生の大学選び、あるいは大学生の留学先選びにおいても言える気がします。 

 

次回以降の記事では、別の面からNUS内の施設や環境の違いを紹介しますが、それらを通じて感じたことは、大学を捉える時の軸も今まで以上に多様な軸で判断されるようになるだろうということです。 今後は偏差値や何かのランキングだけじゃない比較の基準をいくつか持つこと、大学それぞれの強みがどこにあるのかを理解すること、そのために自分で情報を集めることが、とても大事になっていくのだろうなと感じました。 

 

村田幸優(ゆきひろ)くん:東京大学教養学部からの交換留学で、シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)に留学中。高校2年生の時、模擬国連大会の日本代表として国際大会に出場。中高時代はワンダーフォーゲル部に所属して各地の山を渡り歩く。料理の腕前は誰もが認めるところ。

 

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