(2019年12月掲載)
インタビュアー:清水七緒さん(東京大学 後期教養学部 表象文化論コース 3年)
■ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)ってどんなところ?
ユニバーシティ・カレッジろロンドン(University College London:UCL )は1826年に設立され、11の学部と440のプログラムを持つイギリスの総合大学です。ロンドンの中心部に位置し、大英博物館が徒歩5分のところにあるなど、とても立地に恵まれています。
性別・宗教・人種などに基づく入学制限をイギリスで初めて撤廃した大学であり、キャンパスは多様な学生であふれています。約4万人の学生のうち半分近くが留学生であり、150か国以上から学生が集まります。
国際的な評価が高いことでも知られており、QS 世界大学ランキング2020で8位にランクインし、ノーベル賞受賞者を29人輩出しています。卒業生として、チャールズ・ダーウィン、クリストファー・ノーラン、マハトマ・ガンジー、伊藤博文、夏目漱石などが挙げられ、多方面での活躍がみられます。
■先生のプロフィール
ルワンダ出身。途上国の女性問題を関心の軸としてイギリスで修士・博士号を取得。現在はUCLでDepartment of Arts and Sciencesというリベラルアーツコースに所属しRace, Gender and Feminism (人種、ジェンダーとフェミニズム) の授業を担当しています。
■本日はインタビューを引き受けてくださりありがとうございます。まず先生の専門分野についてお聞きしたいと思います。先生がジェンダーと人種の問題に関心を持つようになったのはなぜですか。
自分がいかに恵まれているかを自覚したのが、この分野に関心を持つスタート地点でした。私の故郷であるルワンダは発展途上にあり、教育制度や男女平等に関して課題の多い国です。
ですが、その中で私は、女性の権利向上を訴えてきた先人達、そして理解のある家族のおかげで教育を受けることができました。自分がいかに幸運であったかを理解するつれ、学んだことを故郷に還元するのが自分の責任であると感じるようになりました。それが理由で、自分と境遇の似た途上国女性について研究をしています。
■なるほど、やはり自分のバックグラウンドが大きく影響しているのですね。故郷に還元する手段はいろいろあると思いますが、その中で今の大学教授というお仕事を選ばれたのはなぜですか。また、学生に教える上で意識していることはありますか。
まず、この仕事を選んだのは、ジェンダーや人種における平等を実現するには、教育がとても重要だと思ったからです。特にUCLは、グローバルリーダーを多く輩出する世界のトップ大学の一つです。そこの学生に、こういった問題について理解を深めてもらうことは、非常に意義のあることだと考えています。私の授業に来る生徒は、ジェンダーや人種に関する問題意識をすでに持っていることが多いので、対話を意識しつつ、一緒にこれからのことを考えるつもりで授業に臨んでいます。
■学生の問題意識の高さは私も授業を通して感じています。先生自身、黒人女性というマイノリティの立場で教壇に立っていらっしゃると思うのですが、その属性ゆえの困難はありましたか。
これはUCLだけでなく高等学術機関全体での問題ですが、やはりジェンダーや人種間での不平等はあります。例えば、女性や少数民族の教員は少ないですし、統計的に賃金格差もみられます。
ですが、UCLはこの問題に対して先進的な取り組みをしている大学だと思います。生徒は比較的多様性に富んでいますし、欧米中心主義的なカリキュラムを見直そうする動きも活発化しています。私が教えるRace, Gender and Feminism (人種、ジェンダーとフェミニズム)もその一つで、何年も要望し続けて今年やっと開講された授業なんですよ。
■そうだったのですね、記念すべき第1回の受講生になれて光栄です!
先生のおすすめする大学での勉強の仕方はありますか。
まずは、授業を休まないことですね(笑)。 きちんと出席してノートをとるのが、基本的ですが一番大事なことです。
また、親や友達ではなく、自分自身がやりたい!やるべきだ!と思うものを専攻にしてほしいですね。興味のある勉強会やサークルに参加してネットワークを作ることもオススメです。そうすると情報も入ってきやすいですし、ともに議論や活動ができる同志が見つかります。
■どれも本当に大切だと思います。
最後に、日本の高校生にメッセージをお願いいたします!
私自身、東アジアの情報や視点を共有してくれる日本人学生から多くの気づきや発見をもらいました。UCLは日本人が少ないので、もっと増えてくれると嬉しいですね。言葉の壁があると思いますが、それは私もそうでした。大学から本格的に英語を始めましたが、今はイギリスで教えることができているので、語学を言い訳にしてはいけません!(笑)
最近はテクノロジーの発達のおかげで、国をまたいだ情報収集やコミュニケーションが容易になっているので、それもうまく活用してもらいたいですね。
■取材を終えて
異国の地で性別・民族・言語の壁に負けずに活躍しており、人生の先輩として尊敬している教授と一対一でお話ができて、本当に光栄でした。ルワンダ出身の教員と日本人学生という、本来ならば出会わないであろう2人が、女性・少数民族というアイデンティティをきっかけに連帯できることに感動しました。また、それをもたらしてくれた留学という機会に、あらためて感謝したいと思いました。