世界へ”FLY”する東大生
~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ
登阪亮哉くん(東京大学)
(2017年3月掲載)
2015年に東京大学入学後すぐに「FLY Program」で1年間休学して、世界の幼児教育の現場を見学する旅に出た登阪亮哉くん。みらいぶでは、各国での出会いや教育機関の見学のレポートを連載してきました。
その登阪くんが、2017年1月に行われた大学生向けのビジネスコンテスト「キャリア・インカレ2016」(主催(株)マイナビMY FUTURE CAMPUS)に出場し、みごと初代チャンピオンに輝きました。登阪くんの参戦レポートと、高校生の皆さんへのメッセージをお届けします。
教育への貢献をビジネスプランに
先日、「キャリア・インカレ2016」という大学生向けのビジネスコンテストに参加し、優勝しました!
https://mycampus.jp/ci2016_finalstage/
ビジネスコンテストとは、参加チームが考案したビジネスプランを審査員の前でプレゼンし、そのプランの内容やプレゼンのわかりやすさを競うものです。
僕が参加した「キャリア・インカレ2016」は、協賛企業4社から「New Way, New Life」をテーマに1つずつテーマが出され、それらから1つを選んで新たなビジネスプランを考え、出場するというものでした。書類選考と動画選考を経て、各企業に直接プレゼンして企業ごとの代表を決める準決勝があり、最後の決勝は東京・六本木のニコファーレという大きな会場で行われました。決勝では、各企業の代表である4チームがプレゼンし、審査員による評価点とニコニコ生放送視聴者票の合計得点が最も高いチームを優勝となります。
僕が参加したきっかけは、友人であり、みらいぶプラスで連載もしている東京大学の下山明彦くんから声をかけられたことでした。彼がたまたまキャリア・インカレを見つけ、「教育に関するプランで出場してみないか」と声をかけてくれたのです。そこで、僕が教育について活動する中で知り合った友人である彦坂春森くんも誘い、3人で「edUTec」というチームを組んで出場することになりました。
僕たちは、教育についてはそれぞれ志や知識、経験を持っていましたが、ビジネスについては素人でした。そこで、ビジネス的に大きく成功しそうなものよりも、自分たちの強みである教育への貢献を前面に押し出したプランを作ろうと考えました。
そして、テーマの中でもっとも親和性が高そうなDNP(大日本印刷)という会社の、「DNPを使い倒して2021年のあたりまえを作れ」というものを選び、プランのアイデア出しを始めました。すると、DNPが思った以上に様々な事業に進出しているのがわかりました。その中で、特にICT教育への進出を盛んに進めようとしているのが感じられたので、そこにフォーカスしようと思いました。
実際に各国の教育現場を見た経験を、理想の教育環境のアイデアへ昇華させる!
僕は先進国を中心とした各国の、最先端の幼児教育を取材してきました。下山くんは、フィリピンとインドで子どもから大人まで幅広い年代に向けて日本語を教えてきました。また、彦坂くんは日本国内の最先端の幼児教室で実際に指導を行ってきました。このように、僕たちのチームは地域や年代、理論から実践まで、3人が多様な視野を持っていたことが強みにつながったと思います。
そして、それぞれの立場からICT教育が果たせる役割を指摘し合いました。また同時にICT教育の現状についても調べ上げました。すると、タブレットを用いた電子教科書が、その機能を活かしきれないまま実用化されようとしている現状に行き当たりました。
すなわち、電子教科書がタブレットなどのデバイスを使うのであれば、デバイスに内蔵されたインカメラを用いた視線の取得や、画面へのタッチ頻度の分析など、学習者についての膨大な情報を得る手段があるのに、それを活かさないまま教科書の電子化のみが進められようとしていたのです。
これに注目した僕たちは、電子教科書が学習者の情報を取得し、それを最適な教育に反映できるようなシステム、「LiNeW」を考案しました。
「LiNeW」の特徴は、具体的には以下の5点です。一つずつ説明します。
(1)認知特性に応じて最適な画面レイアウトを生成する
人にはそれぞれ、物事を理解する際のクセや得手不得手があります。例えば、写真の記憶が得意な人もいれば、音声記憶が得意な人もいます。LiNeWは、文章を読むスピードや問題の解き方のクセなどからそれを把握し、それぞれにあった教科書レイアウトを生成して、学習を効率化します。
(2)学習者のつまづきに即時的に対応する
これまでの学校教育は、大人数に向けて1人の先生が授業を行うため、授業の内容が理解できないと生徒はずっとそのまま置いてけぼりでした。それに対しては、あとで個別に先生に質問するなど、先生にも学習者にも負担の大きい解決策しかありませんでした。しかしLiNeWは表情の困惑や視線の停滞などから、つまづきを即時的に、原因まで把握します。そして、認知特性に基づく最適な手助けを行うことにより、置いてけぼりをなくします。
(3)学習者の好奇心を喚起する
好奇心は、学習のみならず人生における果敢なチャレンジの原動力ともなります。教科書はそれを喚起するために様々なトピックを扱っていますが、今まではそれを具体的なアクションにまで誘導する仕組みがありませんでした。LiNeWはアイトラッキング(※1)や画面の中のよく拡大されている部分などの傾向から、本人が気付いていない「好奇心の種」までも把握して、関連するトピックやその分野の情報を得る方法を授業の終わりに提示し、その好奇心を育てます。
※1 人間の視線の動きを追跡・分析する手法
(4)自分の成長をフィードバックする
人間の能力は学力などの数値化されるものに限りません。特にこれからの時代においては、集中力や好奇心、表現力など、数値化が難しい能力こそ重要になると考えられています。これらを個人別で評価するのはとても困難でした。LiNeWは、視線が集中している時間や、出題から解答までの時間などから、日々の小さな成長を把握します。そしてそれらの肯定的な評価を毎日提示し、学習者の自己効力感や個々の隠れた強みを育みます。
(5)学びの中でのコミュニケーションを促進する
教室での学びをデザインするのは先生です。これは学習計画が立てやすい一方で、生徒側から学びの場を設けることを困難にもしてきました。LiNeWは、意見を言いたい人や、みんなの意見を聞きたい人がいた時に、発言したり、場合によってはディスカッションを始めたりするように、先生と生徒双方にアプローチします。
これらを実現することで、僕たちは幸福に生きるために必要であると学問的に明らかにされた4つの要素、「やってみよう」「あなたらしく」「なんとかなる」「ありがとう」(※2)を身に付けてもらおうと考えたのです。
※2 『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 』前野隆司 (講談社現代新書)参照
「一番手ではない」という評価に逆に発奮!
このプランで、書類審査と動画審査を乗り越えました。企業の代表が決まる準決勝の直前に、DNPの方から直接フィードバックをいただく機会がありました。すると、自分たちが思った以上に自分たちのプレゼンは高く評価されていたことがわかりました。一方で、自分たちの弱みであるビジネス面を補おうとした結果、無味乾燥なプランになっているとの指摘も受けました。
「君たちは今のところ一番手ではない」…そういわれた帰り道、僕たちはむしろ奮い立っていました。夢物語に聞こえないよう、動画審査までは抑え気味だった、僕たちの教育への熱い想いを、ぶつけていいことがわかったからです。
フィードバックの直後に3人で打ち合わせをし、そもそも自分たちがどのような教育を理想とするかといったところから突き詰めていきました。
こうしてたどり着いた、より僕たちらしく、より緻密かつ壮大なプランを携えて準決勝に臨みました。
(続く)
第44回 ビジネスコンテストで優勝と視聴者投票のダブル受賞を勝ち取った!! その2
◇キャリア・インカレ HPはこちら
※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/
前回の記事を読む
第42回 FLY Programに参加するために東大を目指す、という選択
~1年間やりたいことに全力で取り組む経験から得られるもの
第40回 世界の幼児教育の現場から日本へのフィードバックを目指して