小坂真琴くん(東京大学教養学部1年)
(2016年8月取材)
国立劇場。そこは文化の殿堂というべき「聖地」である。
外観は正倉院の校倉造をモチーフにした落ち着いたつくりである。ロビーでも日本の伝統文化に触れることができる。正面玄関を入るとまず、球形の煌煌とした電飾と桜を散らした模様の絨毯が目に入り、正面奥には眼光鋭い木彫の鏡獅子が出迎える。2階には日本絵画の巨匠による作品が、作者本人の言葉を添えて陳列されている。3階にも、日本の伝統芸能を支えてきた著名人の胸像や歌舞伎役者の絵が展示されていて、荘厳な雰囲気を醸し出している。
劇場に入ると、独特の形に波打つ天井、歌舞伎の目線決定のために4つに1つ白く抜かれた赤提灯の列、そして重厚な緞帳が目に入る。1日目を1階で、2日目を3階で鑑賞したが、見えるものは全く異なり、やはりそれぞれの楽しみ方がある。
この殿堂で演技・演奏することを許されるのは、全国高等学校総合文化祭で優秀な成績を残したごく一握りの高校生たちだ。優秀校国立劇場公演では、公演当日に座席券が配られるため、開場時間のはるか前から老若男女が列をなしている。公演は運営も多くが高校生の手に委ねられており、玄関周りでは元気のいい挨拶の声が響く…。
「評価基準」から解き放たれた最高の演技
2日間の国立劇場公演を鑑賞しました。高校生一人一人から、この大舞台でパフォーマンスできることへの喜びと緊張感を感じました。すべてのパフォーマンスは、それが提供される場、提供される観客によって大きく変わります。高校生にとって、「文化の殿堂」たる国立劇場で、多くの観客から「日本トップレベルの成績を残した学校」としての期待を背負いながらパフォーマンスすることは、かけがえのない経験でしょう。
また、文化系の宿命として、「勝つ」ことを目標にすると、与えられた評価基準を考慮する必要があるかと思います。しかし、今回の演技はそうした外の評価をあまり気にせず、最高の劇場で自分のやりたいことをやる、見せたいものを見せる、というある種の解放感を感じました。また、本来ならば総合文化祭で引退となるところで、同じメンバーでもう一度演技できることへの喜びも感じました。しかし同時に、音量や臨場感で場を支配することが必要な演奏や演技において、やり慣れていない、いつもより大きな劇場はとてもチャレンジングな挑戦だったと思います。
あまり高校演劇や高校生の箏曲、伝統芸能に触れたことがない状態での鑑賞でしたので、トップレベルのパフォーマンスに、正直「こんなことが高校生でできるのか」という驚きと感動に何度も身を震わせていました。
みなさんにも是非一度、足を運んで、その一回に賭ける高校生の気持ち、最高のパフォーマンスに直に触れてみていただきたいと思います。