74年の気象観測の歴史の新たな1ページを開く! カメラの自動制御で正確な無人観測が可能に
チーム名:立川高校天文気象部
浜島悠哉くん、田中陽登くん、馬場光希くん(3年)、
安原拓未くん(1年)(東京都立立川高校)
(2021年3月取材)
カメラとRaspberry Piを用いた視程観測装置の自作
立川高校天文気象部では74年前から気象観測を継続しており、20年前までは視程観測を行っていた。視程とは、何km先まで見通すことができるかを表す気象用語である。
2年前に先輩が膨大な過去データの整理と分析を開始し、過去の悪視程と大気汚染との関連を明らかにした。同時に20年以上途絶えていた視程の観測を再開させたが、目視で毎日定時(8時・15時)に観測する大変さがあり、過去のような継続観測ができなかった。
そこで、目視に代わる新たな視程の観測方法として、Raspberry Piで一眼レフカメラを制御して定時に撮影を行い、遠隔操作が可能な装置を開発した。その後、得られたデータを分析し、視程の傾向と気象現象や大気汚染との関連について考察を試みた。また、視程を判定する人による差をなくし、作業の手間を減らすために、人の目で行っていた目標物の判定を深層学習により自動化することを試みた。
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■今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。
立川高校天文気象部では、74年前から気象観測(1日2回、気温や湿度、気圧など)を継続しており、20年前までは視程観測を行っていました。視程とは、何km先まで見通すことができるかを表す気象用語です。2年前に先輩が膨大な過去データの整理と分析を開始し、過去の悪視程と大気汚染との関連を明らかにしました。同時に20年以上途絶えていた視程の観測を再開させましたが、目視で毎日定時(8時・15時)に観測する大変さがあり、過去のような継続観測ができませんでした。そこで、カメラを用いた新たな観測方法を考えたいと思い研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。
カメラとRaspberry Pi(ラズベリーパイ)を使うというアイデアが出たのが2019年の夏で、そこから高校・高専気象観測機器コンテストに応募し、助成金を受けて装置の製作を始めました。そして、同年11月に提示撮影の機能を備えたプロトタイプを完成させ、屋外に設置しました。
その後、遠隔操作プログラムの制作や容器を新たに製作するなど改良を繰り返し、現在に至ります。深層学習による視程の判定は、今年の2月に着手しました。
■今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。
観測装置を屋外に置くにあたっては、夏の暑さや直射日光によって容器内の温度が50℃を超える日もあり、容器を変えてファンを取り付けるなど改良を重ねました。また、カメラによる撮影は露出設定を3段階にし、人の目に近づけるように工夫しましたが、画像から読み取った視程と目視による結果を一致させる難しさがありました。
もともと、目視による観測では、視力などの要因によって観測者によっても結果に差が生じるという問題があり、これが視程の判定の自動化をしようと思った理由の一つです。
COVID-19による休校期間中は登校できなかったため、目視観測を行えませんでしたが、休校前から画像データをクラウドにアップロードし、Slackを通じて遠隔操作できるようにしていたので、データを継続して得ることができました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。
プログラムはすべてPythonで自作しましたが、特に工夫したのは遠隔操作を可能にした点です。Slackというチャットツールを通じて任意の時間に観測(撮影)をできるほか、温度や空き容量など装置の状態が遠隔でわかるようになっています。
再起動時には、観測プログラムを自動で開始することで、停電などにより停止しても自動で復旧するようにしました。また、機能ごとにプログラムを分けることで、誤動作を防止し、不具合の原因特定を容易にしました。温度対策としては容器にファンを取り付けたほか、気温が基準値を超えると自動で警告をおくるプログラムも作成するなど、たくさんの工夫を凝らしました。
■今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことを教えてください。
今後も視程観測を継続し、大気汚染との関連を調査したいです。特に今年はCOVID-19の影響で大気汚染物質が減少していると考えられるため、それが視程に反映されているか探りたいと考えています。今回の研究では、スカイツリーに関してのみ深層学習を行いましたが、今後データ量を増やして精度を上げるとともに、ほかの目標物も学習させて視程の判定を完全に自動化することを目指しています。
第83回情報処理学会全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスター発表より
※立川高校天文気象部の皆さんの研究は、最優秀賞・中高生研究賞最優秀賞を受賞しました。