環境にやさしい伝統農法のメカニズムを解明し、持続可能な農法の開発につなぐ
チーム名:西阿波調査隊
池北昂広くん、小原すずかさん、川人尚子さん(徳島県立脇町高校2年)
(2021年3月取材)
土壌水分センサーを用いた伝統農法の効果の検証
私たちの住む徳島県西部の山間地には世界農業遺産に登録された「にし阿波地域」がある。そこでは古くから環境に負荷をかけない「傾斜地農耕システム」が営まれてきた。そのシンボルといえるものに「コエグロ」がある。「コエグロ」は秋に刈り取った「カヤ」を束ねて円錐形に積んだものである。「コエグロ」は土を育てる肥料に利用するほか、持続的な施肥効果、雑草防止、保水力、保温力、ミミズ・小虫・微生物などの養成、生物多様性の保全などその効果は多岐に渡る。
私たちはこの「コエグロ」の効果を科学的に証明することを目的に研究を行っている。今回はこの「コエグロ」=カヤの保水性に着目し、SenSprout社の協力をいただきリモートセンシング技術を活用し、土壌水分量を測定した。その結果、カヤを土壌に混ぜることで保水効果があり、水分が流れやすい傾斜地での効果が高いことが分かった。今後さらにデータを集めるとともに、他の効果についても検証したい。
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■今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。
阿波地域は、徳島県西部で四国の中央に位置しています。ここでのフィールドワークや農業体験に参加した際、世界農業遺産に認定されている「傾斜地農耕システム」に興味を抱いたことが、この研究のきっかけです。
段々畑を作らず、傾斜角40度にもなる傾斜地をそのまま畑として利用する「傾斜地農耕システム」は、刈り取ったカヤを束ねて円錐形に積んだ「コエグロ」を利用しているのが大きな特徴です。カヤには、土壌の浸食防止、保温性、病原体の増殖防止など様々な効果あることが確認されており、その中でも私たちは保水力に注目しました。カヤの保水力を、土壌水分センサーを用いて科学的に証明することで、伝統農法の伝承に寄与するとともに、生産性の低い農法が用いられている発展途上国などの地域においても持続可能な農法として活用できるのではないかと考え、本研究を始めるにいたりました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。
6月から12月までの7か月間です。
■今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。
データの収集中にセンサーの通信が切れ、一部の収集期間にデータの欠陥が確認されたため、データ抽出期間の見直しやデータ通信可能範囲でのセンサー設置位置の検討などに苦労しました。また、クラウド上にアップされる膨大なデータの取捨選択降水量の考慮には大きな時間を費やし、間違いが生じないようにデータ処理を行うのは困難でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。
傾斜地農耕システムの一つである「カヤの保水効果の検証」という地域性のあるテーマと、IOT技術の融合を図った本研究において、1時間に1回クラウド上にアップされる膨大なデータを、現地に行くことなく遠隔地から操作分析を行った点です。また、夏から秋にかけて合計約13000点ものデータを処理した点にも着目していただきたいと思います。
■今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことを教えてください。
今回の研究で、土壌水分センサーを活用し、傾斜地でのカヤの保水効果が証明されたことを踏まえて、農作物による土壌水分量への影響の有無や、傾斜の角度による水分量への影響について、本研究に用いた土壌水分センサーを活用して調査したいと考えています。
より実用的かつ汎用性に富む研究にするとともに、私たちの最終目標といえる生産性の低い発展途上国などの地域における持続可能な農法の開発、伝統農法の継承への寄与を実現し、世界共通の達成目標であるSDGsに貢献できるような研究を行っていきたいと思います。
第83回情報処理学会全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスター発表より
※西阿波調査隊チームの発表は、奨励賞を受賞しました。