(2017年8月取材)
■部員数 18人(1年生2人・2年生4人・3年生12人)
研究のきっかけは近年の地震被害
私たちは、東日本大震災や熊本地震をはじめとした近年の地震被害を受け、将来の地震被害を軽減したいと考え、この研究に着手しました。
昨年度までの研究では、短周期地震において「建築物の最上部を重くすると振動を抑えられる」ことが示されました。今年度は、特に高層ビルが弱いとされる「長周期地震においても最上部を重くすることが制振効果をもたらすのかどうか」について調べました。また、最上部の荷重を液体にすることで、さらに制振効果が得られるのではないかと考え、液体荷重を用いた場合の制振効果について調べました。
今回、作成した実験装置はこのようなものです。
1cm幅のプラスチック棒を柱として、高さ80cm、幅10cmで中央に木片を挟んだものをモデル建築物としました。
モデル最上部には様々な荷重を設置できます。モデルの土台に様々な振動数で揺らすことができる起震装置を設置しました。
これが振動させたときの動画です。
最初の実験では、固体荷重をかけた時の制振効果を調べました。一般に、建築物はある特定の振動数で加振すると、とてつもなく揺れが倍増され(共振と言います)、倒壊しやすくなります。
このような特定の振動数を「固有振動数」といい、建築物の高さや重さ、材質などによって決まります。
荷重をかけなかった場合のこのモデルの固有振動数は、1.16Hz(ヘルツ、回/秒)でした。よって、この実験では最上部に荷重をかけた上で固有振動数でモデルに加振し、その際の揺れの振幅を測りました。
結果、最上部の荷重が重いほど揺れの振幅は小さくなりました。
液体は固体より揺れを抑える傾向
次に、液体荷重をかけた時の制振効果を調べました。
固体荷重の代わりに水を満たした水槽をモデルの最上部に設置し、同様の実験を行いました。今回も荷重がない場合の固有振動数で加振しました。
結果、固体荷重と同様の傾向を示しましたが、液体荷重のほうが全体的に揺れを抑えることができました。
次に、固体で荷重をかけた場合の固有振動数で、固体荷重をかけた場合と、同じ質量分の液体荷重をかけた場合について揺れを測定しました。
私たちはこの場合、液体荷重が自由に動くことによって固体荷重よりも制振効果を発揮するのではないかと予想しました。
結果、ある荷重では液体荷重の方が劇的に制振効果を発揮したのに対して、ある荷重ではあまり変わりませんでした。
その原因を探るため、実験映像を観察しました。
水槽内の水の動きは、建築物の揺れの動きと一致せずに干渉し、揺れを抑えていることがわかりました。
しかし、液体の量によっては水の動きが土台の動きと一致することがあり、このときに大きな揺れを引き起こしてしまいます。
水と油の組み合わせで、より効果を発揮する
ここで私たちは、水の上に油を注ぐことを考えました。油は水よりも粘性が高いので、水の様な飛散を防ぐことができます。さらに、振動の仕方が異なる液体を重ねて層構造を作ることで、更なる制振効果が見込めるのではないかと考えました。
そこで、水と油を体積比1:1で水槽に入れた荷重を使って、荷重がない場合の固有振動数で加振する実験を行いました。
結果、固体荷重や水のみの液体荷重の場合と同様の傾向となり、水のみの液体荷重の場合よりもわずかに制振効果がありました。
さらに、固体荷重をかけた場合の固有振動数で加振する実験も、「水+油」の液体荷重で行いました。
この際、水のみの液体荷重で見られたような、液体の動きと揺れの動きが一致し、大きな揺れを引き起こしてしまう現象は起こらず、より制振効果が発揮されると予想しました。
結果、どの荷重においても水のみの液体荷重より揺れが抑えられていました。また水の場合に見られたような、特定の荷重で大きく制振効果が失われる現象は見られませんでした。
最後に、水で荷重をかけた場合の固有振動数で、水だけの液体荷重と「水+油」の液体荷重のモデルを加振しました。
結果、「水+油」の液体荷重では著しく揺れを抑えていました。このときの実験映像です。
今度は建築物の揺れの動きと水の動きだけでなく、油の動きがそれぞれ独立に動くことによって、お互いが複雑に干渉しあっている様子がわかります。
これまでの水荷重と「水+油」荷重についての全実験の結果をまとめました。どの場合においても「水+油」がもたらす制振効果は顕著でした。
地震時の建物倒壊を防ぐためのヒントとなる結果を得た
実験の結果をまとめます。
26~130gの固体質量荷重において、乗せる固体荷重を重くすればするほどモデル建築物の揺れは小さくなりました。
また、液体荷重を乗せると水槽内の波と建築物の揺れが複雑に干渉することで、最上部の揺れを小さくしました。
固体の各質量に対応した固有振動数において最上部の振幅の大きさは「固体荷重>水のみの液体荷重>水+油」の液体荷重の順に小さくなりました。
また、水の液体荷重に対応した固有振動数においても、水荷重の場合より「水+油」荷重の方が揺れは小さくなりました。これは、異なる液体の層構造が複雑な波を起こし、その干渉によって制振効果を発揮するためと結論付けました。
また、「水+油」荷重のモデルは挙動が複雑で、その固有振動数が不明瞭でした。
さらに、今回の実験装置では起こせる振動数に限界がありました。
今後の課題として、「水+油」を最上部に乗せた場合のモデルの固有振動数付近の性質を調べたいと思っています。
また、より幅広い振動数帯に対応するように実験装置を改良したいと思います。最終的には、より大きなスケールで実験した際にどのような結果になるのかについても詳しく調べていきたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
最近日本に地震が多く発生するようになり、その被害、特に建築物の倒壊を防ぎたいという思いから、この研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
休日やテスト前には活動は休みで、それ以外の日は、放課後に2時間程度(時には4~5時間のときもあります)活動しています。テーマの設定段階からは、1年と2か月ほどかかりました。
■今回の研究で苦労したことは?
地震動のモデルとなる振動装置の調整と、揺れの様子を記録した膨大な動画からのデータ処理です。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
モデル建築物の制震に水を用いたことと、さらに、水の上に油の層を乗せて、2層構造にしたところです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
「耐震・制震・免震が一番わかる(しくみ図解)」田村和夫 他 (技術評論社)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
クラブの活動として、後輩が地震動の建築物に与える応力の分布について調べています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
2年生になったら、課題を設定してテーマ研究を行い、春と秋にある県内の自然科学部門の大会で口頭発表を行い、また日本学生科学賞に論文を応募しています。1年生の間は、2年生の研究の手伝いをします。
■総文祭に参加して
今回の大会は、東日本大震災の被害を受けた宮城県において開催されるため、自分たちの研究につながる部分があり、大会前から自分たちの発表を聴いてもらうことをとても楽しみにしていました。大会ではレベルの高い発表を聴いたり、ポスターを見たりすることができ、自分たちの研究に対するモチベーションを高めることができました。他校との交流や審査委員の先生方からの講評を通して様々な視点からの意見を聞くことができ、非常に貴重な体験をすることができました。
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