(2017年8月取材)
■部員数 24人(1年生14人・2年生7人・3年生3人)
■答えてくれた人 今井春くん(3年)
うなり木の「回転運動」と「音」のヒミツ
うなり木とはオセアニアの伝統楽器で、ひもをつけた細長い木の板を振り回して音を出すものです。実際に回してみると、唸るような低い音を出しながら、回転面が移動することがわかります。これとは別に、うなり木の板部分自体も回転していることがわかりました。そこで、回している手の周りの運動をうなり木の公転、板部分が回転している運動をうなり木の自転と名付け、これらの運動とうなり木が出す音の性質を明らかにしようと研究を続けています。
予備実験でわかったうなり木の不思議
まず、うなり木に関する予備実験で、以下の現象を発見しました。
1.うなり木はどの向きでも自転を続ける
2.うなり木の自転が周期的に反転する
3.反転に伴い、うなり木の公転面も移動する
このような現象がなぜ引き起こされているのか、そしてそれがどのようにうなり木の出す音につながるのか調べるために、以下の4つの研究計画を立てました。
(1)自転を続ける理由を探る
(2)自転が反転する理由を探る
(3)公転面が移動する理由を探る
(4)音が鳴る仕組みを探る
まずうなり木の板部分が回転の方向にかかわらず自転を続ける理由についてです。扇風機の前に自由に回転できる木の板を設置し、その運動を撮影しました。
うなり木が回転運動を続けるのはなぜ?
板は最初に回転を与えた方向に自転し続けます。この様子から、うなり木の回転は向かってくる風の向きを変化させ、その風の力によって板の回転が更に勢いづくので最初に回っていた方向に回転し続けるという仮説を立てました。
この仮説を確かめるために、扇風機にビニールテープをつけ、風の向きの変化を調べました。回転板がない場合にビニールテープがまっすぐ伸びているのに対して、上向きに板が回転している場合は上向きに、下向きに板が回転している場合は下向きになびいています。
したがって、うなり木の回転によって風向きが変化していることが確認できました。
さらに詳しく調べるために、風洞実験により気流の流れを調べました。風洞とは気流の流れや作用を調べるために使用する、風が通り抜けるトンネルのような装置で、扇風機よりも整った気流を利用できます。
この実験に合わせて以下のような風洞を作成し、中にうなり木やうなり木のモデルを設置して、煙を用いて可視化した気流の流れを観察しました。
映像から、板が回転しているときにその後方部に渦が生じていることがわかりました。一般に、流れ込む方向の渦が生じている部分は低圧状態となっています。
したがって、先ほどの結果と合わせると、うなり木の回転によって向かってくる風は上向きに方向を変え、板後方に低圧部を発生させます。板は低圧部に向かって回転し、これによって自転が加速されると結論付けました。
うなり木の自転方向はなぜ反転するのか?
次に、うなり木の自転方向が反転する理由について調べました。予備実験から、うなり木は周期的に自転方向を反転していることがわかりました。これに関して、私たちは、ひもがねじれを解消する方向に働く力が反転現象につながると仮説を立てました。
板が自転するとひものねじれは大きくなり、ある時点で板の回転を促す力よりもひもが元に戻ろうとする力が大きくなり、逆向きに回り始めるというものです。
これを確かめるために、扇風機の前に白とピンクの2本のひもを用いた小型のうなり木を設置し、ねじれが可視化しやすくなった状態で反転の様子を撮影しました。結果は、ひもが逆方向にねじれ、板が回転を続けようとする力よりもとに戻ろうとする力が大きくなり、反転することが確認されました。
次に公転面が移動する仕組みについて調べました。これについて、風を受けながら自転するうなり木は自転による風向きの変化と逆方向に力をうける、と仮説を立てました。
この仮説を検証するために自由に回転する木の板を含む装置を電子天秤の上に設置し、扇風機で下向き(風源を左に反時計回り)に自転させました。この時、仮説通りに上向きの力が加わったなら電子天秤が示す重さは減るはずです。
結果、うなり木の回転数に応じて電子天秤が示す質量は減少しました。したがって、風を受けながら自転するうなり木は、風向きの変化と逆方向に力を受けることが確認でき、これが自転の反転にともなう公転面の移動につながっていると考えました。
音が鳴るポイントは「板」と「風」が平行になるその一瞬!
最後に、うなり木がどのように音を発しているのかを調べました。私たちは、風を受ける板の面が表から裏に変わる瞬間、音が板のどの部分から出ているかを確認するために以下の実験を行いました。
モーターで自転させている木の板を送風口の前に設置し、音声と映像を同時に記録しました。また途中でライターを着火させることにより、音声と映像に同時に目印をつけました。こちらが実験の様子です。
結果の音声がこちらです。風がない場合と比べて、風がある場合は周期的な音が発生しているのがわかります。
またライターの着火から数えて1,2,3回目の音が発生する時刻を確認し、この時の映像を調べました。
3枚とも板と風の向きが平行となっていました。また、1回転で2個の音が観察されました。したがって板と風が平行になる瞬間(1回転につき2回生じる)に音が発生すると考えました。
さらに、この音は板のどこから出ているのか調べるために、板の半分を切った状態で同様の実験を行い、音が出る瞬間の板の位置を確かめました。もし板の回転方向に対して左後方で音が発生するならば、これで振動数は半分になると考えました。
結果、板の向きに関わらず平行になったときに音が発生し、1回転につき2回音が発生しました。このことから、板の半分ずつがそれぞれ半分の音を発生させているのではなく、板全体が空気の流れを乱すことで音が発生していると結論付けました。
まとめ~うなり木の回転運動と独特な音との関係
これらの結果から、うなり木の運動を解釈しました。
うなり木を回すと、風の力により板部分が自転を始め、ひもにはねじれが生じます。この自転により板は回転方向上向きに力を受け、公転面の位置が決まります。時間とともに、ねじれによって回転は減速され、ねじれは解消されます。この時に慣性と風の力によって板は逆方向に回転を続け、自転が反転します。回転方向上方にかかる力は、自転が反転するとともに方向が反転し、公転面も移動します。これを繰り返しながら、うなり木は独特な音を出します。
今後は、うなり木の音と形や大きさの関係を突き止め、様々な音を発するうなり木を開発したいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
この研究テーマは先輩方が研究していましたが、当時、うなり木の自転回転数や振動数を調べるための機械が学校になかったため、研究を断念したのだそうです。現在はそういった環境があるので、私たちが引き継いで研究することにしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
週4日、1日あたり1.5時間で、1年と6か月くらいかかりました。先輩方が集めたデータがなかったので一から始めました。
■今回の研究で苦労したことは?
うなり木のモデル装置や実験用風洞など、実験で使用する装置を自分たちの手でつくることに苦労しました。特に風洞は、約38㎝×38㎝のわくに、何本ものストローをひたすら敷きつめて作成し、これは大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
研究結果をもとに、うなり木の動きの一連を説明しているのでぜひ見てください。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「回転凧はなぜあがるのか」大分県立豊府高校自然科学部(H27九州高等学校生徒理科研究発表大会熊本大会研究要旨録)
・「おもちゃの科学4」戸田盛和著(日本評論社) 「3.蚊トンボ凧」
■今回の研究は今後も続けていきますか?
私たち3年生は今回の全国総文祭で引退するので、ここでこの研究はおしまいです。もし続けられたら、低圧部の発生について詳しく調べて皆さんの前で発表したいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
活動時間は、月・火・水・金の週4日、17:00~18:30までで、自分たちが調べたいと思ったこと、先輩方の研究などから、自分たちでテーマを決め、グループに分かれて、研究活動をおこなっています。現在、研究をしているテーマは「メロディーパイプ」、「オイラーディスク」、「ドミノ」、「空気砲」の4つです。
■総文祭に参加して
入賞できなかったことはくやしいですが、全国大会という場で研究発表を行えたことや、高校生が研究することなのか?!と思うような発表をたくさん見ることができたことは、良い経験になったと思います。来年は後輩たちが出場して、面白い研究発表をしてくれると思うので、期待してください!
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