(2017年8月取材)
■部員数 3年生4人
■答えてくれた人 中村亮介くん(3年)
美しい水滴は、なぜ・どのようにしてはね上がる?
雨粒が水たまりに落ちるとき、水滴がはね返ります。水滴を落とす位置が高いほど、水面から高くはね返るように思えます。しかし、空高くから落ちる雨粒がどこまでも高くはね返ることはありません。このことを不思議に思い、水滴が水面からはね返る仕組みについて研究しました。
昨年度の「水滴から作られる水柱」がヒント
昨年度、本校の先輩方が水滴を落としたときに形成される水柱に着目し、落とす水滴の高さと水柱の性質について調べました。私たちは水柱ではなく、はね返る水滴に着目し、落とす水滴の高さとはね返る水滴の関係について調べ、水滴が水面ではね返る仕組みを解明しようとしました。
まず昨年度の研究で得られた、水滴を落とす高さと形成される水柱の高さの関係に着目しました。
グラフから、「滴下の高さが増えると水柱の高さも直線的に増加する」傾向が、ある値で突然減少していることがわかります。
昨年度はこの減少する点に着目し、その前後で、形成される水柱や、水柱が形成される直前にできる水面のへこみ部の形状が変わることがわかりました。
今年度、私たちはこのグラフの右端で、水柱の高さが収束へ向かっている傾向に着目しました。
そして、はね返る水滴の高さにも同じことが言えるのではないかと思い、「滴下する水滴の高さに連動してはね返る水滴の高さも高くなるが、はね返る高さはある程度で収束する」との仮説を立てました。
ハイスピードでの撮影
実験では、容器に一定の深さの水を入れ、ビュレットを用いて水を滴下し、水滴がはね返る様子をハイスピードでの撮影が可能なデジタルカメラで撮影しました。
滴下する高さは水面より2cmから40cmまで2cmごと、それぞれの高さにつき5回の滴下を行い、その平均値を取りました。
結果のグラフです。
水滴が水面からはね返る高さは、大きくなった後一定になっていること、滴下の高さ12cmから24cmにおいて、はね返る水滴の高さが特異的に大きくなることがわかりました。
したがって、水滴のはね返る高さはある滴下の高さ以上で収束するという仮説は、特異的な部分を除いておおむね正しいと結論付けました。
どこまでも高くはね上がらない理由は?
次に、なぜはね返った水滴の高さが収束するのかについて、「滴下した水滴の速度が収束するからではないか」と考え、検証を行いました。
もし水滴と水面の衝突が一般の物体と壁の衝突のように、反発係数で説明できるとすれば、はね返った水滴の速さは滴下した水滴の速さと連動して大きくなり、その速さが速いほど高くはね返ります。したがって、速さが一定になれば、はね返る高さも一定になります。
一般に、空気抵抗は落下物体の速度とともに大きくなるので、ある速さにおいて重力と空気抵抗力がつり合い、それ以上加速することはありません。この収束した速度のことを「終端速度」といいます。
雨粒程度の大きさであれば、空気中を落下する水滴に対する空気抵抗は、落下速度の二乗に比例します。落下中の水滴に働く力はこの空気抵抗と重力だけとして、運動方程式を立て解くことによって、終端速度に至る位置と時間を求めました。
この解によると、水滴が終端速度に至るまでの時間は、およそ6秒、それまでの距離はおよそ5.4mとなりました。
これは私たちの実験系よりもはるかに大きい値です。したがって、私たちの実験ではまだ水滴は終端速度に至っておらず、はね返った水滴の高さの収束には、それ以外の影響があると結論付けました。
表面張力と水滴のはね上がりの関係は?
次に私たちは、表面張力の影響について検証しました。表面張力は液体がその表面積をできるだけ小さくするように働く力です。滴下した水滴が水面に当たるとき、水面がへこんだあとに元に戻る様子から、表面張力によって水滴ははね返るのではないかと考えました。
水の表面張力は、洗剤などの界面活性剤を加えることで小さくすることができます。そこで、滴下する水滴と、滴下される水面のそれぞれについて
・純水(蒸留水)
・濃度の異なる洗剤を含む水(以下洗剤水)
の、前回行った実験を除く計3組の組み合わせについて滴下実験を行いました。
まず、純水を洗剤水の水面に滴下する実験では前回の実験とほぼ変わらない結果となりました。したがって、水面の表面張力はあまり影響がないと考えました。
次に、洗剤水を純水の水面に滴下する実験です。
加えた洗剤の濃度が1mL(水1Lに対して洗剤1mL、以下同様)の場合は変化が見られなかったのに対して、5mL、10mLでは、はね返りの高さが半分ほどに減少しました。
最後に、洗剤水を同じく洗剤水の水面に滴下する実験です。
同様に、加えた洗剤が1mlの場合は変化が見られず、5,10mlでははね返りの高さが半分ほどに減少しました。
結果は、洗剤を含む水を滴下した場合、はね返りの高さが小さくなっていました。
研究を始めて間もない頃に、「はね返る水は滴下した側の水なのか、それとも下に張った側の水なのか?」という素朴な疑問が生じたので、はね返った水滴の構成成分を確認するために、滴下する水と容器内の水の色を変えて滴下実験を行いました。
結果、はね返りの水滴を構成している水の大部分は滴下した水滴由来であることがわかりました。
この二つの実験から、滴下する水の表面張力が小さいと、その大部分が引き継がれるはね返りの水の表面張力も小さくなり、球状の水滴が形成しにくくなるために、はね返りの高さに影響を及ぼすと結論付けました。
今後の課題につながるヒント
また、最初の実験で見られた、特異的にはね返りの高さが大きくなる部分の原因についても検証しました。
撮影した動画を再度確認すると、同じ高さからの滴下でもはね返りの水滴の大きさにばらつきがあることがわかりました。また、大きくはね返っている水滴は、比較的に直径が小さいこともわかりました。
そこで、各動画のはね返った水滴の直径を計測し、グラフ化してみると、滴下の高さが12cmから24cmの間にはね返った水滴の直径が、比較的に小さい部分があることが確認できました。
この原因について、水滴は形状を変化させながら落下するため、水面に達する瞬間の形状が滴下の高さによって異なるためではないかと考えています。
しかし、はね返りの瞬間を動画で撮影することは私たちの実験系では難しく、今後の課題となっています。
また、衝突時の音を録音し分析することも考えています。
まとめると、水滴を落とす高さとはね返る水滴の高さはある程度までは連動し、その後はね返りの高さは収束することがわかりました。
また、はね返る高さの収束は、滴下した水滴の落下速度の収束が原因ではありませんでした。
滴下する水滴の表面張力が小さいほど、はね返りの高さが小さくなり、またはね返った水滴の直径が小さいほどはね返りが大きくなることもわかりました。
今後の展望として、はね返りの高さと粘性などの性質の関連についても調べていきたいです。
また滴下した水滴の大きさを正確に揃えるため、実験系の改善を図りたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
研究グループを結成した当初は別のテーマで研究を行っていましたが、研究が上手く進まず、困っていました。そのとき、1年先輩の校内での課題研究の発表を聞き、その内容に興味を持ったことが研究の始まりです。
先輩方の研究をそのまま継続しようかとも考えましたが、先生から「水柱の形状や形成過程が非常に複雑で解析に苦労していたので、もっとシンプルにはね返った水滴だけ注目してはどうか」との助言を受け、対象を水滴にしました。水面に固形物体を落とした場合の水のはね返りに関する研究は多く見られますが、水滴と水面の組み合わせはなかなか見つけることができなかったので、自分たちがチャレンジをしてみようと思いました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
先行研究である本校の先輩の研究は3年前から始まっていました。私たちの研究自体は、私たちが1年生の終わりから始まり、およそ1年半の期間研究を行いました。研究は、本校の学校設定科目「スーパーサイエンス」の時間(毎週水曜の午後3時間)を中心に行いましたが、時間が足りないので、他の曜日の放課後にも、週計算で3、4時間程度の時間をかけました。もちろん、発表会前には、毎日発表の練習や準備をしました。
■今回の研究で苦労したことは?
研究では「動画の撮影→動画の再生→静止画として保存→静止画上での計測」の手順でデータの解析をしました。画面上の画素数を測って比例計算から高さなどの量を算出するという単純な作業の繰り返しが途中くじけそうになりました。撮影する度にデータを処理したので、作業中はあまり感じませんでしたが、最終的には保存した静止画像がおよそ950枚にもなり、膨大な量のデータを処理したことに驚いています。また、研究対象が難度の高い流体に関するものであったため、理論的な裏付けをしようと心がけましたが、結局不明瞭なまま研究を進めることになってしまい、客観性を保つのが難しかったことが悔やまれます。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
微分方程式など論理的に難しい箇所については、途中の計算過程はわからなくても結果だけがわかるような構成にしました。また、スライドに動画ファイルを挿入し、発表の中で動画を再生したり、必要に応じて一時停止やリピートをしたりすることで、実際に起こっている現象がどのようなものなのか、水滴や水面の状態が実際にはどうなっているのかがわかるようにしました。
終端速度を得るため高度については、シミュレーションでは水滴の滴下の高さ水面から5.4mとなり、実際に実験をして確認することが難しくなりました。
はね返った水滴の高さは、私たちの仮説のように、だんだん高くなりながら最終的に収束するのではなく、一度高くなってから少し低い高さで収束していくことがわかりました。また、はね返った水滴の大きさが異なることが動画を解析しているときにわかったことは驚きでした。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「水琴窟の音響機構の解析的研究」渡部由雄 (2004)
http://www.suikinkutsu.com/bunken.htm
・「ハイスピードカメラによる動画集の公開とミルククラウン現象の観察」
長谷川誠、川原宗貴、俵谷邦仁朗、花森壮介、平澤梓(物理教育学会年会物理教育研究大会予稿集 29(0), 2012)
・「水面に形成される水柱に関する研究」松山南SS水滴班(2015)
・「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい流体力学の本」久保田浪之介(日本工業新聞社)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
私たちは3年生で、今後は大学受験に向けて勉強をしなければならないので、この研究を続けるのは難しいと考えています。しかし、理論的な検証を手つかずのままで終わることはとても心残りなので、大学に行った後も折を見て研究ができたらよいとも思います。研究対象は異なりますが、先輩から引き継いだ研究であり、今後の展開も期待できる内容なので、できれば後輩に継続してほしいと強く思っています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
ふだんは、学校設定科目「スーパーサイエンス」の時間を中心に実験や考察を行っていますが、週1日3時間では足りないので、放課後も利用して活動しています。また、今年度は物理部にも所属し、物理チャレンジなどのコンテストにも参加できるようにしましたが、実際には部員が少なく、活動がままならない状態です。
■総文祭に参加して
どの研究もテーマの設定や実験を鋭い切り口で進めており、私たちがふだん考えたこともないようなことに気付いたり、考察などに活かしたりしており、興味深い内容ばかりだったと思います。研究発表やポスター発表を聞けば聞くほど、「あれも聞いてみよう、これも聞いてみよう」と頭の中からあふれ出てきて、大変有意義な時間を過ごせたと思います。それに加えて、質問した私たち自身でも後で思い起こすと「?」と思ってしまうような質問に対しても、丁寧に答えていただけたのがとても嬉しかったです。最初で最後の総文祭への参加でしたが、とても充実した時間を過ごすことができ、大変よい経験ができました。
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